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この作品には 〔ボーイズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

婚約破棄と野望とドM

流行りの婚約破棄者に挑戦しました!


こんな感じですか!

「アーサー!貴方との婚約は破棄させてもらいますわ!」


 この国の第一王女、アイリーンはそう述べた。


 普通に考えれば、王女との婚約。侯爵令息である俺が破棄されるというのはあまりに醜聞であり、絶望に身を任せるしかなかっただろう。


 しかし俺はそんなことはない。寧ろ


「よっしゃあ!」

「は?!」


 嬉しい。超嬉しい。アイリーンが好きそうな美少年を虐めぬいた甲斐があったな!


 そう、俺は転生者。この世界は今アイリーンが守ろうとしている美少年の男爵令息ガラハッド君が主人公の世界である。


 乙女ゲーの逆版?ギャルゲーというんだっけ?弟がプレイしていたのを横でチラチラ見ていただけだが、登場人物の名前を憶えていたからこそ気が付くことが出来た。


 俺は悪役のアーサー。アーサーなのに悪役である。

第一王女のアイリーンの婚約者であり、婚約者をガラハッド君に取られそうだから色々虐めた結果、追放処分されるのだ。


 侯爵令息が下級の貴族を虐めたところで咎められることなんてないはずなのだが、ガラハッド君の出生の秘密が事態を深刻化させた。

 

 彼は何を隠そう、隣国の王族、その第一王子なのである!

何でもガラハッド君が生まれた際、同日に王城で息子を生んだ侍女が、彼の赤子ながらにして美しい見た目と自分の息子の差に嫉妬して取り換えてしまったのだ。


 その後、侍女は取り換えに気が付かれない内に産後の体調不良を理由に退職、我が国まで逃げて過していたが、侍女は病気で死亡。ガラハッド君は天涯孤独(仮)となり、その高貴さに目を付けた男爵が引き取ったが、王にお目見えした際、髪色と瞳の色が隣国の王族そっくりで、疑問に思い問い合わせた所取り換えられた正真正銘の王子であることが判明したのである。


 隣国は王子の保護に感謝をするとともに、受け入れの準備が出来ていない為に王子を学園に入れて教育をしてほしいと依頼。結果、元平民現男爵令息という扱いで我が国の貴族学園へと入学した。


 そして、アイリーン王女はその見た目を気に入り、ガラハッド君の相手をしているうちに好きになって、嫉妬に狂った俺が虐めた結果『隣国の王子に対する不敬』で国外追放という事である。


 うーん、ご都合主義!


 まあ、それは良い。俺が生きているのは現実。


 俺は、ギャルゲーよりもアクションRPGが好きだ。剣と盾、或いは銃を装備し、魔法を駆使して敵を倒しながら仲間を集めてラスボスを討つ。要は冒険がしたかった。


 侯爵令息という立場に最初は絶望した。せっかくの異世界を気軽に冒険が出来ないことで気が狂いそうだった。


 だから、ギャルゲーの悪役と気が付いてからの行動は早かった。


 追放されればいいじゃん!となったのである。


 そして遂に!念願の追放となる日が来た、というのがこれまでのあらすじ。


「おっと、失礼しました。俺が何故、たかが男爵の息子を虐めたからと言って、貴女との婚約を破棄されなければならないのですか?」


 演技は最後まで続けなければ。


「そこからは余が説明しよう」

「なっ…国王!?」


 王様が隠れていたのは知っていた。でも演技しないとね。ちゃんとできてるかな?


「王女アイリーンがかばっている彼、ガラハッドは隣国の王子であるのだ」

「そ、そんな馬鹿なっ!?」

「事実である。アイリーンから相談を受けた時は驚いたが、嫉妬に狂ったなアーサーよ」

「私は、私は間違っていない!婚約者がいる王女に近づいたのはガラハッドです!その件はどうお考えですか、王!」


 追放されたらどうしようか、取り合えずなんか魔物に困っているっていう帝国って所にでも行ってみるかー。


「先に近づいたのはアイリーンの方だということだ。その時点では娘もガラハッド殿下が王子であることは知らなかったが、何やら困っていたところに声を掛けたとな」

「なっ…!」

「アーサー、お主には期待していたが、残念だ。隣国と関係がこじれるわけにもいかないからな。貴様は身分はく奪の上、国外追放とする!」

「…」


 キタ――(゜∀゜)――!!


