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不条理な世界

 俺にせかされ、ババアは先ほどまでの威勢が嘘のように小さくなりながら俺達の前を歩いている。

 俺の背後からはカリラが周囲に聞こえない程度の声量で声をかけてきた。


「あれはテメエのですか?」


「あぁ、そうだよ。現役時代に俺が使ってたもんだ。もう一回作ろうと思えばダース単位で死にかけなきゃならねえばかりか、性能が段違いに落ちる」


「………なんでそれでも怒らねえんですか。自分のもん盗まれて、それを景品にしたから返せねえとかふざけたこと抜かしてやがんのは向こうじゃねえですか」


「別にムカつかない訳じゃないんだけど、それでも500年も前に俺が突然いなくなって、この世界に残された装備をまだあの状態で保管してくれてたこととか、あのババアの申し訳なさそうにしてるところとか色々考えちまうんだよ。統制協会だって一つの組織であることに変わりはねえんだし、アイツだけの感情でどうにもできないのもわかってる。だから今回は事情が分かっただけでももういいやって思ったんだ」


 実際あの手袋は俺が装備していなければ他の一点物と違って、普通の手袋と何も変わらない。正直な感想驚いた。とっくにダメになってるとばかり思ってたし。それがちゃんとした形で、効果を残しながらあることに感謝もしてる。

 だってさ、“どんな手を使おうが”取り返せばいいだけだし。

 結局ここで怒っても怒らなくても結果は変わらないんだよ。絶対にあの手袋は取り返すし。だから無駄なエネルギーを使いたくない。どうせこれから嫌でも無駄なエネルギーを使うんだからさ。


 カリラとコソコソと内緒話をしていれば、存外すぐに会議をする場所に到着した。

 既に中からは相当な強者の気配をバンバン溢れ出してきていることから、メンツは俺達以外ほとんど揃っていると考えていいだろう。


「では入るとするかの」


 先頭で、寂しい老人が構って欲しそうにそう言って来るけど、当然俺は無視します。

 だってアイツ調子乗ると半端じゃなくうざったいし。こんな時に幼女特攻を持ってるイクトグラムとかがいれば………あぁ、そう言えば前にあのババアと、我らがキャロンさんは守備範囲外だって言ってたっけ。

 ひまわりのような朗らかな笑顔と、大空のように澄み切った心があって初めてあいつの中で幼女判定が下るらしいからね。ほんとなんでテメエがえり好みしてんだって感じだけど。


 ババアが中に入ると同時に、部屋の中の殺気が瞬く間に膨れがあっていく。その矛先はババアではなく、当然俺に向いているわけだけど、まあこの程度の殺気じゃ俺のパンツが少しウェットになるくらいの効果しかねえぜ畜生。


「ちゃーす」


 挨拶は大事なので、しっかり挨拶をして入れば、途端に魔法がいくつか飛んできた。

 だけどな、そんなテンプレな行動が俺に通用するはずがないだろ。


「甘いッ!ババアガード!」


「ふぁっ!?―――ほぐっぶへっあぎゃぁぁぁ!?」


 石の礫や水の塊、炎の槍が全てババアに吸い込まれるようにして直撃し、俺からすれば全ての攻撃を無力化することに成功した。


「あ、靴濡れた………おいババア、テメエしっかり守れよな。靴濡れたじゃねえか」


「………もう嫌じゃっ!なんで儂がこんな目に会わないといけないのじゃ!嫌じゃ嫌じゃ!こうなったら意地でもここから動かぬ!」


 びしょ濡れからの黒焦げになったババアがその場で跪き、涙を流しながら地面を叩いている。当然俺の背後からはカリラたんが目からビームとか出そうな程のジト目で俺を見てるし、場違い感が凄いクイーンはあんぐりと口を開けている。 

 それどころか、“一応は”重鎮のババアに攻撃を直撃させた幹部あらため上長共は皆青い顔をしてやがる。


「おい!ババアが泣きだしちまったじゃねえか!お前らほんっと最低だな!敬老って言葉知ってるか!?」


 魔法を放った三人に指さし、一人一人睨みつけてやれば、あたふたしながら、上座に座る男に指示を仰ぐように視線を送り始めた。

 その視線を受けて、上座の男はゆっくりと立ち上がり、威風堂々とした動作で俺の前にやってきた。


 ………でけえ………2m超えてる?ひょっとするともっとデカい?それにこの加護の強さは相当なもんだ。動き出しを誤れば、俺なんか認識する前に殺される。


「あなたが………千器か?」


 上座の男は顔に着けられた仮面を外すと、肉食獣のような鋭い視線を俺に送ってくる。仮面の下から出てきやがった顔は、絵物語から飛び出してきた歴戦の豪傑のような、いくつもの修羅場を潜り抜けてきた凛々しくも勇ましい面構えだこと。俺なんかにゃ一生かかろうが、二生使おうが、三生捨てようが出来そうにないぜ。


「はい、私が千器です」


 すっげー怖い。あまりにも怖くて敬語だぜちくしょう。後ろでは既にカリラたんが臨戦態勢になるような加護の奔流がこの空間内を渦巻いているのが分かる。男の背後でも、こいつらの仲間がこちらを伺いつつも、自身の身を守るための障壁なんかを準備し始めてる。


「そうか。我が先祖が随分とお世話になったと聞く。その節は本当に感謝しかない。今の私がいられるのも、元をたどればあなたのお陰という事だな」


「いやいや、突然言われてもあなたが誰だか知らないんですけど、それとあなたの先祖も」


 そう言うと、片眉をくいっと持ち上げたハンサム野郎が、思い出したようににこやかな笑みを浮かべ、自己紹介を始めた。


「私の名はラガブーリン。城壁の名を継ぐ者だ」


 ………なん………だと………?じゃ、じゃあ、まさか………まさかあいつは………結婚しやがったのか………?あの糞ペドマゾ野郎のイクトグラムが?そんなばかな………そんなことが許されていいのかよ………そんな………なにが………いったいこの世界はどうなっちまったってんだよ………





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