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16駐日アギラカナ大使館1

16駐日アギラカナ大使館1




 ソーラー・クルーズの役員会が終わり、今は、麗華と一条が社長室でくつろいでいる。


 一条は自分の副社長室は不要と言っているため、ソーラー・クルーズの社内に一条の部屋はない。自分の部屋がない代わりに、ソーラー・クルーズに用事があれば、麗華の社長室を使わせてもらっているので、役員会の前後には二人が社長室にいることが多い。もちろん代田は入り口横で控えている。


「一条さん、この前わたしが自分で焼いたクッキーなんですけど大使館の皆さんでどうぞ」


 そういって一条に大きな紙製の手提げに入った包みを手渡す麗華。


「宝蔵院さんはお菓子作りが出来るんだ。出来る人って何でもできるのね」


「そんなことありません。たまたま今回作ったクッキーが上出来だったものですから一条さんたちアギラカナ大使館の方たちにも食べてもらいたくて」


「へー、そうなの。それじゃあありがたくいただいちゃうね。ありがとう麗華ちゃん」


「あら、麗華って呼んでくれるんですね。うれしい」


 なんとなく会話が百合百合しくなってしまったのでちょっと戸惑う一条。


「それじゃあ、お礼しなくちゃいけないわね。麗華ちゃん何か欲しいものある? 大富豪の法蔵院のお嬢様にはそんなもの無いかな」


「それでしたら、アギラカナ大使館の中を一度拝見させていただけませんか?」


「そんなのでいいの? 大使館の上の方はアギラカナの人達の専用階だから私以外は入れないけど、それ以外だったら問題ないわよ。何もないところだけど、今からでも一緒に行く? えーと代田さん? ご一緒にどうぞ」


「ありがとうございます」


「それじゃあ、私が乗って来た大使館の車で行きましょう。麗華ちゃんの車は後ろについてこさせて。着いたら大使館の駐車場に車を入れとけばいいわ」



 麗華たち3人は、ソーラークルーズの入ったビジネスビルを後にアギラカナ大使館のセダンで大使館に向かっている。


「一条さんはどちらにお住いですか?」


「私はアギラカナ大使館の9階に部屋があってそこに住んでるの。食事も大使館の中だと好きなものが好きな時に食べられてしかも無料なのよ。一番上の10階にはプールやサウナにトレーニングジムなんかもあってそこらのフィットネスなんか目じゃないわよ。展望浴場もあってそこから見える富士山は格別よ」


「すごいんですね。アギラカナの人たちってどんな人たちなんですか?」


「そうね、一言で言うと、嫌みなほど美男美女? みんな親切でいい人ばかりだけどね。それと、何でかわからないけどみんな日本人顔してるわ。宇宙から来た人たちなのに不思議よね」


「わたしの見たことあるのは、あのすごい美人の4人だけですけど、他のアギラカナの人達もそうなんですね」


「あの4人はまた特別よ。先輩の直属の部下だもの。先輩って言うのは山田代表のことなの、外では山田代表って呼ぶように言われているけど、この車の中なら平気。この道は、大使館の横にある物流センターで貨物宇宙船に積み込む荷物を運ぶトラックが多くて結構混むのよね。それに、最近は市民団体とかのデモがあってほんと困るのよね。市民団体ってことは国民の団体じゃないってことなのよ。最近分かったわ。持ってるプラカードや横断幕に日本人の私じゃ読めないような文字が書いてあるもの。すぐに警察が来てくれてデモが解散されてるからきっと無届けデモなのよ」


 車の中から見上げるアギラカナ大使館の建物は、黒みがかった偏光ガラスに見える外壁が陽の光を反射していた。10階建てのはずだが思った以上に高さがあり、敷地も広い。


 眺めているうちに3人を乗せた大使館の車がアギラカナ大使館の車寄せに到着した。


「運転手さん、後ろの車は法蔵院さんの車だから一緒に駐車場に連れて行って面倒見てあげてね」


 車から降り立つと、目の前が大使館の玄関なのだが扉は開け放たれている。中に入る瞬間、生体情報が読み取られる仕組みで、ステルスモードの監視ドローンが個別にその人物を監視するのだが、もちろん一条はその情報を知らされていない。代田だけは周りをきょろきょろ見回しているところを見るとドローンの気配を感じたのかもしれない。


 玄関のすぐ脇はエレベーターホールになっており、その先に見える1階フロアは天井が高いだけのがらんとした空室だった。


「1階から、6階まで今のところがらんどうなの。1、2階はテナント用にと思って作ったらしいけどこんなところにお店を開きたいようなもの好きはいないと思ってそのままにしてるのよ。7階がわたしのオフィスになっているからエレベーターでそこに行ってみましょう」



