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コノ世界ノ戦イ方

 見妃パーティーの方に向かえば、木々の中から緑色の巨体が体を揺らしながらこちらに歩み寄ってきているのが分かった。その威圧感は先ほどのトロルとは比べるまでもなく強大で、そして凶悪な物だった。


「全員下がれ。前衛は私一人で十分だ」


 団長がそう言うと、一瞬にしてグレーのタイトスーツから、聖十字らしくない機動性を考慮された装備に代わっていた。


「奴の名はハングブッチャー。討伐ランクで言えば50を超える化け物だ」


 一滴の汗を垂らしながらそう言ってきた団長。しかし視線はハングブッチャーを捉えており、その表情からは焦りのような物は見当たらない。


「サカシタとミヤモト、ミキサキの三人は遊撃。隙があればで構わないが攻撃を頼む。スガモとトリスは援護を頼む。他の者は前方の討ち漏らしを警戒しながら後衛を守れ」


 こちらを見ることなくそう言い放ち、駆け出した団長。その団長の振るった剣と、ハングブッチャーの持っていた棍棒が激しい衝撃波をまき散らしながらぶつかる。

 その隙を突いて俺は身体強化を施し、一気にハングブッチャーに駆け寄った。

 隣にはソルジャーになっている坂下も付いて来ていて、心強く感じる。


 そう思ったのだが、俺と坂下がハングブッチャーに攻撃を仕掛けるよりも早く、俺達の横をまるで風のような速さで駆け抜けた見妃が、手に持った巨大な筒のような武器でハングブッチャーの側頭部を強打した。

 そのまありの威力にハングブッチャーの体が僅かに揺れたのを団長は見逃さず、打ち上げる様に下から盾を打ち出し、ハングブッチャーの体勢を完全に崩した。


「今だッ!」


 団長の声と共に、俺と坂下が全力の攻撃をハングブッチャーにぶつけるが、手に感じたのは、まるでタイヤでも叩いたかのような嫌な感触だった。


「刀が………」


 そこで、思い出してしまった。会長に言われたことを。これだけの巨体の化け物をこんな小さな獲物で倒せるのか………という話を。

 見妃の攻撃が効いた。だが俺と坂下の攻撃は弾かれ、逆に尻餅まで付かされてしまった。

 これは、あの時の忠告を俺が本当に受け止めていなかったために生まれた隙だ………。


「対物障壁でござるよ」

「アースウォールです!」


 体制を立て直したハングブッチャーの振り下ろす棍棒が俺達の目の前で見え見えない壁を叩き割り、その後、突如せり出した地面とぶつかってようやくその勢いを止めた。

 デーブの対物障壁を一撃で叩き割るなんてとんでもない攻撃力だ。それと打ち合って押し返した団長は一体………


「貴様らは何をしているッ!さっさと立たんか!」


 珍しく声を荒げた団長の声に突き動かされるように俺達は立ち上がり、その場から大きく後方に飛びのいた。

 相当な攻撃力だが動き自体はそこまで早くない………しっかりと見極めて、それで切れるところを探すんだ。


「ドレスアップ【鍛冶師スミス】」


 隣から光と共に聞こえた声に視線を向ければ、坂下の姿が今までのソルジャーのものから、つなぎの上着の部分を腰辺りで縛ったような恰好になっていて、その肩には大きな金槌が乗せられている。


「斬撃が効きにくい敵がいつか来るって思ってた!だから、アタシなりの解決方法がこれ!」


 そう言ってこっちにニカッと笑みを見せた坂下が、俺よりも早く再びハングブッチャーに駆け出していく。

 正面からは団長が再び剣を叩きつけ、その後方からは須鴨さんが魔法の準備をしている。

 左側面からは見妃が、そして右は坂下が向かっている。

 じゃあ、俺はどうしたらいい……周囲を包囲され、一斉に攻撃を仕掛けられたハングブッチャーは次にどんな動きを見せる………それを予測しろ………そして、俺にしかできない攻撃を叩きこめ………。


 戦況を見ながら思考を巡らせる。どうする、どう動く………俺なら………。


「わかったぜ。お前の動きが」


 俺は坂下の隣を抜け、そのまま森の中に突っ込んでいく。それと同時に坂下の驚いたような声が聞こえるが、今は相手してる場合じゃない。早く目的の場所に移動しないと。


「はぁぁぁッ!」


 後ろから団長の声と共に巨大な衝突音が聞こえ、その直後に再び見妃の攻撃と思われる音が続いた。

 既に予定の場所に移動した俺はそこから坂下を見ると、坂下も大きく振りかぶった金槌で肉に覆われていない部分、ハングブッチャーの脛を思いっきり強打した。

 足を強打されたハングブッチャーはそのまま背後に数歩たたらを踏むが、なんとか踏みとどまった様で倒れるには至らなかった。


「アンカーハウルッ!」


 その直後団長から悪寒を感じてしまうような気配が吐き出され、それにあてられたハングブッチャーは視線を坂下から再び団長に向けた。


 おおよそ俺の予定通りか。あれだけの巨体で数歩もたたらを踏んでくれりゃ御の字だ。本当はこっちに後ずさりしてくるのが最高の展開だったんだけど。


 そして俺は背の高い木から飛び降り、ハングブッチャーの肩に飛び乗った。


「悪いけど、俺は皆程器用じゃないんでな………【騎突】」


 騎馬のような推進力を瞬時に体が生み出し、そのままハングブッチャーの耳から刀を脳みそまで滑り込ませる。


 初めはぬるりと滑る様な感覚だった手ごたえが、突如硬い岩盤にでもぶつかったかのように進まなくなり、刀が完全に動きを止めてしまった。


 おいおい、マジかよ。どんだけ分厚い頭蓋骨してやがんだこいつは………


 そのまま俺を振り払うようにハングブッチャーは暴れ、つい刀を手放したまま飛びのいてしまった。


 耳から頭蓋まで刀でぶっ刺されてその程度しか痛がらないのかよ……こんな化け物がうようよいやがるってのか。


 俺に赤く発光する瞳を向けてくるハングブッチャーに対し、側面にいた見妃が、俺の刀の柄の部分を獲物の棍棒で思い切り打ち付けた。


 再び衝撃音が周囲に響くが、一瞬白目をむいたハングブッチャーは即座に意識を取り戻し、その場で巨大な雄叫びを上げた。


「があっ!?」


 最も間近でそれを聞いてしまった俺は耳から血が噴き出し、鼓膜が完全に破れた。そのせいで三半規管までもがマヒし、まともに立ち上がることさえもできなくなってしまった。


「なんであれ喰らって死なねえんだよ!」



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