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膨らむフェイス

 俺の前に立つローズが突き出した両掌から、想像通りの炎が轟音を立てながら賊の集団に迫っていく。

 瞬く間に射程を広げた炎に、男たちは成す術もないまま、焼かれ、焦がされ、そして消えていく。

 たんぱく質が燃える独特の臭気を孕んだ空気が周囲に充満したあたりで、ローズは魔法を解除し、敵が“いたはず”の場所に視線を向ける。

 

「行きますわよ」


 頼もしいな。それに、将来が楽しみだ。

 一時は気まぐれで若い連中の育成に携わったことがある俺からすれば、これだけの魔力制御の能力、それに最大出力の大きさは、今まで面倒を見た連中の中でもそれなりに上位に位置するんじゃないかというレベルの物だった。

 

「さすがはチョコチの娘だな」


 誰に聞かせる訳でもなくそうつぶやけば、前を走るローズに聞こえてしまったのか、こちらを振り返り、口を開いた。


「何かおっしゃりました?」


「いんや、何も言ってないさ」


 なら別にいいですわ。と、そう言ってローズは再び走り出し、そこから数分もしないうちに建物の外に出ることができた。

 外では既に戦闘が繰り広げられているのか、工房の男手たちが商売道具の武器を振り回し、男たちと激戦を繰り広げている。 

 相手はある程度殺しに慣れている連中だが、ここにいる連中もそれなりに戦えるのか、決して無理はせず、二人一組ほどになって相手と相対していた。


「こっちはまだ大丈夫そうだが、問題はカルブロの方だ!あそこには恐らくこいつらの親玉がいやがる。下っ端でこのレベルだと、さすがに親玉は相当なはずだ!急ぐぞ!」


「あなたに言われるまでもありませんわ!」


 俺の声に反応し、ローズがさらに加速する。

 そろそろ俺の足では追いかけるのも厳しくなってきたが、これだけ開けた場所であれば俺にも移動方法がないわけでもない。


「先に行け!」


 ローズにそう促せば、彼女は一瞬だけ心配そうな表情になるも、直ぐに表情を戻し、大きくうなずいて見せた。


「さっさと合流してくるんですのよ!」 


 英雄の身体能力を如何なく発揮した加速は、とてもではないが俺が追いすがることなど不可能に思える様な初速を生み出し、そしてその初速さえも加速によってさらに高い次元に押し上げられていく。

 

「さてと、俺は俺で行きますかね」


 申し訳ないが、少し離れた場所にある民家にパイルを打ち込ませてもらい、糸を巻き上げる力と、俺自身の跳躍力、そして足元に落とした“爆発の効果”を張り付けたナイフの力で加速する。

 爆風に乗る形で一気に体にGがかかるが、もはやそんなことを気にするほど俺は未熟ではないのだ。

 四六時中追い掛け回されたりが頻繁に起こる俺はこの状態でも優雅にサンドイッチをぱくつき、コーヒーブレイクを楽しみながらブレイクダンスを踊れる。そう信じてる。


「いひぃひぃひぃっ!!!?」


 ちょっと勢いをミスって、口の中に空気が張り込み、ハンサムフェイスが台無しになっちまったが、それでも直線で進みつつ、この速度であればローズにそこまで離されることもないだろう。


そこから凡そ10分もしないくらいで、目的のカルブロファクトリーに到着し、すぐさま俺は物陰に隠れるようにしながら状況を観察し始めた。


「………あんまり状況良さそうじゃないなぁ」


 俺の視線の先には、10人ほどの護衛を任されていたと記憶している連中が武器を持ち、壁際まで追い詰められているローズと、彼女が庇うように背中に隠しているカルブロの姿があり、裏切った護衛共の背後には、おそらくは英雄、しかも経験を積み、修羅場をいくつも超えてきたような、そんな風格を醸し出す英雄の姿が見えていた。


 俺の想像よりもだいぶローズが到着するのが早く、そして俺の想像よりも遥かに現状は悪い方向に向かっていたようだ。

 あの護衛は、間違いなく最初から裏切るつもりだったんだろう。そして、この場であの英雄の率いている盗賊団なのか、傭兵崩れなのか分からないが、そいつらにタートルヘッツを襲わせたんだな。

 じゃなきゃ、あの下っ端共の動きがあそこまで早かったことの説明が付かない。

 どこかから情報が漏れていた、そう考えるのが妥当だろう。

 幸いにも、あの護衛連中ではローズを打ち負かすことは出来ないだろうが、あの英雄が出てきたら、さすがのローズでも圧倒的に経験値が足りない。

 そして、こういった“殺し合い”においての経験の差は、生存率に直結しているといっても過言じゃねえ。

 つまりだ。何が言いたいかって言うと、かなりやばい状況ってことだ。


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