自家製とつけるだけで特別感が出る
豆バスの中で激しく悶えるババアを見て遊んでいると、エンジンのかかる音と共に、豆バスが動き出した。
いやーほんと、車が空を飛ぶって言うのはロマンですよね。形は気にしない方向で。
「テメエなに何事もなかったような顔してやがんですか。ガキ泣かしてんじゃねえですよ」
未だに目を抑えながら車内を転げまわるババアにカリラたんが歩み寄り、優しく介抱し始めた。
さすがカリラたんマジで天使ですわ。あんな生意気さだけが取り柄の糞ロリババアの面倒見てやるとかさすがだ。
まあでもね、昔のよしみだし、一時は一緒に旅した仲だから俺だって多少は気を使ったんだよ?常備してる自家製デスソースじゃなくて、わざわざ生体魔具で取りよせた自家製タバスコにしたんだから。
「水持ってきてやりましたから顔洗っちまってください。それと、タオルも置いといてやるんで好きに使ってくれて構わねえです」
そう言って収納袋から俺達用の飲み水を入れた桶を出し、隣の座席にタオルまで置いたカリラたん。だけどババアは痛みで目が開けられず、よたよたしてる。
それを見かねたカリラたんがババアの顔をバシャバシャと洗い流し、頻りに「まだ痛みやがりますか?」とか「もういたくねえですか?」とかやってて、正直その優しさを少しでも俺に向けて欲しいなぁなんて思ったりしました。
次はあのババアの目玉が溶けるくらいのデスソースかけてやるつもりです。男の嫉妬は怖いんです。
運転席で何故か疲れた顔をしてるクイーンのおっさんがこちらをちらりと見てから、再び大きなため息を吐き出した。
「お前ら………この女邪魔だからどかしてくれねえか?」
クイーンの座る運転席の真横に、運転席にある様々なボタンやレバーを物珍しそうに見ているマキナの女がいた。そう言えば完全に空気になって忘れてたわ。
「はいはーい全員集合してください!」
ババアもようやく泣き止んだし、カリラも片づけが終わった様で、こちらに集まってきてくれた。もちろんマキナの女もこちらにとことこ歩いてきた。
「まだ俺達君の名前知らないんだけど、教えてくんね?」
俺の言葉に対し、俺達の顔を一通り見回したマキナの女は、表情を変えず、自身を指さし、小首をかしげた。
いやん何その天然な感じ。可愛いじゃないの。おじさんの子供産まない?
「………本機の正式名称は“対魔王討伐用人型戦略兵器”です。個体識別番号は121815です」
なんだなんだ漢字がずらずら並んで最初中国語かと思っちまったぜ。まあ俺様は生粋の日本人だから英語もアリーヴェデルチくらいしか知らねえけどな。あとレロレロレロレロとか。え、英語じゃない?その単語はまだ覚えてないな。
「他に呼ばれてた名前とかはないのか?とりあえず覚えられそうにないんだけど。おじさんナンバーロック錠の番号とかよく忘れて泣く泣く切断する人だから」
俺の言葉の意味が分からないのか、対魔王何とかさんは………略し方対魔人とかでいいかな?ぎりぎり引っかからないよね?まあ、目の前の女が首を一度傾げ、その後横に振った。
という訳でだ。
「ただいまより、うちの新しいハーレム候補生の名付けを開始します!」
「新しいってことは他にも候補のやつがいやがるんですか………こんなくそ野郎好きになるとかどこの物好きだってんですかね………あっ」
しまったっ!と言った様子で周囲をきょろきょろと見回し、ほっと胸をなでおろしたカリラ。大丈夫だよ。ここにマッカランはいないし、そもそも基地外は守備範囲外だ。おじさんは君のことを言ったんだよ。
「ブレア・アソールなんてどうだ」
まさかの最初に声を上げたのは運転席に座る名もなきモブこと、統制協会のクイーンだった。
それにいち早く反応したババアが、マキナの女に抱き着き、ニヤニヤし始めた。
「ブレア、よいではないか!決まりじゃな!貴様はこれからブレア・アソールと名乗るがいい!」
「勝手に決めんじゃねえよって言いたいんだけど、まあ俺としてもいい気がしてきたな」
という訳で、第一回ハーレム候補生ドキドキ名付け大会は数秒で終わっちまった。
もう少し見せ場を作って欲しかったけど、仕方ない。
それからカリラさん?まだきょろきょろしてますけど、さすがにこんなところにアイツは来られないよ?そもそもあいつが活動できるのは“俺の領域”だけだし。今は紫結晶もないから領域指定もできないしね。
そんなことを思いながらも全く揺れることがない豆バスに揺られている気分で進んで行くと、どうにもブレアがクイーンを気にしているように感じたので、声をかけてみた。
「どうした?加齢臭がきついのかあのおじさん」
「否定。だけど、あの人は本機と似た気配を感じます」
似た気配?どういうことだ?俺は気配関係に関しちゃそれなりに定評があるけど、気配の性質何かを見極めるのなんかできないんだよな。そう言うのは生き残ることに直接関係の無い分野の能力だからまったく伸ばさずに来ちまったし、基本的に皆んな俺より強いから識別なんかしなくても良かったし。
「似た気配って言うと、あれか?お前と同じで何か凄い機械的な?だけどあいつは勇者だろ?」
そう言いながらババアに視線を向ければ、俺のことを警戒しているのか、さっと身を隠しながら、威嚇をしてきた。
残念だけどロリババア枠は俺の中でキャロンさんだけって決まってんだよ。お前みたいにキャラ付けののじゃロリ何かとは比べ物にならねえくらい偉大なロリババアなんだ。
「そ奴は確かマキナで召喚された勇者じゃ」
あちゃー、なんか結末が見えてきちまったぜ。これはあれだな………“俺と同じ”で改造された感じか。




