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事後報告

 ◇ ◇ ◇


「え、なに……もうやっちゃったの?」


 俺はその後カリラと合流することに成功したわけだけど、どうにも後輩の姿が見られない。そのことから、俺も感じていた違和感をカリラも感じており、そして我慢できずにプチったんじゃないかという不安が胸の中に渦巻いた。


「ちゃんと死体の処理はしてきた?足が付くようなところに捨ててない?大丈夫?」


「殺しちゃねぇですよ。と言うかあのガキの事気が付いてやがったんですか」


「そりゃまあね。おじさんくらいのイケオジになるとそう言うのは何となくわかっちゃうんだよね」


 最初は普通にこちらの世界に来たばかりの、少し頭の切れるやつ、程度に考えていたが、仕草や雰囲気、そして何より俺の面倒ごとセンサーがあいつに頻りに反応を示していたことから、俺は小鳥遊を警戒していた。

 いつか尻尾を出してくれるだろうと思いながら待っていたんだけどなかなかその様子もないし、明確な証拠のような物がある訳でもないので放置してたんだけど。


 どうにもカリラたんは我慢できなかったみたいね。


「まあ、居なくなったんなら仕方ないね。そう言うもんだったって割り切るしかない。そんなことよりも俺達にはやらないといけないことがあるからそっちを優先しようか」


 依然として消えてくれない面倒事センサーの音を無視しながら俺はカリラにそう話した。恐らくどこかで今回の件と小鳥遊が結び付く。そんな事はとっくに理解しているし、カリラもわかっているだろう。

 じゃなきゃあの出会い方と、話し合いの最中のミスリードは説明ができない。

 

「んでカリラたんの方はどう?ブスの情報とか聞けた?」


「もうテメエ王女とか付ける気さえねえじゃねえですか……まあ聞けたっちゃ聞けちまいましたが、この集落に“いた”って目撃情報しかねえです」


 《《いた》》ねぇ……。

 今はいないってことを指すのか、それとも単純に少し前に見かけたってことなのか判断が難しいな。 

 前者なら間違いなく関係者だし、その関係者に凸ったわけだから捜索しに来ているやつがいるって情報は流れてることになるな。

 リスクヘッジとしてこれからは俺達の存在がある程度バレているって考えで行動した方がいいかもね。


「了解~。なかなか判断に困る情報だけど、最低限の事はわかったから問題ないね」


 王女はこの集落にいる。それは間違いないと俺は考えてる。集落の規模から考えた巡回兵の多さや、街が妙に浮足立っているような、まるで祭りの準備でもしているような感じもそれで説明が付く。

 ってなるとこれから何があるかって話になるんだが……。


「待ち……かな」


「何もしねえつもりじゃねえでしょうね」


「しないんじゃなくてできないが正しいかな。まあ薄汚い作業はいくらか残ってるからそれを先にやろうってことだけど」


 いろいろと正義の味方にあるまじき準備とか、あとは逃走した後輩のこととか色々しないといけなくなっちまったからな。

 そして何より少しだけ、本当に少しだけお酒が飲みたかったり。


 そんな感じで、真昼間からでも酒を出してくれるアル中製造工場ことギルドの酒場で酒を煽り始めた。

 当然カリラは酒ではなく、一人でジュースを飲みながら俺にジト目を向けているわけだが、一応これでも大事な準備の最中なんだよね。


「随分と気分良さそうに飲みやがりますね」


「お酒は日頃の嫌な記憶を綺麗さっぱり忘れさせてくれる最高の素敵飲料だからね」


 少し軋むカウンターチェアに腰かけ、一枚板のカウンターに肘を乗せながらそれなりの度数の酒を3杯ほど煽っていると、俺の隣、椅子一つ分開けた場所に一人の怪しげな男が腰かけてきた。

 距離を置きたいにしては椅子を気持ちコチラに寄せてきたことから、どうにも俺の想像した通りの人物であろうことが予想できる。


「……アンタがこの辺を嗅ぎまわってるって噂のよそ者かい」


 しゃがれた声で俺に問いかけてきたのは、顎に髭をこさえた人間で言うところの70代ほどの年齢に見えるシティーオークだった。

 さすがにこれだけ派手に動き回れば噂なんかはすぐに回る。それも尾ひれに背びれまでつけて、お腹にはたっぷりのキャビアまで搭載してだ。

 これだけ発展した場所ではそういたスキャンダルは金よりも高値でやり取りされる。発展しているからこそ様々な問題は即座に解決され、ある意味監視社会のような物が構築されているからだ。

 過去のマキナがそうであったように、当時のマキナに近い文明水準を持ったシティーオークがそうなってしまうのは仕方の無い事だ。何せそれだけの発展を見せているのはマキナと、異世界都市コイキくらいだし、コイキに関しては絶対的強者の統治って形で成り立っているが、マキナはそうではない。マキナは結構分裂や戦争を繰り返しながら大きくなってきた。そしてそれはこのシティーオークも例外ではないってことだね。


「……アンタ酒を飲むなら何が好きなんだ?」


 唐突に問いかけを投げられた男は一瞬目を丸くしたが、俺の問いかけの意味を瞬時に理解して、シニカルな笑みを浮かべながら答えた。


「あぁ、そうだな……吐きそうになるほどマズい酒を一気に流し込むのが好きだな」












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