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変態の友は変態

「我が名はエヴァン・ウィリアムズ!愛と勇気の使者也!!!」


 バカ吸血鬼がそう言って飛び出し、肉腫の壁を瞬く間に焼き払った。

 むき出しの状態の肉腫であれば、最弱の炎の魔法でも簡単に殺せるからな。

 だが、今の炎を食らってもさすがにクイーンは生き残ってたみたいで、エヴァンの前にボロボロの状態で立ちふさがった。


「わりいが、相手はエヴァンだけじゃねえんだわ」


 背後からナイフで体内に毒を流し込み、寄生されたクイーン級はその場に倒れ、動かなくなった。

 肉腫にもその毒はしっかりと流れ込んでおり、煤の様になった肉腫が、風に流されて消滅していくのを確認し、ほっと胸を撫でおろした。


「これにて一件落着…………でもないのだがね」


「そうだな、お前は街に残ってる肉腫を焼いてこい。俺は統制協会のやつらに話を聞かなきゃならねえ。それと少しこっちこい」


 エヴァンに耳打ちをする。カリラに聞こえないように、小さな声で。


「…………わかったのだよ」


 何か言いたそうな顔をして、エヴァンは俺達を運んだ時と同じように、マントを翼の様にして飛び去って行った。

 それを見送ると同時に、俺はその場に倒れた。既に、肉体の限界は超えてる。

 肉腫に吸い取られてるのもあるし、戦闘のダメージも深刻だ。

 頭が既に働かなくなってるし、手足の感覚がまるでねえ。


「カリラ。頼みがある」


 珍しく泣きそうな顔のカリラが黙って俺の側に来て、顔を覗き込んできた。


「俺をローズんところに運んでくれ。俺の魔法耐性の低さなら…………簡単に殺せるはずだから」


 今回は、少し運が悪かった。いつもより、本当に少しだけ。

 だから、本当にあと少しの所で、俺は死ぬ。この肉腫共に好き勝手されて死ぬくらいなら、まあチョコチの娘に殺されるのも悪くないだろう。


 それだけ言って、カリラの返事を聞く余裕もなかった俺は目を閉じ、意識を手放した。





 次に目を覚ました時、最初に思ったのは、何故俺が生きているか、ということだった。

 俺はローズに燃やしてもらうはずだった。なのに、何故か俺は生きている。

 ベットの上には、クマのある顔で、件のローズが組んだ手に頭をのせて寝ているのが見えた。


「どうして……」


 肉腫の根はそう簡単に剥がせるものじゃない。かつて俺の後に召喚された勇者がマキナで広めた現代医学、それをもってしても難しいはずだ。だとするとジョニー爺さんが?確かオリジナル魔法が使えるとか言ってたか?


 窓から差し込む光が、チラチラとうざったい。

 何があって、どういう経緯で俺が助かったのかはよくわからないが、それでも、とにかく俺は生き残ることができた。それで良しとするか。


 そんなことを考えていると、日が差し込んできてうざったい窓の外に影が現れた。


「ユーリ殿」


 そう言って、窓から入ってきたエヴァン。

 エヴァンは俺に何か話があるようで、部屋の中に入ると、俺の傍らに歩み寄ってきた。そして、そこで眠るローズの顔を見て、少し驚いたような顔をした。


「この子がチョコちゃんの娘であるな」


「あぁ、どうにか頼めないか?」


 俺があの時エヴァンに話をしたのは、ローズのこれからの面倒や、マッカランへの謝罪、そしてカリラの面倒を見てやってほしいという物。

 今回の件で分かったが、俺自身が相当なまってるせいか、不必要な怪我が多く、油断もあった。現役時代なら致命的なミスになっていたレベルの物だ。

 これから来るであろう“最悪”を乗り越えるには、今のままじゃ全く足りない。そうなれば、俺自身も少し、昔の感覚を取り戻さないといけない。それに、残された倉庫を回って、道具や武器を集めないといけない。

 今のままの装備では、やはり心もとない。


「一張羅が帰って来れば何も問題ないんだけどな」


「そうであるな。あのコートは神剣よりも反則なのだよ」


「存在が反則なテメエに言われたくねえんだよ。それに俺みたいな糞雑魚はちょっと反則しないと生きていけないの」


 そこまで話をして、若干声が大きくなってしまったせいか、ローズが目を覚ましてしまった。

 寝ぼけ眼を擦りながら、俺の顔を一度見て、その後エヴァンの顔を見て、そして…………


「ぎゃああぁぁっぁあぁあ!?きゅ、吸血鬼ッっ!?」


「お、落ち着くのだよ!吾輩は悪い吸血鬼ではないのだよ!血も吸わないのだよ!」


「いやぁぁっぁあ来ないでくださいまし!来ないでくださいまし!!!」


「安心していいのだよ!吾輩は母乳の出る女性にしか興味がないのだよ!君は守備範囲外なのだよ!」


「変態ですわァァァぁぁぁあ!!!!!」


「違うのだよ!必要なことなのだよ!」


「お、お母さまが言ってましたわ!世の中には母乳を求め彷徨ういかれた吸血鬼がいると!」


「チョコちゃん…………吾輩をそんな風におもっていたのかね…………なんだか悲しいのだよ…………」


 チョコちゃん、という名を聞いて、ようやくローズが大人しくなった。俺がこいつの母親をチョコチと呼ぶことから、昔の仲間がシグナトリーのことをチョコチや、チョコと呼ぶことに気が付いていたのかもしれない。


「チョコちゃん…………ですの?もしや、この人のお仲間ですの?」


「そうなのだよ!吾輩とユーリ殿は熱い友情に結ばれた同士なのだよ!」


「じゃあ変態ですわね」


「どうしてそうなるのだよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉッ!?」



 


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