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トラウマと黒歴史は似てるようで似ていない

 まばゆい光に伴って閉じていた目を開けると、案の定そこは教室ではなく、まるでテレビで見かける様な大講堂と呼んで差し支えない物だった。

 俺はさすがに二回目で慣れているが、他の連中はそうではないらしく、いきなり見えている景色が変わったことに驚く者や、そのあまりの異常性から呆けてしまっている者、パニックになって泣き出す者まで様々だった。

 しかし、そんな中で1人、周囲を一瞥し、声を上げた者が存在した。

 皆さんご存知の通りあれだ、正統派主人公の神崎刀矢だ。


「皆落ち着いて! とにかく今は状況を把握しないと何も進まない!」


 冷静に、そう言い放ったように見える神崎だけど、表情はかなり強張ってるし、視線もあちこちに散っていることから彼も相当怖いのだろうことが容易に想像できちまう。

 まあ、それでもこの場でその声が出せるのはスゲーよ。

 俺なんか発狂しそうになったくらいだ。


 周囲の生徒も神崎の言葉でいくらか安心したみたいだし、ここは俺が何か言う事でもないと思い、一歩だけ下がって気配を消していく。

 

 はぁ。マジでか。

 そう言った気持ちが胸中を渦巻いていく。

 一回目の召喚の時はこの後王から説明を受けて、入っても濡れない泉にダイブし、神にあったんだよな。


 そんなことを思っていると、大講堂の一段高くなってる場所から妙齢の男の声が上がった。

 

「勇者諸君、よくぞ参られました!」


 煌びやかな法衣を身にまとう男、その風格からしてもすぐに分かる。 

 あれが“王”なんだろう。


「突然のことで混乱されている方も多いと思うが、少し落ち着いていただきたい、落ち着いていただけねば話もまともにできないのでな」


「あなたは……」


 王に対して神崎が果敢に話しかける。

 スゲーコミュ力だほんとに。尊敬したくなるわ。

 俺だったらあんなに怪しいカッコしてるやつがそんな事言って来たらカルト宗教の関係者かと疑うね。


「私はこのランバージャック王国の国王であるウェルシェ・ランバージャックだ、君たちにわかりやすく伝えるとすれば…………異世界の国の王である」


 ランバージャック……だと……!?


「王様……申し訳ございません、僕たちはまだこういった場での礼儀などが分からなくて……」


 それじゃあなんだ……もしかしてここって……。


「いやなに、そう心配することはない、我々も初めての召喚というわけではないのだ、過去にもこの国で勇者召喚を行たことがあり、その時など……勇者が突然暴れだして大変だったそうだ」


 俺が最初に来た異世界ってことじゃねえか……。

 どうなってやがる……確かに俺は魔王討伐に加わってなかったけど、それでも魔王は倒されたと神が言っていたはずだ。

 なのにまた俺達は異世界に召喚されたのか?


「そうだったんですか、でも僕たちはその時の勇者の様に暴れる様な事はしません、そこだけは信じてください」


 神崎とウェルシェ王の会話が進んでいくけど、俺はそれどころではない。

 また俺はあの毎日命を狙われるような日常に戻らないといけないのか?

 いやまて、ウェルシェなんて奴が王の家系にいた記憶がない。

 時代が違うのか?それとも婿養子で入ってきた奴か?俺がいた時は確か王女が6人しかいなかったはずだ。誰かが他国の有力者でも引き抜いて王にしたか?いやいや、俺のいた時の王でそんなことはあり得ないはずだ。アイツは娘をそう簡単に手放すような、って言ったらおかしいけど、まともな親ではなかった。超ド級の親ばかだったはずだ。

 愛がない結婚など結婚ではないっ!娘が欲しければこの儂をたおしてからにしろ!!って言って来たし。まぁ丁重にお断りしましたが。


「最後に勇者が召喚されたのは500年前、しかし、当時の勇者は戦闘能力が低く、魔王討伐に加わることさえもできない落ちこぼれだった。しかしだ、今回の勇者様たちを見てみろ! 文献の勇者とは打って変わって落ち着きがあり、そして品もある!」


 500年前だと!? 落ちこぼれの勇者ってのは間違いなく俺のことだと思う。

 過去に勇者召喚された連中は俺以外が全員強力な力を持っていたって話だ。

 じゃああれか?俺が元の世界に帰ってからこっちでは500年もたってたってのか!?


 王が周囲を固めている近衛騎士共に嬉しそうに声を掛け、その後すぐに神崎をはじめとした、主人公グループの連中を見ていく。

 そりゃそうだろうよ、あいつらは間違いなく主人公の集まりだ。

 というよりも、この場にいる俺以外の連中は皆同じく主人公になる素質があるだろう。

 しかし、俺だけがそれを持っていないのも事実。

 なんせ、さっきからこっそりと自分の力や、この世界で使える様になった魔法を試しているんだから。

 結果は、まあ、良く手に馴染む感じだな……驚きもなく、意外性もない。

 はぁ、主人公グループはまあ、最高級の待遇を約束されるだろうし、他の連中も悪いようにはされないだろう。

 しかし、問題は俺だ……俺の力は過去に訪れた時から何も変わっちゃいない訳で、これから泉に飛び込むのが億劫に感じられて仕方がない。

 まあ、唯一の救いはあの主人公グループにウチの学校の“生徒会長”が加わらなかったことか。

 あの人俺が見ても全く隙が無いレベルの超人外だし、あんなのが加わったら他の勇者が破棄されてもおかしくないレベルに強いしな。


「なんだ? 私のことを呼んだか?」


「フォォォォオオッ!?」


 突然背後から話しかけられ、俺は慌ててその場から飛びのいてしまった。

 その際に奇声を上げてしまい、クラスメイトの半数くらいがこちらに視線を向けてきた。


「なっ、なんで会長がここに―――っていねえしッ!!!」


 俺が即座に振り返ると、そこには既に会長の姿はなく、クラスメイト達は俺が一人で奇声を上げて騒いでいる危ない霊長類だと思ったのか、そっと視線を俺から外していった。


「君ね、いきなり大声出されると困るんだ、少し大人しくしていたまえ」







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