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バカもおだてりゃ木を駆け上がる

 二人のじゃれ合いが終わったころ、ようやく全員が席について自己紹介を始めやがった。

 

「まず。俺はユウリ・オオツカだ。一応そこのザマスの保護者代理をしてる」


「ザマスなんて言ったことないですわ!せめてデスワにしてくださいまし!」


 いやそれもどうなんだ、なんて思っていると、次に、その小柄な女が話し始めた。


「私はローズ・バンク。ヴォーグ領主の娘ですわ。戦闘スタイルはオールラウンダーだと思ってくださって結構ですの」


 なるほどですね。ヴォーグと言えば交易の中枢を担う都市じゃねえですか。そこの娘の保護者代理となりゃそれだけいい金を貰ってんのもうなずけるってもンですね。


「私はジョニー・ウォーカーと申します」


「ジョニーさんはマキナの“医療”を御存じなばかりか、回復魔法にも精通しておられるお医者様ですわ!医療と回復魔法を組み合わせたオリジナルの魔法はそれだけで一財産築けるほどの物ですのよ!」


 横から領主の娘………確かローズ様が口を挟み、それを聞いたバカ主人が頭を悩ませるような表情を浮かべた。


「なんでそんな奴がここにいるんだ?あのマキナの医療技術に触れたんだったら、こんなところで底辺冒険者の仲間になるよりもっと楽に稼ぐ方法くらいあるだろ?」


 確かに、むかつきますが、私も同意見になっちまいます。マキナの医療がどうだか知らねーですが、聞く限りすげえもンだってことくらいはわかりますし、それと回復魔法を使ったオリジナルまで使えるってンですから、冒険者何かやるよりよっぽど安全に稼げるンじゃねえですかね。

 要するに、この男は怪しい。


「そうですね。確かにこの技術を使えばお金を稼ぐことは簡単にできるでしょう。しかし、それでは“お金がない人”はどうするのですか?治療費がなく、医者にかかれないスラムの子らは?お金があって、助けてと言える環境にいる子らは、きっと私ではない誰かでも救うことができるでしょう。ですが、助けを呼ぶこともできない。声を上げることもできない子らを、一体誰が救うというのですか?私はそう言う子を救いたい。助かるのに金が要るというのなら、そんな物私が払ってやればいい。そして言ってやるんです。次は君が、他の誰かを助ける番だと。しかしそれは名声等のしがらみがあってはできない事です。だからこそ、私の足で行き、目で見て、声を聞き、治療をしたいのです」


 柔らかい表情をしながら、そう語ったジョニー様。言ってることは素晴らしいですし、私のような人間からすれば、これほど崇高な志を持った人は見たことがねえってくらい立派な方です。


「そうか。まあ理由はどうであれあんたは信頼できそうで安心したよ」


 バカ主人はそういえば、次に視線が集まるのはもちろん私だ。

 正面に座る二人、その内の赤い髪の女の方から鋭い視線が飛んでくるのが分かる。

 誰だお前は。そう言いたげな視線です。まあ、慣れてンですけどね。そういうの。


「私はカリラって言いやがります。そこの男に買われちまった奴隷です」


 いきりたった女が、バカ主人の胸倉をつかみ上げて、引きずり回すのが終わり、ようやく席に帰ってきやがりました。

 バカ主人は顔中ひっかき傷だらけで、鼻血を垂れ流しながら相変わらずのバカ面で一つ咳ばらいをしてから話し始めやがりました。


「こいつは身体能力も高く、魔法適性も高い。それに何より、極めて反魔の力が優れてる。それこそ、お前のかあちゃんレベルでな。だから買い取った。回復魔法も使えるみたいだし、今後こういうサポート要員は必要になる。迷宮内では主に素材回収を担当してもらう予定だが、いざとなれば回復、遊撃のどっちかに入れると思う。んでだ。迷宮内では基本的に俺の指示に従ってもらうことになると思う。おっちゃんは俺みたいな若造の指示に従うのは癪だろうが、まあ我慢してくれ」


 今まで見てきたアホな顔とは違い、真面目な顔も出来んじゃねえですか。


「あと、これは大事なことなんだが、夜に俺のいるテントにはカリラも入ることになる。その時、俺のテントから物音が聞こえても決して中に入ってこないように!これは命令じゃふっ!」


 今度は剣の鞘が顔面にめり込んでやがります………。 

 あの女の攻撃速度も異常なレベルだと思っちまいますが、それよりこいつのメンタルはどうなってやがんですか?


