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自分の知ってるを、相手も知っているだと思うな

「起きてください」




 マリポーサの声が聞こえる。


 今日も一段と不機嫌そうな声で、俺に触れることもなく、ただ側で声を掛け続ける彼女に起き上がり視線を合わせる。




「おはよさん」




 昔の経験からか、寝起きに関してはかなりいい方になった。というか良くないと生きのこれなかった。


 森の中でも、当然のごとく俺は一人だったけど、睡眠をとらないと人間は死にます。


 だからこそ寝てても、警戒だけは怠らないようになったし、起きてもすぐに活動できるようになった。




「朝食を置いておきますので勝手に食べてください」




「いやー毎朝悪いね」




 仏頂面でそう言ってきたマリポーサは、そのままドカッとソファーに座り込み、何かを考える様な顔をしている。




 俺は朝食として出された冷えたパンと、水を腹に流し込み、特に準備をすることもないのでただぼーっとしている。


 マリポーサの奴隷紋を解いてから、彼女は俺に今のような朝食を出す様になったし、俺に対しても今のような態度で接してくるようになった。


 まあ、パンでもあればそれで十分なんだけどね。


 遠征中のクソまずいレーションに比べればなんでもご馳走だわ。





「最近は無能だけではなく卑怯者とまで呼ばれるようになったんですね」




 こちらを見ることなく、マリポーサがそんなことを言い出した。


 まあね、ほんとに俺のことをよくわかってくれてるやつがいるみたいでホッとしてるよ。




「そうみたいね、まあ妥当なんじゃん?」




 別に本当のことだし。




 しかし、そんなことを考えていれば、マリポーサがテーブルを強く叩きながら立ち上がり、こちらを睨みつけてきた。




「悔しいとは思わないんですか!無能と蔑まれて、卑怯者と罵られて、どうしてそう飄々としていられるんですか!」




「はぁ、怒ってくれんのは嬉しいんだけどさ、別に俺はあいつらの評価が欲しいと思った事なんか一度もない訳、ただ生き残ることに必死なだけだよ」




 まだまだあいつらはこの世界にきて“魔物”と戦ったことがない。


 だからこそ、仲間内に敵を作ってそれを攻撃することで、いきなりこんな世界に飛ばされて、戦わされるフラストレーションを発散しないとやってらんないんだろうさ。




「だからあなたは無能の卑怯者なのですっ!あなたのような男が勇者だと、あのお方の品位まで損なわれます!あのお方は、あなたのような事は一度たりとも言わなかったでしょう!だからこそ常人には想像もできないことを成し遂げることができたんです!それなのにあなたは、あの方と同じ肩書を持っているのに何をしているんですか!」




「いやごめん、それ誰の話?」




 なんかすごい勢いで話し始めたと思ったら、なんか知らん凄い人と比べられてよくわからん気持ちだ。


 ってか朝から大声出さないでよね。ご近所に迷惑でしょ。


 肩書が同じってだけで頑張らなきゃいけないとかマジで意味が分からん。


 あいつも人間、俺も人間だから頑張らないとな!ってか?あほかい。




「千器様のことです!それに勇者の神崎様も崇高な志を持たれているともっぱら噂になっております!その方をあなたは卑怯な手を使って倒したとも!」




「あぁ、確かにそうだね。俺のいたパーティーがあいつのパーティー倒したのは事実だよ」




 でもさ、“戦場”に卑怯とか関係ないだろ。


 生き残らなきゃどうしようもないんだし、死んじまったらどんな濡れ衣だろうと着せ放題だよ。もちろん、卑怯なことしても、正々堂々と戦って勝った、って言えばそれまでだしな。


 そんな不確かなものの為に命を掛けたくないね俺は。




「それはあなたが卑怯なことをしたからです!あなたの力ではありません!勇者は、本当の勇者様は何があろうと決して屈したりはしません!」




「あらそうなの?初耳だわ、覚えとくよ」




 まあ、あんまり期待しすぎないでやってくれよな。


 あいつらも、少し前までは戦いの無い世界で普通に生きてただけの高校生なんだからさ。


 じゃないといつかその重圧に潰されちまうぞ? 


 


 まあ、俺の口からは言わないけど。




「その態度……あなたは本当に人の希望を背負う勇者の自覚があるんですか!あなたのような男の担当になって、私がどんな目にあってるかも知らずに……」




「誰に何をやられた」




 個性の応用、主に俺の個性にしかできないような応用だが、奴隷紋の『主人の命令を聞く』という一文の“主人の”を切り取り、命令を聞く、という部分だけをマリポーサの奴隷紋に張り付ける。


 こういった小手先のことも、これからやつらは覚えていくんだろうね。




「はっがぁ……な、何を……………給仕長と、近衛騎士たちに勇者が無能の卑怯者だと、担当のお前も卑しい存在だと言われ、教育と称して性的な関係を迫られています」




 少し抵抗したみたいだけど、そこからはスラスラと虚ろな目のまま話し始めてくれたマリポーサ。


 再び彼女の奴隷紋の効果を切り取り、体と意識を拘束していた奴隷紋の効果がなくなったことでマリポーサが地面に膝ついた。


 丁度腹ごなしをしたかったところだ。




「安心しろ、俺の担当は今日限りで必要なくなる」




 それだけを言い残し、俺は部屋を後にした。


 


 あぁ、いつもそうだ。弱者は奪われ、利用され、弄ばれる。


 ほんと、糞みたいな世界だよここは。




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