運命ノ出会イ
ランバージャックを出て、六日目の昼に、俺達は一人の青年と出会った。人当たりの良さそうな青年であり、団長の話では東の荒野を抜けた先にある渓谷と国境を守護している貴族の跡取りだとか。
その青年は魔物と戦いながら一人でここまで来たのか、一目で高価だとわかる煌びやかな鎧はあちこち破損し、心なしか足を引きずっているように見えた。
その青年の名はフォアというらしく、ローゼス家の次期当主だったのだが、先日ビターバレーの近くで野党に襲われ、護衛や従者を奪われ、今はその者達から護衛と従者を取り戻すためにその足取りを追っている最中だという。
その話を聞いた刀矢が真っ先に彼を旅に同行させようと言い出し、特に反対意見が出ることもなく彼の同行が決まった。
彼の行先もどうやらマキナの都であり、どうやらその野党がマキナに出入りしていることまでは調べ上げたらしい。
「そうなんですね!勇者様御一行と旅ができたとなれば末代までの自慢話になりますよ!」
そう言って刀矢と楽しそうに話をする青年を見やりながら、俺と会長は全く別のことを話していた。
「会長、マキナの都に着いたら俺の武器を選んでくれませんか?」
「どうしたんだ藪から棒に。武器は刀を使うのではなかったのか?」
「そんないじわるなことを言わないでくださいよ。前回のハングブッチャーとの戦いで痛感させられたんです。今の俺の戦い方じゃダメなんだって」
そう言うと会長は少し悩みながら腕を組んだ。その腕が胸を持ち上げる様にしているのを、フォアさんと刀矢が横目でチラチラとみているのが分かる。
須鴨さんだって着やせするタイプなだけで結構あると思うんだけど、さすがに会長程ではないかな?まあ、しっかり見たことないんだけど。
「正直私は武器を使うよりも殴る方が得意だからな………武器の選別を任されても正直困るのだ」
確かに会長程の力があれば大抵の敵はぶん殴れば爆散しますけど………道中に出会ったドルドベアが一撃で爆散したのは今でも驚きだったし。
団長と2人で意味不明な笑みを浮かべながら次々クマを爆散させる光景は正直二度と見たくなかった。
と言うか2人ってメチャメチャ仲いいよな。
「まあ剣と、大剣、それと槍かな。そのあたりを持っておくだけで充分だと思うぞ。打撃系は武器よりも拳の方が硬くなるからな、あまり気にしなくていいだろう」
それは会長だけだ。絶対に。
「まあ坂下君のように個性で出した武器は例外だけどね」
坂下の個性ってやっぱり相当強いんだな。俺のサムライも隠された力とかかないのかな。
「個性は使いこめば性能が向上するよ。まあ、それにも当然限界があるけれど、それでもやらないよりはいいだろう」
例のごとく俺の心を読んだ会長がそんなことを言って来る。本当に俺の心を勝手に読むのを辞めて欲しい。プライバシーの侵害だ。
「さてと、そろそろ今日の野営ポイントにつくだろう。私とエリザは食料になりそうな魔物を狩ってくる。黒鉄の二人は護衛をしてくれるだろうから、くれぐれも君たちは給仕に任せて楽をしようだなんて考えてくれるなよ」
会長はそう言って御者台にいる団長と話をしに行ってしまったようなので、俺はフォアさんと話をする刀矢の話しでも盗み聞きしますかね。
二人の会話はお世辞にも面白いと思えるような物ではなく、良くも悪くも世間話と言った感じだった。
その後本日野営を考えている場所に到着し、再び夜を明かした。
後数日もすればマキナの都に到着することができる。その期待感からか、その日はなかなか眠りにつくことができなかった。
それから三日後、予定よりも少し早くマキナの都に到着することができた。
普通の馬ではなく、龍馬と呼ばれるモンスターに馬車をひかせていたため、早く着いたのもあるだろう。
道中会長が教えてくれたのだが、この龍馬は龍という名が付いてはいるが、竜種の中でも最も弱い種族なんだとか。
ただ、走ることだけは得意なようで、それに目を付けた昔の人が馬車をひかせたところ、今までの常識を打ち壊す様な速さで馬車を引き始め、なおかつしっかりと餌さえ与えれば従順であるという事もわかり、人間たちは重宝しているのだとか。
「これがマキナの都か…」
ついついそう声を盛らしてしまう。俺達の感覚で言えば、スチームパンク的な都市だった。若干薄暗く、機械的な要素が多くみられるその都市は、ランバージャックのように中世程の文化水準ではなく、明らかに俺達のいた当時の技術を凌駕していることが分かる。
魔法という要因があり、さらに科学文化を発展させているなんて……少し離れた街に行けばすぐによくある中世の街並みなのに、このマキナの都の周囲だけは電子機器や、加工された金属が織りなす一見芸術的とも思える佇まいだった。
「さあ行くとしようか」
慣れた様子でそう言って来る会長。まあ会長は既に慣れているんだろうけど。それに黒鉄の二人も、団長さんもこれに驚くことはなく、街に入っていく。
唖然としながらその場に残された俺達も馬車を引く給仕の二人や黒鉄の二人に並び立つように少しだけ駆け足で彼らに追いついた。