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公私は分けるタイプですって奴ほど酔うとやばい

 連れてこられたのは、ランバージャックから遥かに離れた山岳地帯だった。既にそこには変人サーカスが待機しており、姿が見えないのは千器と真祖殺しの吸血鬼だけだった。


「そこどけぇぇぇっぇぇぇえええ!!!!」


 周囲をぐるりと見渡した私の頭上から突然叫び声が聞こえ、視線を向けると、流星のような速さで千器が降ってくるのが見えた。

 しかもこのままでは私の真上に落ちてくる…………身の危険を感じたので、全力の横っ飛びで千器の落下予定地点から離れると、若い女のため息と、声がその場に響いた。


「はぁ………構造改変、材質変更、衝撃吸収」


 羅刹の魔女が小さく呟き、地面に一度杖を落とせば、千器の落ちるであろう場所が隆起し、瞬く間にその材質が、傍目でわかるくらい柔らかそうなクッションに変わり、そこに千器が落ちてきた。


「ぎょべっ!?…………おおっ!なにこれすげー!おっぱいの感触とかにも出来る?」


 クッションから顔を出した千器がその柔らかさに歓喜の声を上げ、そこにトコトコと羅刹の魔女が歩み寄っていった。


「ちょっと羽虫。あなた私のユーリ(千器)をぞんざいに扱わないでくれる?ユーリ(千器)は髪の毛一本に至るまで私のものなんだから、こんなところで消耗させないでよ」


「あ、えっと…………ごめんなさい…………」


 空から降りてきたのは、真祖殺しの吸血鬼であるエヴァン・ウィリアムズ。しかし、そんな大仰な名前が付いているにも関わらず、彼はひどく内気で、とても真祖を殺す様な者には見えない。


ユーリ(千器)?大丈夫?怪我はないかしら?どこか怪我をしているなら素直に言ってちょうだい。何を置いても優先して治してあげるから」


「いんや大丈夫だ。っと」


 クッションから飛び降りた千器は周囲を一度見渡したあと再び口を開いた。


「全員いるな?」


「えぇ。さすがに龍種が相手だからね」


 羅刹の魔女がそう返事をしたのち、全員が千器の周囲に集まってきた。

 錚々たる面々。世界をこの集団だけで簡単に征服することもできてしまうような、そんな集団にも関わらず、この者達にはそう言った目的がない。

 唯一あるのは、現状維持の心のみ。ゆっくりと酒を飲み、仲間内でバカな話をするだけの現状を守るためだけに、その強大過ぎる力を使っている。

 中には少し変わった事情の者もいるそうだが。


「ミハイルも来たのか」


「あそこの馬鹿夫婦に連れてこられたのだ」


「ありゃ。そりゃご愁傷様」


 この気安い掛け合いも、無礼な振る舞いも、どこか心地よく感じ始めている私がいる。王城での態度ではなく、こういった場合、場所、仲間での会話を、私はしたことがない。それが原因なのかもしれないが、プライベートで会うこの者達にはそう言った気の置けなさがあるのは確かだ。


「んじゃ今回の作戦だが、エヴァンとバルヴェニーは後方から尻尾を抑えつつ、後ろ脚を狙ってくれ」


 その声に返事をしたのは真祖殺しの吸血鬼と、精霊女王。二人とも先ほどまでの表情ではなく、どことなく緊張感を持った表情に変わっている…………いや、それは2人だけに限った話ではない。この場に居る全ての者が、そうなのだ。突然雰囲気を変えた千器に触発されるように、その雰囲気を普段のだらけた物から、戦士の、戦いに赴く者のそれにかえていた。


「左側面をオーヘンとキャロン」


 今後は妖精王と、羅刹の魔女が返事と共にその場から消える。


「右をブラッドと響」


 世界最大の闇組織の頭目と、百姫夜光の頭目が今度はその場からいなくなった。


「遊撃で俺とキルキス、それとガート」


 ガートと呼ばれた男は初めて見るが、全身に黒い入れ墨のような物を入れた不気味な男だった。 

 キルキスとガートはその場に残り、あとこの場に残されたのはイクトグラムと、もう一人の女だけだった。


「アスコットとイクトグラムは正面を頼む。イクトグラムは物理系の防御、アスコットは魔法系の防御に専念してくれ。混成攻撃かブレスが来たらまあ上手いことやれ」

 

 そうして、その二人も消えていった。

 それにしても、アスコットか………聖国の元聖女にして、“不滅の美貌”と称される女までもメンバーに加えていたのか。


「んじゃ各々行ったみたいだし、俺らも行くか。ガート、扉を開いてくれ」


「わかった」


 寡黙な印象を受けるガートが、目の前に手を翻せば、そこに扉のような物が広がり、その奥には件の要塞龍の頭が見えていた。

 まさかこいつは“転移”を使える術者だというのか………


「ミハイルはその辺に居ろよ?巻き込まれても責任取れねえからな」


 その言葉を残し、千器達までもこの場からいなくなってしまった。

 

 なぜだか分からない。分からないが、それでも私は高揚しているのだと思う。これから起こる歴史に刻まれる戦いを、この目で見ることができるのだ。そして、それを記録に残すことができるのだ。見てみたい。どうしようもなく。

 そんな気持ちからか、私の足は、要塞龍の方向に向かって進み始め、気が付けば、戦いを一望できる高い丘の上に腰を下ろし、ノートを広げていた。



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