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変化ノ予兆

◇◇ ◇

 刀矢が正気を取り戻して数日、今までのことが嘘のようにあいつは皆に気を使いながら生活していた。そんな姿を見て、俺は少しだけ張り詰める様な緊張を緩めることができた。


 それと同時に、少人数パーティーでの遠征が危ぶまれ、今回の遠征から三組のパーティー合同での遠征が行われるようになった。

 今回の遠征ではかなり遠くにあるマキナの都まで行き、新たに召喚された勇者………つまり俺たちの顔見せを行う予定だ。

 近隣諸国を巡って、各々の国の中枢に挨拶を済ませるみたいだな。やっぱり勇者ってのはそれだけ近隣に気を使わないといけない事柄の様だ。

 確か保有している勇者の人数を統制協会に報告し、各国に周知しなくてはならないみたいだし。


 それにしても、その統制協会ってのが本当に謎の組織なんだよな。俺達と同じ勇者も多く在籍している様だけど、勇者の血を引く者なんかもいるって聞いた。そんな強すぎる集団は世界的にも脅威になると思っていたんだが、どうやら統制協会は政治なんかには関わってこない様だし、彼らのお題目が“人類を守る”ことだからこそ成り立っているのかもしれない。 

 それでも、少なくとも、この国の連中は統制協会のことをやっかんでいる節が見えるし、快く思っていない事はわかる。

 目の上のたんこぶと言ったところだろうか。


「おっきな馬車だね」


「そうでやんすな」


「ビップでござる」


「こ、こんな凄いのに乗せていただいていいのでしょうか………」


 俺の隣では坂下のパーティーも既に到着していて、残すところ見妃のパーティーと、引率の人達を呼びに行った刀矢だけとなっている。 

 そして、とても重要なことだが、オロオロしている須鴨さんがマジで天使だ。


 横目で須鴨さんをしばらく見ていると、見妃のパーティーがやって来て、乱雑に荷物を投げ置き、その場にドカッと腰を下ろした。


 これで後は刀矢と黒鉄の二人と、給仕の人が来れば準備が終わる。

 だけど、その前に須鴨さんと話をしておきたいな。


「す、須鴨さん」


「あっ、宮本くん、おはようございます。すみませんご挨拶もせずに……」


「いやいや!そんなことないですよ!それよりも、今回はかなり遠出になりますし、荷物の確認とか大丈夫ですか?」


「は、はい。昨日雅ちゃんと一緒に確認しましたから!」

 

 ふんすと鼻を鳴らしながら力こぶを作る須鴨さん。何それ可愛すぎませんか?

 眼鏡をきらりと光らせ、須鴨さんは俺の体を見てきた。


「それにしても宮本くん……かなりがっしりしてきましたね……こっちに来る前とはもう別人みたいですよ!」

 

 確かにかなりきついトレーニングをこなして、筋肉は相当ついた。だけど、この世界に来てから明らかに努力が結果を出すまでの時間が短くなっているような気がする。

 まあそんなことはどうでもいいんだけど。そんなことよりも、須鴨さんが転移前から俺のことを見てくれてたことがすごくうれしい。


「須鴨さんも随分と逞しくなったと思いますよ」


「あはは。宮本くんのことだから悪気がある訳じゃないと思うんですけど、女の子に逞しくなったはあんまり誉め言葉に感じませんから、他の子に言う時には気を付けてくださいね」


 言いません。他の人になんか。

 だけど、そっか………確かに女の子相手に逞しくなったは駄目だな。刀矢ならもっと気の利いたことを言うだろうし、俺も頑張らなくては。


「ごめんなさい……悪気はなかったですけど、なんていうんですかね……少し自信が付いたような、そんな感じがしたんでつい……」


 当時の須鴨さんは殆ど自己主張しないし、何かを否定し、注意をするなんて事もなかったように感じられる。

 だけど、今の須鴨さんはそうではない。俺の失言を指摘し、注意をしてくれた。彼女もこの世界に来て少しづつ変わり始めているんだと思う。 

 少し前の刀矢とは全く別の意味で。


「お、刀矢達が帰ってきたみたいだな」


 給仕の人を呼びに行った刀矢が何故か聖十字の団長まで伴ってこちらにやってきた。


「やあ。待たせてしまって済まない。前回の反省を生かし、今回は私も同行することにしたから、色々と立て込んだ仕事を押し付け……代役に引き継いできたところなんだ」


 どうやら副団長さんが過労死するらしい。


「遅れてごめん!じゃあ皆馬車に乗ろうか!」


 そうしきり始めた刀矢が率先して荷物を持ち、馬車に積んでいく。馬車に乗り込めと言ったくせに自分だけは荷物を詰み始める辺り、昔の、俺の知っている時の刀矢に完全に戻ったみたいだな。


「俺も手伝うよ。刀矢一人でやるには少し時間もかかるだろ?」


「ありがとう。助かる」


 いつも通りの会話。あの一件以来本当の意味で勇者を目指し始めた刀矢は、以前にもまして力をつけ始めている。既に俺や坂下では相手にならないレベルの強さだってのは、周囲を取り巻く加護の多さだけでも判断ができる。

 これこそが本当の勇者の姿なんだなって、最近になって思い始めた。


「じゃあ、行こうか」


 御者をやってくれることになった給仕の女性………確かマリポーサさんとリアリーゼさんにそう話を付けると、三台の馬車はゆっくりと進み始める。

 どうかこの旅路が安全に、何事もなく終わりますように。



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