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祭りの時だけやたらテンション高い奴

 ユーリさん決死の縄抜け術で縄を抜け、宿の外で回復薬のシャワーを浴びたところで、ようやくカリラが宿から出てきた。

 しかも手にはご丁寧にサンドイッチの入ったバスケットを持っていて、今もその中身を食べていやがる。

 おいおい、大好きなご主人様を窓から投げ捨てて自分は一人で朝飯ですか?あぁ、そう言うことね。俺の代わりに食べてくれてたんだ。ほんっとよくできた奴隷だぜこの野郎。


「馬小屋行くけどどうする?」


「行ってらっしゃいませご主人様」


 こんな時に限って綺麗な敬語を使いやがるとは………さりげなく俺のポーチから金をふんだくっていくあたり本当に強かな女って言うか、図太いというか………そろそろマジでフラグ立たないとおじさん泣いちゃうんだけど。


「まあ、どうするか聞いたんだけどさ、その場でコイキに行けるかもしれないから着いて来てもらうんだけどね」


「じゃあ聞くんじゃねえですよ。テメエのサンドイッチも食っちまいますよ?」


 何かしらの理由をつけて俺のサンドイッチを狙っているらしい。と言うかどう考えても足りなかっただけでしょ。

 

「いいよ食っても。俺は2,3日食わなくても大丈夫だから」


 正確に言えば、2,3日食べられないような状況になり過ぎてそれに慣れてるんだけど。


「食い物残すなんざ最低な奴ですね。仕方ねえんで私が食ってやりますよ。勿体ねぇですし」


 とか言いながら若干嬉しそうにサンドイッチをぱくつくカリラを引き連れ、俺は昔自分の隠れ家の一つがあった場所の近くにある高級宿の馬小屋に来た。

 当然宿のオヤジさんには話を通してある。


「こんなところで何しようってんですか?」


 不思議そうにこちらを覗き込む………睨みつけるカリラをしり目に、俺は専用の手袋と口を開けた袋をいくつも取り出し、それを地面に並べていった。


 俺が作業しているのは宿の脇にある馬小屋の手前であり、宿から出てくる連中が好奇の視線と、あまりにハンサムな俺の顔に見とれながら歩いているのが分かる。わかるったら分かる。


「馬糞を集めます」


「死にやがれ」


 ついに敬語の欠片さえ消え失せたカリラたんが、今にもナイフを投げてきそうなのでネタバラシをしなくてはならない。


「まてまてまて、意外と使えるんだよこれが。もしカリラが敵と戦う時に、相手が馬糞投げてきたらどうする?防御しようと思えるか?」


「………殺すことは間違いねえとして、まあ避けちまいますね」


「つまりだ、俺が馬糞を投げることによって、相手の行動を操作できるってわけなのよ。それも、投げる位置を少し変えるだけで、相手がどっちに回避するかも予想できるし、これが意外と便利なんだよ」


「………言ってることはわかっちまいますが、テメエほんとに勇者かよって感想しか出ねえです」


 いや俺って勇者とか興味ないし?世界を救うとか全く考えてませんし。むしろそう言うのは誰か他の、そう言うのが好きな奴が勝手にやんだろって感じだし?だから戦い方にモラルとか倫理観とか必要ないし?


「………と、とりあえず、そう言うことだからさ」


「ちっ」


 その後二時間ほど俺は燦燦と降り注ぐ光を浴びながら馬糞をいじくりまわしていた。

 そうすると、一人の白に金色の美しい装飾のなされた甲冑を身に纏う男が、仲間の女数名を連れて宿から出てきた。

 流れる様な金髪をかき上げながら仲間と話をしていた男が俺の存在に気づき、途端に不快そうに表情を歪めた。


「おい貴様、こんなところで不愉快なことをするな。ここは貴様のような低俗な人間が来て良いところではない。その不愉快な作業を辞めて即刻立ち去れ」


 演技がかった言い方でそう話す男の声に、周囲の女がキャーキャーと声を上げる。

 これだからイケメンは嫌いなんだよ。ぶっ殺すぞ。


「お前息臭いぞ。ちゃんと歯磨きしてんのか?キスって虫歯移るんだぞ?」


 馬の糞を弄りまわしてる俺に臭いと言われ、甲冑の男は怒りを露わに俺に詰め寄ってきたが、それよりも早く、俺の頭を勢いよくカリラが叩いた。


「ちょっ!?テメエ何言ってやがんですか!?相手はどう見ても貴族様じゃねえですか!」


「え、いやだってむかつくし、イケメンだし、それに顔整ってるしこれは殺すしかないでしょ」


「………この僕を………殺す?………貴様自分が一体何を言っているかわかっているのか?」


 俺とカリラの話し声が聞こえたのか、甲冑の男が舌を向きながらプルプルしているのが見える。

 生憎男がそんなことをしても何も興奮できないユーリさんには効果がなかった!


「え?もしかしてお前言葉とか分からない系?うそー!?誰か通訳の方いらっしゃいませんかー!?この人“人間の言葉”が分からないみたいなのでぇぇえ!!!」


 パシンと、その時俺の胸に手袋が叩きつけられた。

 投げたやつを視界に入れれば、こちらに殺気の籠った視線を向けながら、こう宣いたんだ。


―――決闘だ。と。

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