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はいそこ!フラグ立つところじゃないんですか?

 有無を言わさぬ強い言葉でそう言い切ったバカ主人。 

 どうやら私はこのイカレ野郎の自殺に付き合わされることになるみてえですね。

 どうせ囮かなんかにしようって魂胆でしょうが、深層の化け物共はそんな程度じゃ諦めちゃくれねえですよ。

 私も聞いただけですが、深層のやつらは人間となんも変わらねえ思考力を持ってて、人間なんか軽く捻りつぶせる力を持ってる連中の巣窟だって噂じゃねえですか。

 そんなところにこんな奴と行くとかただの自殺行為でしかねえですね。


 そう思ってたのも束の間。何故か一番反対すると思っていたローズ様が、真っ先に覚悟を決めた顔でうなずき、そしてジョニー様の手を引き、踵を返しやがりました。


「カリラさんに変なことをしようとすれば、私が私の裁量で裁きを下しますわ」


「安心しろ。俺は紳士だ」


「………信じておりますわよ、本当に」


 そう言い残し、二人は走り出した。

 それを笑顔で見送ったバカ主人に、私は再びナイフを投擲してやりました。

 こんなところで死んでたまるかってんです。

 こんな男、さっさと殺して私も脱出しねえとスタンピードに飲み込まれちまいます。


「まあ落ち着きなさいよ。それに、何も俺は99階層まで攻略するつもりなんか欠片もねえんだ。あいつらがいたから使わなかった技をいくつも知ってんだよ」


 バカ主人はそう言いながら徐に足を進めてい来やがります。

 ですがそれは、ギルドが作ったマップに記載されてやがる下階に繋がる階段とは別方向に向かって。


「どこ向かってやがんですか」


「裏道」


 裏道なんて物があるはずがねえじゃねですか。そう言いたい気持ちを、この男の醸し出す何かしでかしそうな雰囲気が、喉まで出かかったその質問を飲み込ませやがる。


「ほいついた」


 そうしてたどり着いたのは、先が見えない穴でした。

 昔、この穴を降りて下の階に行こうとした奴がいたらしいですが、その先には魔物がうじゃうじゃいる部屋だったとかで、何とか逃げ出して、穴を登って逃げ帰ったそうですが、こいつじゃそんなことができるはずもねえですし、聞きかじった噂で、下に行けるかもしれない縦穴の存在を知って、裏道とか、この男は本当に道化のような男じゃねえですか。


「まず、これを落とします。あ、穴から離れとけよ?色んなもん飛んでくるから」


 普段と何も変わらねえまま、そう言いだしたバカ主人。一応、念のため穴から距離を置き、成り行きを見守っていると、男が手に持っていた人の頭サイズの塊をその穴の中に落としやがりました。

 それも、手に持っていただけではなく、足元に置かれていたやつも、優しく蹴り落しやがった。

 その瞬間、縦穴から火柱が上がって、魔物の残骸と思われる破片が周囲に飛び散りやがりました。


「は?」


「衝撃を加えると爆発するんです。そう言うモノなんです」


 ふざけた態度でそんなことを言うバカ主人から、視線が外せなくなっちまいしました。この男は、あの穴の中に魔物が控えていることを知ってて、それで?


「そろそろ熱も逃げたころだし降りるぞー。この縦穴は4階層分しか降りられねえけど、他の所は10階層分くだれるのとかあるから今日中に99階層に着けるはず」


 今日中に99階層まで?た、確かにこの方法で、10階層を降りることができるのであればそれも可能ですが、なんでこいつはそんなことを…………。


「もう何度も降りてるからな。それに、この縦穴作ったの俺達だし」


 うそだ………縦穴があるって噂が出始めたのは100年以上前のことじゃねえですか。

 それをこいつが作った?い、いったいこいつは何を言ってやがんですか。

 

「不思議そうな顔してるから、改めて自己紹介するけど、俺は500年前にこの世界に召喚された勇者の一人だよ。皆には内緒だけどな」


 そう言って、足元に巨大な杭を打ち込み、そこから伸びる紐を体に巻き付けたバカ主人。

 そのバカ主人に掴まって、私も一緒になって縦穴を下っていく。


「キルキスが穴掘ったんだけどさ、そしたら迷宮の防衛機能みたいなもんが働いて魔物溜まりになってたんだよね」


 穴を下る最中に、そんなことを言い出したバカ主人。いったいこの男は…………何なんだってんですか。

 そもそも迷宮に穴をあけるなんて不可能なはずじゃねえんですか。過去にいくつもの国や組織がそれに挑戦して失敗してきたじゃねえですか。それを、どうしてこんな奴が。それにどうしてこいつの口からあの“キルキス大帝”の名前が出てきやがんですか………。


「次の穴まで少し距離があるんだけど、スタンピードが起こってるから他の魔物と遭遇しないで済むんだわ。ほんと楽ちん」


 鼻くそをほじりながら歩くバカ主人に対して、私はもう深く考えることを辞めちまった。

 駄目だコイツは。まともな考えが通じる様なやつじゃない。そう思えちまってならないです。


「愛の爆弾を、ばらまいちゃうっ!」


 そう言って、爆弾を再び穴の中に投げ込むその男の姿が、何故か私の中で異常な物の様に見えてしまった。

 なんてことない普通の男。少し変わった個性か異能を持っているだけの、加護も寵愛も殆ど持たない男。子供を最前線で戦わせ、自身は安全な場所で遊んでいるくそ野郎。そう思っていた人間が、何か理解の及ばないおぞましい化け物に見えてきちまいました。


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