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歩む道

 ネタが分かれば、あとは殲滅していくだけですわ。

 先ほどと同じように、次の方の肉腫を私が焼き、ジョニーおじさまが引きはがしていきます。


 そんなことを繰り返し、悲鳴と出血、肉の燃える臭いと腐臭に包まれながら、この施設に運び込まれた人たちを治療していきました。私の鼻は既にこの空間の臭いでその機能を殆ど失い、魔力も枯渇し始めたころになって、ようやく、今対処できる肉腫は全て切除し、燃やし尽すことが出来ました。

 しかし、また明日には多くの患者がやってくることが予想できます。

 今日はゆっくりと眠り、明日に備えなくてはなりません。


 翌朝も、やはり大量の患者が担ぎ込まれてきました。

 こちらも対処しているのですが、一向に患者が減る気配がありません。 

 一体いつまで、いつまでこうしていればいいんですの?幸いにも、私とジョニーおじさまの魔法はそこまで消費の大きくない魔法ですので何とかなておりますが、これ以上のペースで来られたら、先にジョニーおじさまが…………。


「少し、休憩されません?ジョニーおじさま……とても辛そうですわ………」


 全身からとめどなく汗を流し、肘を伝った汗が、ポツリと病棟と化している家の床に落ちましたわ。


「私は大丈夫です。それに、治療を待っている方もいますしね」


 苦しそうな表情でそう言ってきたジョニーおじ様。はたから見ても無理をしていることがすぐに分かってしまいます。

 その後も、表情は苦しそうにして言うジョニーおじ様でしたが、手元はしっかりと定まっており、肉腫に摘出も完璧と言って差し支えない物でした。


 泣き叫ぶ小さな子供。苦しみ悶える若い女性。恐怖に慄く壮年の男性。それ以外にも数多くの患者が絶え間なく担ぎ込まれて来ます。

 ですが、何故かそれが夜になるとパタリと止むのです。その時間に私とジョニーおじ様は体力と精神力、そして魔力を養い、翌日にはそれら全てを擦り切れる程酷使します。

 精神がおかしくなりそうな程の悲鳴を毎日聞かされ、ジョニーおじさまも、寸分の狂いなく小さなナイフを扱っているので、相当な集中力と精神の摩耗が見られます。

 あの方は、あの男は一体いつになったら戻ってくるのでしょうか………いえ、戻ってきても、私の知りうるあの方ではどうすることもできないはずなのですが、それなのに、あの方だったら、ひょっとすると何か革新的なアイディアや、不思議な道具で全てを丸く収めてくださるような、そんな気がしているんです。

 だからどうか、どうか生きて帰ってくださいまし。じゃないと、私も、ジョニーおじさまも………この街ももう…………。

 

 ―――ジリ貧。そんな言葉が私の頭を過った時、ジョニーおじさまがついに倒れました。


「ジョニーおじさま!?どうされ―――っ!?」


 そこで、気が付かされました。

 ジョニーおじさまの腕が、恐ろしい色になっていることを。

 左腕、ナイフを扱う方ではない腕に、ロープがまかれ、まるで何かを逃がさないようにしているようでした。

 早く、そして浅い呼吸を繰り返すジョニーおじさまの腕を見れば、そこにはあの肉腫が付いていることが分かりました。

 幸いなことに、今日の患者は今の女性で最後だったのですが、これではおじさまは明日まで持たない…………既に肉腫の大きさは相当な物になっており、それを食い止めるためにそのロープが巻かれているということが一目でわかりましたわ。


「あっ、開けてください!お願いします!お願いします!」

 

 その時でした。 

 聞き慣れた声、数日前にあの男が連れてきた女奴隷の声が聞こえました。

 焦りを露わにしながら、まるで何かに怯える様な声。

 ですが、あの人の声が聞こえません。もしや、あの人を置いて逃げてきた?そこで肉腫に寄生されたのでしょうか?もしそうだとしたら、私は………


「お願いですっ!治療費はぜってぇ払います!こんな体で良けりゃ好きなだけ使って構わねぇです!魔物の群れに投げ込まれても、構わねえですから…………だから、どうか…………この馬鹿を…………」


 ―――っ!?

 どういう…………ことですの?

 あの女は、あの人を嫌っておりました。そんな物一目見ればわかりましたわ。ですが、その女が、どうして…………どうして死にかけで、肉腫に4か所も寄生されてるあの人を抱えているんですか。


 全身血みどろで、そればかりか触手に寄生されて顔色も最悪の、そんな状態のあの人が、何故…………この女奴隷であれば、間違いなく見捨てると思っておりましたのに…………。


「こちらに寝かせて下さい。ジョニーおじ様。まずジョニーおじ様の肉腫を摘出しますわ。その後、この方の肉腫も摘出―――っ」


「だめだ…………それは出来ない」

 

 鋭い視線で、首を振るうジョニーおじさま。ジョニーおじさまも、あの方と同じくらい顔色が悪いのに、額にも汗がにじんでいるのに、それでも立ち上がりました。


「私の医道にはね…………“助ける”という言葉は、あっても“助かる”…………なんて言葉は…………ないのです。目の前に患者がいるんです。それを助けず、自らが…………助かろうとするなど…………そんな物、私の…………歩む道ではありませんよ。ですから…………私の治療は…………ユーリ殿の治療が終わってから…………でも、問題あり、ません。絶対に………術には支障をきたしません。だから………はやく」


 ふらつきながらも、構えられたナイフは一切ブレなく止まっておりましたわ。

 であれば、私ができることはただ一つ。さっさとこの肉腫を焼いて、あの方を助け、そして、ジョニーおじさまも、助けて見せます!


 既に、この人は悲鳴を上げる気力も、元気もないのか、表情を曇らせるだけで、他の反応を見せませんでした。

 

「一体………あなた方は何をしていたんですの……」


 

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