 ま、まだだ。まだ笑うな俺。笑うのは追放される時まで取って置け。


「同時に、ここに我が国の王女アイリーンとガラハッド殿下の婚約をここに宣言する!」


 おお、ギャルゲーの通りだ。これで王女はお気に入りを手に入れて、ガラハッド君はこれから幸せが待っている。そして俺は冒険する!皆ハッピー!


「え?嫌ですけど」

「「「「…は?!」」」


 婚約が嫌だと告げたのはガラハッド君。あれ?何で?


 会場にいた全員の気持ちが一致した瞬間だった。


「王様がいる前でそのご息女のことを言うのは失礼かと存じますが、私は王女殿下のことを好ましいと思ったことはありません」

「ど、どうしたというのだガラハッド殿下!」

「そ、そうよ!私の何がいけないの!?あれほど助けてあげたじゃない!」


 おかしいなー?俺ゲームの通りにやっていたはずなんだけど。


「僕は助けて欲しいと言ったことは一度もありませんが?」


 ガラハッド君の天使スマイルが発動!その美しさは男であろうと虜にするほどきれいだった。毒吐いてるけど。


「それよりもアーサー様!追放されてしまうなんて嫌です!もっと僕にお仕置きをして下さい!」

「「「はぁ!?」」」


 ガラハッド君が俺の元に走ってすり寄ってくる。い、いかん。何かおかしいことになってる!

 

 と、取り合えずガラハッド君が嫌いなアーサーを演じなければ!


「何だ貴様!犬っころみたいに俺に縋りつくんじゃねぇ!」


 そういってガラハッド君に蹴りをお見舞いする。


「ガッ・・・!」

「王子殿下!衛兵!アーサーをひっとらえろ!」


 よし、取り合えずこれで俺は追放される!この場からも居無くなれる!


