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12麗華、料理に挑戦2、お菓子編

12麗華、料理に挑戦2、お菓子編




 少し休憩を取ってすっかり元気になったお嬢様、彼女の挑戦はさらに続く。


「わたしもだいぶ料理に慣れてきたから、次はお父様に頂いた食材で筑前煮に挑戦してみるわ」


「お嬢様、旦那様に頂いた食材は、料理長の宮本に任せて、ケーキやクッキーに挑まれてはどうですか。剣道の部活やアルバイトで疲れた爺咲(やざき)君の体は甘いものを求めているはずです」


代田(しろた)、あなたいいこと言うわね。それじゃあ、イチゴをふんだんに使って豪華なデコレーションケーキでも作ってみようかしら。大きければ見栄えもいいでしょうし」


 代田の機転でなんとか頂き物の高級食材は救われたようだがお嬢様はとどまることを知らない。


「それはそうでしょうが、ここは無難にクッキーなどお作りになられてはいかがですか」


 さすがは法蔵院家次席執事の代田、ダメージが小さい方へ小さい方へと巧みにお嬢様を誘導していく。


「それだと何だかみみっちくならない?」


「そんなことは有りません。お嬢様の手作りこそ何よりも価値が有りますから。それよりお嬢様、宮本料理長に教わりながら作ってはどうですか」


「宮本に教わりながらだと、自分で作ったことにならないじゃない」


「現にお嬢様も料亭で作ってもらったお弁当を()()()()したじゃありませんか。『聞くは一時の恥、聞かぬは一生の恥』とも言うでしょう」


「代田、それは一般人の話よ。わたしはね『聞くは一生の恥、聞かぬはそのときの我慢』って思ってるの。でも、あなたがそこまで言うんなら、宮本が横で黙って見てるくらいならいいわよ」


「残念なことに料理長は食材の買い出しで不在ですから料理は明日にしませんか」


「宮本がいないならそれはそれでいいわ」


「お嬢様、料理長が帰るまでお待ちになった方が宜しいかと思いますが?」


「何言ってるのよ、たかがクッキーじゃない。そんなの私にかかればチョチョイのチョイよ」


 どこから出てくるこの自信。


 代田ではもはやここまで。ついに代田もお嬢様をお止めすることかなわじと断念してしまった。どんな代物が出来ようと、クッキーの材料などたかが知れてるだろうからそこは諦めよう。厨房の中の何がどうなろうと、後でちゃんと謝っておけば料理長も許してくれるだろう。



 そんなこんなで、厨房にやって来た麗華と代田。二人ともそろって白い割烹着を着て頭に白い三角巾を巻いている。


 お嬢様の割烹着姿が初々しく名前通りに華麗に見えるのに比べ、出来る執事、代田の割烹着姿が痛々しい。とくに、格闘術を極めた代田のタカのように鋭い目つきとオールバックにきっちり固めた頭髪を覆う三角巾のアンバランスさが異様である。


 その姿を見たお嬢様は口元をキッと結んでいる。これは笑い出したくなるのをこらえているのだ。一度息を整えて、笑いを収め代田に指示を出し始める。


「代田、材料を言うからからそこらへんから探して持って来て。

 クッキーだから、まずは小麦粉よね。代田、あそこにあるみたい、そうそれそれ」


「お嬢様、強力粉きょうりょくこ薄力粉はくりょくことありますがどちらですか?」


「代田、それは強力粉きょうりきこ薄力粉はくりきこって読むの。覚えておきなさい」


「それで、どちらをお持ちしますか?」


「そこは強力粉きょうりきこでしょう。剣道に励む爺咲君に作ってあげるんだから」


「なるほど」


 代田には、強力粉と剣道の関連はよく分からないので適当にうなずき、強力粉の袋を麗華の前の調理台の上に置く。


「あとは、砂糖にバター、それに卵も必要かな」


 次々とクッキーの材料が調理台の上に並べられていく。

 薄茶色のきめの細かい砂糖、フランスの有名な産地の名前の付いたバター、茶色っぽい少し小さめの玉子。


「お嬢様こんなところですか?」


「そうね、あとは、上にのっけるアーモンドとかそんなもの無いかしら?」


「ちょっと見当たりません」


「そう、だったら疲れた体に梅干しなんかどうかしら」


「それはいい発想ですね。梅干しはここにありました」


「調理台の上に置いといてちょうだい」


 大きな壺が調理台の上に置かれた。中には形の揃った大きな梅干しが入っている。やけに高級そうな梅干しだが、そもそもこの厨房に高級、高価でないものは置いていないので今さらだ。


「それじゃあ、ボウルに材料を入れて混ぜていきましょう」


「お嬢様、お菓子作りは重さなどもきっちり(はかり)で計ってレシピ通りに作らなければいけないと聞いたことが有りますが」


「代田、何言ってんの。格闘術を極めた代田の名が泣くわよ」


 料理と格闘術の関連性について首をかしげる代田をよそに、麗華は強力粉の入った袋をボウルの上に持っていき中の小麦粉をボウルの中に無造作に振り入れていく。


「この袋は1キロ入りだからこのくらいかな」


 結局強力粉の中身が2袋分ボウルに入ったようだ。


「次はバター。1かたまりが200グラムだから4つくらいでいいわね。代田、あなたバターが柔らかくなるまでそこのすりこ木でバターと小麦粉を混ぜながら練ってくれる」


 ボウルがぐらぐらするので片手でボウルを押さえて片手で大き目のすりこ木を使い一生懸命バターを小麦粉に練り混ぜる代田。これは一般人ではとてもできない重労働なのだがこの程度は鉄人代田にとって朝飯前である。