 こちらは、大使館8階の山田の執務室。山田の秘書室長を務めるアインが山田に報告をしている。


「艦長、先ほど一条さんが連れてこられた方の生体情報を入館時にいつものように取得したのですが」


「なにかあったか?」


「はい。二人連れてこられたうちの若い女性の方の生体情報を確認したところ、アーセン人の遺伝情報が艦長に次ぐレベルでした。おそらく、若年のため艦長候補から外されたうちの1人と思われます。艦長に発現している特殊生体器官は彼女には発現していないようですが、ある程度身体能力が向上している可能性が有ります」


「ほう、それは興味があるな。名前は分かるかい」


「はい。3週間ほど前に、一条さんと接触した法蔵院麗華さんという方で、一条さんの警護をしていた者の話によりますと一条さんとの接触を阻止する必要を感じなかったそうです」


「ふうん。只者ではないってことだな。一条のことだからここに連れて来たいというかもしれないから、その時は連れてこさせよう。それと、何かの役に立つかもしれないから、今つけている監視ドローンはそのまま彼女につけておこう」


「了解しました。法蔵院さんの監視ドローンは今後私が担当します。何かあれば艦長にご報告します」


「よろしく頼む」



 一条たち3人がエレベーターに乗り込むと、そのままドアが閉まって直接7階に到着してしまった。一般の大使館員の行き先は1階と7階しかないので当然である。8階より上に行くためには、別の専用エレベーターを使う必要がある。


 だだっ広いオフィスルームの中に衝立で仕切られた区画が有り、その中にビジネス机が並べられ、10人弱の男女が真面目な顔をして仕事をしていた。みな、きびきびと動作が軽く生き生きしているように見える。一条が帰って来たのを認めると、気付いたものは軽く彼女に会釈する。


「ここで働いているのはほとんどというか、今のところ全員日本政府からの出向者なの。いままで、国会答弁なんかで意味もなく遅くまで仕事してたそうよ。ここだと、好きな時に来て好きな時に帰っていいから楽なんだって。わたしとしても、指示したことがちゃんとできていれば言うことないからそれはそれで楽よ。ここに来てる人は出身省庁にそのうち帰っちゃうらしいけど、帰ったらそこで相当出世するみたい。それもあってかみんな張り切ってるわ」


「わかります。アギラカナへ出向となると相当のエリートの方たちなんでしょうね。法蔵院グループでもできれば、こちらに出向させたいくらいです」


「そのうち日本政府関連以外の業務も増えてくるでしょうから、その時はお願いするね。ちょっとまってて、麗華ちゃんたちを上に連れて行ってもいいか聞いてみる」


 一条がポケットからカードを取り出しそれに話始めた。そのカードはスマホのような物らしい。


『アインさん? わたし、一条。いま先輩いる? ……、先輩、一条です。今7階にいるんですけど、法蔵院グループのお嬢さんが来てるんです。一緒に連れて8階に上がってもいいですか? はい、それじゃあ今から上に上がります』


「麗華ちゃん、許可が下りたから、8階に行ってみましょう。おそらく、先輩と私以外の地球人で8階に上がるのは麗華ちゃんたちが初めてだと思うわ。ここの7階にいるみんなも一度も上に上がってないもの」


「そうなんですか、ほんとにわたしたちが行ってもいいんですか?」


「ここは、先輩がいいって言えば、なんでもOKなの、それに、私が言えばトンデモないことじゃなければ先輩は大抵OKしてくれるのよね」



 7階まで昇って来た時とは違うエレベーターに乗って8階で降りる一行。この階も大分殺風景だが7階よりはましだ。特徴は天井が見上げるほど高いことだ。


「なんだか、映画に出てくる宇宙船の中みたいですね」


「私も最初にそれを言ったらその通りだって。ここは実際宇宙船なんだって言われたわ」


 物珍しさに辺りをきょろきょろ見回す麗華と代田。


「こっちよ。……ここがアギラカナ代表、ミスター山田の執務室。先輩に向かってミスター山田って言ったら機嫌が悪くなるかもしれないから言わないでよ」


 そう言いながら執務室のドアを開けずんずん先に進む一条。彼女を追って麗華と代田が後に続く。

「一条、お客さんのようだが紹介してくれるか?」


 詰襟の黒っぽい服を着たアギラカナ代表、山田圭一が席から立ち上がって3人を迎えた。



【補足説明】

 アイン

 ミスター山田に付き従う4人の美女のうちの一人、アギラカナ艦長付秘書室長。もとアギラカナ陸戦隊曹長。


 特殊生体器官

 約半年前にアギラカナが地球上に散布したナノボットが条件を満たした人物だけに発現させた生体器官で、その生体器官を有する人物の精神安定、治癒能力向上、身体能力の飛躍的向上がなされる。地球人類ではアギラカナ代表山田圭一にのみ発現が確認されている。



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