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49テロ2


 麗華たちを乗せた月からの旅客宇宙船も琴音を乗せた旅客宇宙船も無事羽田に到着した。


 旅客宇宙船を降りた面々は各々荷物の受け取りコーナーに向かった。琴音自身はどこに荷物の受け取りコーナーがあるのか分からなかったが何となく他の乗客の流れに乗って歩いていたら、知らぬ間に荷物の受け取りコーナーに到着してしまった。琴音が迷わなかったことは奇跡なのかもしれない。




 麗華たちと琴音の乗った便の到着時間は5分も離れていなかったため、麗華は荷物の受け取りコーナーでまごまごしていた琴音を簡単に見つけることができた。


 ベルトコンベヤで運ばれてきた荷物を受け取り、三人揃って空港の玄関に向かう。


 代田は荷物を運びながら、麗華の自宅まで迎えに来るよう琴音の実家にスマホで連絡している。こういったことは、無想家ではよくあるようで、代田も良く知る無想家の執事から、何も聞き返されることもなく「お嬢さまをよろしくお願いします。3時間ほどでお宅に迎えに参ります」とのことだった。


 空港の正面玄関近くに麗華たちを迎えにリムジンが迎えに来ているはずである。もちろん麗華の手は琴音にがっちり握られているのでかなりウザいのだが、麗華はもう少しの辛抱とここはじっと我慢している。


 3人でキャスター付きのスーツケースを転がしエスカレーターで1階に下り正面玄関に向かって歩いていたら、2階の空港ロビーの奥の方から爆発音が何回も轟いた。1階の方は明かりが消えただけで今のところ直接の被害はないようだ。爆発音を最初に聞いた段階で麗華の体内スイッチが入った。


 遠くの方から悲鳴や泣き声のような音が聞こえてきた。


「お嬢さま」


「代田、行くわよ」


 麗華はキッ! と、2階の空港ロビーの方を睨んでいる。


 こうなってしまった麗華を止めることは無意味と思った代田は麗華に速やかに立ち去り安全を確保しましょうと言う代わりに、


「琴音さま、申し訳ありません。荷物をここに置いていきますので決してここから離れないようお願いします」


 いちおう杖術の達人の琴音である。ここから動いて迷子になりさえしなければ何かあっても対処できるだろうという代田の判断である。


「どう見ても今の爆発はテロよね。実行犯がどこかにいるかもしれないわ。2階に上がって様子を見てみましょう。琴音さん、ここにいてね」


「麗華ちゃんは、大丈夫なの?」


「いろいろあって、大丈夫」


 何がいろいろなのかは琴音にはわからなかったが、自信満々の麗華にうなずき、


「荷物は見ておくから、ケガをしないよう頑張って」


 そう言って麗華たちを送り出した。琴音は一人で移動することは大の苦手だが、一人でその場に留まることは得意?だった。




 止まってしまったエスカレーターから人が何人も駆け下りてくる。中には手や顔に傷を負って血を流している者もいる。


 その人の流れに逆らって麗華と代田がエスカレーターを駆けあがると、吹き抜けの空港ロビーの天井に取り付けられた照明など消えており自然光だけの明かりでやや薄暗い中、モノレールへの連絡口方向に向かって逃げまどう人と、頭を両手で守るようにしてうずくまってしまった人たちがいた。ここでも多くの人が手や顔から血を流している。もちろん床にはガラスの砕片などが散らばっている。


 発着ロビーのゲート方向から爆発物特有の臭いが漂ってきていた。


 麗華は辺りを見渡し、人の流れの反対側へ進んでいった。


「何か得物になるようなものが欲しいわね」


「それでしたら清掃用のモップの柄がよろしいのでは」


「そうね。でもどこにあるのかしら?」


「だいたいああいったものは通路のトイレの中の用具入れに収納されています。あっちの方に行ってみましょう」


 代田に続いて麗華が食堂街のような通路を抜けてその先の行き止まりまで速足で進んでいった。店舗のガラス製の見本ケースやガラス製の通路との仕切り壁などは店舗側に割れているので、ガラスの破片などは通路側には転がっていないので、ガラスの破片のような尖ったものは落ちていないようだ。そのかわり、天井の石膏製の建材などが外れたりしたものが通路に落ちて割れたりしている。