「もし?カリラさんでよろしいかしら?夜は私と同じテントで寝ましょう。あの男と同じテントだと何をされるかわかったものではありませんので」


「え、ええ………」


「まあテントの話はあとで決めよう。今は基本的な陣形の話しだ。俺は遊撃に回る予定だが、ほとんどの場合はお前らに戦ってもらうことになると思う。俺はサポートと、指示出しをメインに動くから、実際に魔物と戦うのはお前たちだけでどうにかして欲しい。ローズは前衛である程度自由に動いて構わない。おっちゃんは後衛。俺と同じくらい敵から距離を取りながら回復をメインに、使えるようなら阻害系、支援系も使ってくれると助かる。カリラは、おっちゃんとローズの間辺りで、ナイフで牽制、ローズが抜かれた時のクッションの役割だ」


 サポート役で素材拾いじゃねえじゃねえですか。こいつ端から自分が戦う気がカケラもねえじゃねえですよ。なんでこんな奴がリーダー面してやがんのか不思議でしょうがねえです。

 麻色の外套を羽織り、白髪頭のジョニー様が前線に立たねえのは何となくわかりますが、なんでテメエが後衛職と同じ位置まで下がってやがんだってンです。


「あぁ、それとローズ。お前の収納袋買ってきたからこれ使え。中に必要なもんは詰めてある。あと、大型の敵とか、甲殻の硬い連中が来た時用の武器も中に入ってる。迷宮じゃそのちっこい剣一本じゃどうにもならねえ敵がわんさか居やがるからね。そう言う連中との戦い方もこれを機会に覚えておけ」


 何を偉そうなことほざいてやがんですか。どう見てもあの女の方が強いじゃねですか。


「わかりましたわ。あなたの人格はどうであれ、指示だけには従います」


「その言い方はひどくない?あぁ、それと、おっちゃんは装備大丈夫か?何なら整える金くらい建て替えるけど?もちろん返してもらう予定だけどね」


「ユーリ殿のお手を煩わせるまでもありませんよ。老い先短い老人は新しい物になかなか乗り移れなくてですね。今の使い慣れた装備が一番なんです」


「まあそう言うやつも中にはいるよな。長期の攻略予定だが、それも大丈夫なんだよな?一応俺は99階層まで行く予定だし、ローズは最低でも50階層まで行くことになる。50階層以降は各々に任せるけど、俺がいる状態でも、50階層までは1か月はかかるかもしれない。それでも大丈夫か?」


 50階層まで1か月?何をバカなこと言ってやがんですかこいつは。

 熟練の冒険者パーティーがもぐって、25階層以降をもぐるのにどれだけ時間がかかると思ってやがんですか。それに99階層なんてここ数十年到達者さえいねえような魔窟だって話じゃねえですか。それを、こんな一目で雑魚だとわかるような男が到達できるはずがねえです。

 これは私の不幸が降りかからなくても勝手に死にやがるタイプの様ですね。


「99階層ッ!?それは誠ですかなユーリ殿」


「まあ、攻略するつもりはないからな、ただ降りるって感じになるけど、確かだぜ?50階層超えたら…まあ一週間くらいで99階層まで潜る予定だ」


 一週間で残りの49階層を突破?ふざけるのも大概にしやがれってんです。

 こいつはどれだけ迷宮を甘く見てやがんですか。


「まあ、50以降は自由参加だからね。ついて来たくない連中はそのまま登っちゃっていいから。」


「私は付いていきますぞ。70階層を超えた辺りに生える薬草が、とても効果の高い回復薬に使われる素材だと聞いたことがあります」






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