「お嬢様、こんなところでどうでしょう」


「いい感じよ。次は、砂糖と玉子ね。砂糖はこのくらいでいいか。でも疲れた体には甘い方がいいわよね」


 フンフン、フンフフン……♪ 鼻歌交じりに砂糖と玉子をボウルに入れるお嬢様。

「あら、ボウルにいっぱいになっちゃった。これじゃあ混ぜにくそうね。代田もっと大きなボウルを出してくれる」


……


「ふー。なんだかべっちょりしてるけど、こんなものかしら。あとは平たく延ばして型抜きね」


「お嬢様、のし板と麺棒が有りましたからこれで生地を伸ばしましょう」


「いいのがあったわね。それじゃあ代田、あなたは生地を延ばしておいてくれる。わたしは、型抜きの型を探しておくわ。代田、のし板の上にふり粉を撒くのを忘れないでよ。

……えーと、ハートマークの型が欲しいんだけど見当たらないわね。仕方ないからボウルをひっくり返してそれで丸く型に抜きましょ。大きい方が見栄えもいいんじゃないかしら」



「お嬢様、こんな感じに生地を延ばしましたがいかがですか?」


「あら、ずいぶんと厚いのね。でもいい感じよ」


「なにぶん量が量でしたので厚くなりました」


「それじゃあ型抜きするわね」


「お嬢様、そのボウルで型抜きですか?」


「そう。大きいことはいいことなの」


「それだとピザになりませんか?」


「わたしがクッキーって言てるのにピザになるわけないじゃない。でもチーズをのっけたらいいかも」


……


「代田の言うように出来上がってみると思った以上に大きいわ。でも、上に梅干しを沢山載せられるから好都合だわ」


「お嬢様、型抜きして残った生地はどうします?」


「そうね。何個かに丸めておいてくれる。中に梅干しを入れたらびっくりクッキーが出来てきっとおいしいと思うわ。できたらお父様にも持って行ってあげよ」


 フンフン、フンフフン……♪


「お嬢様、イチゴをのっけたケーキみたいですね」


「周りに丸く梅干しを並べたからきれいでしょ。それじゃあさっそく焼いてみましょ」



 オーブン皿にクッキーの生地を乗せ、オーブンの中に入れていく。


「うちのオーブンけっこう小さいわね。これだと1度に3枚しか焼けないわ」


「器具を購入するとき、お嬢様のクッキーは想定外だったのでは」


「そうかもしれないわね。代田、『燕雀いずくんぞ鴻鵠の志を知らんや』って言葉があるの。意味はね、器の小さい人には器の大きな人の気持ちはわからないってこと。もう少しわたしの気持ちを理解しておいてほしかったわ」 


「申し訳ありません」

 オーブン(うつわ)が小さかったことがよほど気に入らなかったらしいお嬢様に一応謝っておく割烹着姿の代田。


「代田に言ったわけじゃないから気にしないで。それでオーブンは何度にセットすればいいと思う? 麺だと沸騰した100度のお湯に入れるから、100度もあれば十分なんじゃないかな?」


「100度だと、かりっときつね色にはならないんじゃありませんか?」


「代田の言う通りね、それじゃあ200度にしましょう」


「一気に100度から200度ですか?」


「わたしは切りのいい数字が好きなの。110度とか120度なんてなんだかみみっちいじゃない。時間は中を見ながらでいいか。最初は10分で。それじゃあいくわよ」


……


「10分経ったけど、まだみたいね。それじゃあもう10分」


「お嬢様、オーブンのここに予熱と書いてありますが何でしょう?」


「さあ、何なのかしらね。別に問題なく焼けてるみたいだからいいんじゃない。代田も細かいこと気にしすぎよ。もうすぐ還暦なんでしょ、大らかに生きなさいよ、大らかにね。いちいち細かいことを気にしてちゃはげるわよ」


……


「もう10分経ったわ。中の様子を見ると、きつね色に焼けてるみたいでちょうどよさそうよ。代田、あなたどう思う?」


「いい匂いも漂ってきましたし、ころあいじゃないですか?」


「それじゃあ取り出して、1つ味見してみましょう。大きいからそこの包丁で四等分に切ってくれる。少しくらい崩れてもいいから適当でいいわ」


……


「少し欠けましたがこんなもんですか?」


「4分の1でもけっこうな大きさね。それじゃあ、いただきます。フー、フー」


「いただきます。フー」


 ザクッ! フー、フー。ザクザクッ! フー、ザクザクザクッ。……。まだ熱いクッキーを息で冷ましながら夢中で食べる二人。


「お嬢様、すこし硬めですが、これはいけますね。大成功のようです。まさかクッキーに梅干しが合うとは思いませんでした。お嬢様、ちゃんとレシピは覚えていらっしゃいますよね」


「もちろんよ。だけどこれはほんとにおいしいわ。癖になるおいしさね。残った生地をどんどん焼いていきましょ。今度はびっくりクッキーも焼くわよ。そうだわ、このクッキー日持ちしそうだから今度のソーラー・クルーズの役員会に持って行って一条さんにも食べてもらいましょ。爺咲くんにも食べてもらわなくちゃね」


 近い将来、このびっくりクッキーとピザ型梅干しクッキーが月のアギラカナ・ムーン・リゾートでのお土産の定番商品になるとはお嬢様にも予想できなかった。




このお話を書き終わって、梅干しクッキーをネットで調べたらほんとにあるんですねビックリしました。




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[一言] マジ? 連続の感想だけど、明日も休みだしヒマでね。
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