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息切れって、なんかエロいよね

「ゆーりん遅いんですけど、来ないかと思ったじゃん」


 俺に最初に話しかけてくれたのは、リア充オブリア充の坂下だった。

 さすがのコミュニケーション能力と、おっぱいだ。うん。実に素晴らしい。


「いやぁ、本当はサボっちゃおうかと思ってましたごめんなさい」


 これは本心だ。理由をあげれば幾つかある。そもそも俺にはこの訓練は必要ないということが1つ。純粋に面倒だというのが1つ。そして何より、これだけの勇者がいるということは、それを引率する奴もいるということ。しかも近衛のような“お飾り”ではなく、実際に外で化け物を相手に戦うような、本物の連中が来る可能性があるというのが1つ。

 近衛ってのは官僚みたいなもんで、王の私兵のような扱いであり、主に貴族の三男辺りから多く排出されるんだが、ぶっちゃけそこらの傭兵の方がまだまともな戦いをしてくれるくらいにはカスな連中だ。

 王の護衛や城への常駐任務って実は近衛以外にも聖騎士が請け負っているんだが、この国には矢鱈と騎士団ってのが多くて些か面倒なんだ。

 

 貴族の護衛依頼や、常駐依頼を主に行う近衛騎士団。国内の問題の鎮圧や、重要拠点の警備などの守りを執り行う聖十字騎士団。国外の問題、領土間の荒事の対処に追われる荒事専門の黒鉄騎士団。

 それぞれ俺の中では|無能(近衛)、|雑用(聖十字)、|基地外(黒鉄)と、敬愛の念を込めて呼んでいる。

 まあ、ひょっとすると昔とそのあたりは変わってきているのかもしれないけど。


 目の前で少しだけ怒ったような顔を向けてくる坂下の周囲にデーブとガリリン、メガネっ子が到着したあたりで、演習場の入口辺りにいた近衛が声を上げた。

 

「全員そろったようだな、では今から今回のフィールド訓練で引率をお願いしている聖十字騎士団の者たち、並びに、フィールドで皆の生活の支援をしてくれる従者の紹介に入る」


 まあ、妥当なところだろうな、って思うわ。勇者にはとてもじゃないけど黒鉄は見せない方が良いし、それなりの秩序のある雑用なら見た目もいいし、能力もそれなりに高い。こっちに来たばかりの勇者が思い描く“騎士”という物に一番近いのは間違いなく雑用の連中だ。まぁ当初の予想では黒鉄が来ると思ってたけど。

 ただ、従者連れて外に出るとかふざけてんの?ねえバカなの?いつでもどこでもお世話してもらわないと生きていけない赤ちゃんになっちゃうぞ?あ、そういやこいつらの目的がそうだったわ。


 それから、近衛の声と共に、演習場の端から雑用が堂々と入城してきたが、それを見たクラスメイト達は、さっきまでの緊張が嘘の様に興奮し始めていた。

 初めて見る近衛以外の騎士の姿。近衛の煌びやかな鎧とは違い、実用性があり、少しくたびれた様子が見えるその鎧が、歴戦の勲章だとばかりに、無言ながら雄弁にそれを物語っていた。


「初めまして、私は聖十字騎士団副団長のトーマス・ハイリッヒです。今回は未来の希望である勇者諸君の引率を務めることができてとても光栄に思っています。残念ながら団長は少し用事があって今は来ていませんが、もうすぐ到着すると思いますので、その時に団長の言葉を頂きましょう。さて、団長が来るまでの間に、今回の訓練の概要を私の方から説明させていただきたいと思います」


 そう言って話はじめやがったイケメンリア充オーラが爆発している金髪の騎士。

 無駄に爽やかな顔に、無駄に爽やかな立ち振る舞い、無駄に爽やかな声と、なにかななにまで爽やかな野郎だ。

 ただ、少しいけ好かない感じがする。ひどくチープな模造品を見ているような、そんな感覚に襲われながらも、その男の話に耳を傾け続ける。

 今回のフィールド訓練は簡単に言えば“実戦に慣れてみよう”って感じの取り組みになるそうで、王都から歩いて三日ほどの距離にある遺跡に赴き、その中を調査することになっている。 

 ちなみに言えば、その遺跡は俺が既に隅から隅まで調べ尽したことのある遺跡であり、あそこからとれたアーティファクトはそれなりに活用している。


「強い魔物がいるわけではありませんが、十分に注意し、仲間と連携を取り合いながら慣れていってください」


 最後にそう締めくくったイケメンは壇上を降り、それと入れ替わる様に、汗だくに、明らかにこの場に相応しくないタイトスーツの女が壇上に駆け上がってきた。


「はぁ……はぁ………はぁ……………ゆっ、勇者諸君、は、初めまして、私は、聖十字騎士団、団長の、ふぅ……エリザ・トラストだ、今回は聖十字騎士団の上位10名が同行をすることになっているので、そこで彼らの技をよく見て、盗み、自らの力としてほしい。また、彼らの力に頼るのではなく、自身の力に向き合い、何ができるのか、そして、何をするべきなのかをしっかりと理解していくのも戦いには重要だ。得手不得手もあるだろう。戦闘に向かない者もいるだろう。血が怖い、魔物が怖い、武器が怖い、暗いところが怖い、色々な人間がいる。だからこそ、自分が本当に輝ける君だけの戦場を見つけるのも、君たちの戦いの一つだ」


 おい、まて団長さんよ、それってもしかして………


「私はこの言葉を聞いてひどく感銘を受けたのを今でも覚えている。この言葉を我等聖十字騎士団に残してくださった“千器様”と呼ばれる冒険者は、数々の攻略不可能とされた迷宮を攻略し、採取不可能と言われた素材を市場に流し、伝説とされた物を現実として我々に届けた偉大な勇者様だ。魔王討伐に加わることはなかったが、あの方の戦いの場は“そこではなかった”というだけに過ぎない。かつての千器様の様に、ここにいる勇者たちが民の為、人の為に何かを成せる人間に成長してくれることを私は心から祈っている」


 そう言いながら、若干興奮した様子で頬を赤く染める騎士団長が、ポニーテールに結われた紫の髪をゆさゆさと揺らしながら演習場から出ていった。

 どうやら、次の仕事があるらしい、あるらしいが………まさか俺の言葉がこんな変な解釈をされると思わなかったぜ……………。

 俺がかつてこの言葉を口にした理由と言えば、俺の探検中の迷宮に聖十字騎士団のバカ共が大挙してきやがって、罠を発動させるし、迷宮を壊すし、本当に最悪の連中だったから、“てめえらは雑用らしく雑用してやがれ”って気持ちを込めて言ってやったんだが……500年の時を超えて、いい話になっちゃったのね。知らぬ間に口調まで変わってるし。




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