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暇が潰れりゃいいってものでもない

 特にやることもなくなったし、俺はベットで足を伸ばし、ローズも音楽鑑賞に精を出している様子で、その後の数日間は、そう言った穏やかで、俺にとっては些か珍しい日常が流れていた。

 このまま何もなく、ビターバレーに着けばいいのにな。なんてフラグを立てる必要さえなく、その日常は意図も容易く打ち砕かれたのは、もはや言うまでも無い事だろうと、独り語りを決め込んでみれば、ローズからの辛辣な視線が俺の美しい顔面にぶち当たる。


「あなた、前世は大量殺戮でも犯しましたの?」


 と言われるほどに、俺の運は悪いのです。いやはや、全く仕方がないね。


「他の男より、少しだけ女を泣かしてきたかもしれないな」


 ハードボイルドを気取っていってみれば、まるで汚物でも見る様な視線を送りながら、ハートブレイクショットさながらの一撃を俺に叩きこんできたローズさん。


「確かに、近寄るだけで悲鳴とか上げられそうですわね」


「しってるか?お前くらいの年齢の女は変態貴族にいい値段で売れるそうだ」


「おや、こんなところにイケメンが。絵物語から飛び出してきてしまったんですの?」


「要領いいよなお前」


「貴族ですので」


 なんて感じのふざけた会話を続けながら俺とローズは貸し与えられた部屋の外に、完全武装をした状態で飛び出した。

 部屋の外で待ち構えていた賊をローズが一撃で切り捨て、そのままハゲブロの元に向かって走り出す。

 今、この移動要塞亀頭改め、タートルヘッツはそれなりの、俺が現役のころに出くわした様な危険な連中の攻撃を受けている。

 今の俺では歯が立たないような、そんなレベルの一団だ。


「ローズ!俺は直接的な戦闘はお前の足元にも及ばないチンカス以下のイケメンだ!状況把握なんかは俺が全部やってやるからお前はとにかくカルブロの工房まで行って、護衛を任されているやつらと合流しろ!」


 これだけの規模の商隊だ。護衛の数人は間違いなくいるだろうと予想できる。しかし、少しだけ不安なことと言えば、些か行動が早すぎるというところだろうか。

 つい先日、近隣の村で物資を補給したばかりであり、現在はビターバレーと、その最も近い村の丁度中間あたりに位置している。

 その事実が、より一層俺の“嫌な予感”を駆り立ててきやがる。


「うをっ!?」


 曲がり角の陰に隠れていた族の一撃が、俺の髪の毛を数本攫って行く。

 上半身を思いっきりそらせることで、族の一撃を何とか回避することに成功したが、この態勢では次の一撃を回避することは難しいだろう。

 振り切った大ぶりのシャムシールを手元に引き戻し、今度は首めがけて突きを繰り出してくる族。こいつは間違いなく人を殺し慣れているのが即座に分かった。

 頭や胸ではなく、首。そこを狙う意味が俺にはしっかりとわかる。頭に関しては、マキナの都に近い地方では頭蓋に特殊な金属を仕込むような文化があったり、胸に関しても防具や、そう言った仕掛けも勿論ある。首に関してだけはそれができないし、何より仕掛けを目視可能であり、最小限の労力で結果を出せる。


「あなたッ!本当に大したことないですわねッ!!!」


 突き出された剣が俺にぶつかる瞬間、ローズがその剣を横からはたき落とし、くるっとターンするかのような回し蹴りで男を壁に叩きつけた。


「ほいっと」


 その男の額に俺がナイフを投げ刺し、止めを刺した。

 それを見て、いいところを取られたとでも思ったのか、ジト目で俺を睨みつけるローズ。


「いやぁ助かったわ、お前がこなけりゃ死んでた」


「ふん、当たり前ですわ。お母さまの友人をそう易々と殺されたのでは、家に帰った時に笑われてしまいますもの………ですが、師事することに関して、すこし考え直させていただきたいとも思いますわ」


「あぁ、その話は」


「あとでゆっくりといたしましょう」


 今の音を聞いて、族の仲間がぞろぞろと俺達の元にやってきやがった。そのせいで、道が完全にふさがれてしまった。

 引き返すにしても、向こうはしばらく進めば行き止まりになるだけだしな。これはどうしたもんか。


「もし。あなた少し離れててくださる?」


 俺にそんな声を掛けたローズから、魔法の気配を感じたため、即座にその場から飛びのき、威嚇の為にもナイフを幾つか族の足元に投擲した。

 向こうさんも魔法の気配を感じ取ったのか、術者のローズを潰しに来るが、そこは俺のナイフと、糸でどうにか足止めする。

 足を掬い、体勢が崩れたところにナイフの投擲。これを6人同時に、全く違うタイミング且つ違う動作の6人に行う。


「千器様がお残しになられた偉大なる魔法、とくと味わいなさい!」


 この状況で、感じる魔力から逆算すれば恐らく使われる魔法は“バーナーブラスト”だろう。直線状に、巨大バーナーのような炎で攻撃する魔法。酸素なんて概念がマキナの都以外に広がっていない世界だからこそ広まることがなく、そして理解する者がまありいなかった魔法だ。

 それを、恐らくこいつはチョコチから教わっていたのだろう。

 なんとも頼もしい限りだ。


「燃えカスも残しませんわ!【バーナー・ブラスト!!!】」


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