「あぁっ…!もっとぉ…!」

「「ええっ!?」」

「お願いしますご主人様!追放されるなら僕も連れて行ってください!どこまでもご一緒します!なんでもします!お願いします!」


 凍り付く空気。俺を捕らえる兵もこれには力が入らなくなった様子。


「うわっ…キモ…何なのお前?俺お前を虐めてたんだけど?」


 すまないガラハッド君。頼むから心折れてくれ。


「ハァハァ…。ええ、ご主人様が僕を怒鳴り、蹴り殴り、虐めぬいて頂けた日々は大切な思い出です!」

「いやいや、何があったお前。ちょっと落ち着け」


 流石の俺もこれには困惑。どうやら俺のせいでガラハッド君はドMになってしまったようだ。


「言うてみ?何でそうなった」

「あんなことやこんなことを公衆の面前で言わせて辱めると…!?ありがとうございます!」

「いやいや、俺がやったことはそんな言いづらいことじゃないから」


 突っ込んでしまう。これはもう完全にダメな空気だ。


「最初は僕への悪態から始まりました」

「うん、とことん屑だのゴミだの言ったよね」

「はい!確かに最初はそれで落ち込んだりもしたんです。王子であるなんて僕自身知らなかったので、平民が居ちゃいけないんだと思いました」


 非常に正しい反応ですな。


「うん、それで?」

「その後は使われていない部屋に呼び出されて、脅されたり唾を吐かれたしましたね。あぁ、あの甘美な罵倒が…」

「話を進めて?」

「ハッ!ごめんなさいご主人様!」

「ご主人様もやめて?」

「えっと‥‥それではなんと及びすれば?」

「普通にアーサーでいいから」

「いいえっ!ゴミのような僕が名前呼びなど恐れ多い!」

「いいから呼べ」

「はいっ!アーサー様の仰せのままに!」


 面倒くせぇこいつ…。


「そうした日々が続いて、ある日僕は気が付いたんです」

「何に」

「アーサー様が僕を虐める時、蹴り殴りはしても本当に痛いことはしないと!」

「まぁ、流石に可哀そうだからね」

「そんなっ!僕はこんなにも…」

「いいから続けて」

「そう感じた後に、虐められて見ると、アーサー様はどこか申し訳ないという思いがあるようだったのです!」

「うん、まぁこっちも理由があったからね。ごめんね?」

「いいえっ!それでそれで、その申し訳なさそうな顔をしながらも適度に痛みを与えてくれることに段々と気持ちが良くなって行って‥」

「うーん、やばいねお前」

「ありがとうございます!」

「褒めてないから!」


 つまり、俺の中途半端な攻撃が絶妙にガラハッド君…もうドMでいいや。ドMの快楽神経を刺激して、痛みが快楽へと変わってしまったと。


「こんなことならもっと本気でやればよかった…」

「こ、これからはもっと痛くしてくれるんですか!?」

「やらねえよ!お前は王女と結婚して幸せになっておけよ!」

「いやです!そもそも王女は僕から痛みを遠ざけようとしてくる悪魔ですよ!」

「あ、悪魔ぁ…!?」


 唖然としていた王女がようやく口を開く。


「誰か!ガラハッド殿下を医者に見せるんだ!病んでおる!」

「ハッ!」

「何をするお前たち!僕は、僕はアーサー様とおおおぉぉぉ‥‥」


 やっと、ドMはここからいなくなった。


「「「…」」」


 静寂が訪れる。


「ウオッホン!」


 王が破った。流石王様だ!


「…アーサー」

「はっ!」

「貴様はすぐにこの国から出ていけ。馬車を用意させる。二度とガラハッド殿下に近づくな」

「畏まりました」

「先ほどまでは嫌がっておったようだが、やけに聞き分けがいいな?そういえば娘に婚約破棄を宣言された時も、一瞬喜んでおったようだが」

「それは気のせいでございましょう。私のやったことがどれだけ愚かだったのか、身に染みた次第にございます」

「…そうか。では行け」

「はっ!失礼いたします!」




 そうして俺は、些かストーリーから外れたこともあったが、無事に国外追放された。


「ふー…。よっしゃああああああああああ!自由だああああああ!」


 やった、やったぞ!これでもう政略だの政治だの王女の我儘だのに振り回されることもない!あのドMも居ない!俺はやっと俺の人生を手に入れたんだ!


「嬉しそうですね!ご主人様!」

「ああ、これでようやく俺は冒険が出来るからな!…はぁっ!?」


 振り返るとそこにはドMがいた。


「な、どうやってここに!」

「いやだなぁ。僕は仮にも王子ですよ?医者にもう大丈夫と伝えて病院を抜け出した後、ご主人様の匂いを追ってきただけですよ!」

「ふざけんな犬畜生!」

「ああっ!ありがとうございます!」


 恍惚とした表情を浮かべ、ドMは地べたへとへたり込む。


「はぁ…ここまで来た時に馬車を使っただろう。送り返すから場所を言え」

「馬車は返しました!貴方様が居るのでここで大丈夫だと!」

「はあ?!あーもうふざけんじゃねぇ!」


 流石の俺も堪忍袋の緒が切れた!こいつが王子だろうと知ったこっちゃねぇ!ぶちのめしてやる!


 殴る、蹴るを繰り返し、やりすぎたかと思った時に手を止めた。


「あっ…すまない。おい、大丈夫か?」

「ハァ…ハァ…。これが、ご主人様の本気…うへへぇ」

「だめだこいつ。もうどうにもならない」


 俺は諦めた。


「おい、立てるか」


 ドMの手を取って立ち上がらせる。あれほど痛めつけたのに思った以上にダメージが無い。怖い。


「あぁ、ご主人様が僕を気遣ってくれる…厳しさの後の優しさ…幸せ…」

「もうそういうのは良いから。行くぞ」

「はい!どちらへ?」


 もう、俺にはほかに思いつかない。


「お前を隣国に押し付ける」


 ドMにした責任は取るから、俺を解放してくれ…。

ご意見、ご感想、罵倒、評価お待ちしております。


(続きは)ないです。

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