 障害物をよけながら通路を進んでいくと通路の両脇に並ぶ店舗の中からうめき声が聞こえてきた。爆発の衝撃で割れたガラスなどで負傷して歩けなくなったのだろう。助けてやれればいいが今は無理そうだ。


 そういったうめき声を無視して通路の先まで進んでいったところで、トイレがあった。代田が、


「私が入ってとってまいります」


 男子側のトイレに入っていった用具入れの扉を力尽くで開けてたら、そこは小さな洗い場の付いた用具入れになっており、モップやほうき、塵取りなどが片付けておいてあった。



 トイレの中から代田が、外で待つ麗華に向かって、


『お嬢さま、ありました』


「代田、モップってある?」


『はいあります』


「わたしはそれでお願い」


『2本ほどありますのでお持ちします』


 代田がモップを2本持ってきた。どちらも同じだったので、麗華は1本手にした。


「予備もあった方がいいでしょうから、私が1本持っておきます」


「代田、片手がふさがっていて大丈夫なの?」


「片手さえ相手にかかってしまえば何とでもなりますので」


「そう言えばそうだったわね。じゃあ、行きましょ」


「はい、お嬢さま」



 麗華たちが準備らしきものを終えたところで、先ほどまでいた空港ロビーあたりから小銃の連続した発射音と悲鳴が聞こえてきた。


 テロリストの目的は何かわからないが、とにかく排除しなければ犠牲者が増えていく。



 麗華と代田はやや腰を下ろして、ロビーの方に戻っていく。



 ロビーを見渡せるところで立ちどまり、ロビー全体を見渡すとロビーの中に迷彩服を着た男が3人立っているのが見えた。中の一人がときおり天井に向かって小銃を撃っている。どうもその男の近くには人質もいるらしいが、人質の姿は麗華の位置からでは確認できなかった。


「ここからじゃ丸見えで近づけないわね。どうする?」


「距離もありますから、これは厳しいですな。何か投げつけてみますか? ある程度重い物なら全員は無理かもしれませんが、1人、2人は倒せるかもしれません」


「わかったわ。何か投げるのに都合のいい物ってあったかしら」


「このモップでしょうか」


「全部で2本。やってみるわ。3人目は倒せないから2本目を投げたらいったん引きましょう」


「お嬢さま、モップの頭の部分が邪魔ではありませんか? モップの布は金具を緩めれば簡単に外れると思います。どれ、……、外れました」


「それじゃあ、一番近くの男からいくわよ」


「はい、お嬢さま」


 3人の男たちの視線が外れたところで、麗華が通路の真ん中に躍り出て、モップを槍投げよろしく振りかぶって30メートルほど離れたところで後ろを向いていた男に投げつけた。麗華は投げたとたんに男たちの死角となる通路の脇に退いている。


 麗華の投擲したモップは持ち手を前にして、低い角度の放物線を描いて、狙った男の後頭部に命中した。男は顔から床に突っ伏して動かなくなってしまった。


 大きな音を立てて男が床に倒れたため残りの2人が振り向いた。そのうちの一人が倒れた男に近寄って、しゃがみ込んだところを、麗華がまた布を取り外したモップを投擲した。


 今回のモップはしゃがんだ男の側頭部に当たった。男は倒れなかったが頭を抱えてうずくまったまま動かなくなってしまった。


「お嬢さま。見事な腕前でしたね」


「代田、いったん引くわよ」




「身体能力が上がるとコントロールも良くなるのね。2回とも外れる気がしなかったもの。

 あと一人だけどどうする?」


「残りの一人をこの通路におびき寄せて、入ってきたところを仕留めましょう」


「どうするの?」


「私がロビーの出口辺りの床で倒れたフリをして寝ていますから、お嬢さまは少し離れたところでそれらしい音を立てていただけますか?」


「わかった。やってみる」


「お嬢さまが、音を立てて、男が反応するようでしたら私がお嬢さまに合図しますので、小銃で撃たれないよう、お嬢さまも倒れたフリをするか、物陰に潜んでおいてください」


「了解」



 代田が通路に寝転がり、麗華も代田の作戦通り通路の奥に移動してまだ割れずに残っていたガラス窓を足で蹴って大きな音を何回か立てた。



 代田が床から薄目を開けてロビーを観察していたら、最後の一人が小銃を構えて近づいてきた。





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