勇者と勇者
魔王を……たおした……たおしたんだ……!
戦士……戦士は……!
ぼくはいそいで魔王のへやをでる。
きっと戦士がぼくのことをまっているはずだから!
ほら、そこに立っていてぼくのこ、と……を……
「せんし……ねぇ、戦士……ぼく、たおしたんだよ? 魔王をたおしたんだよ? 戦士がおそいから、ぼくひとりでたおしたんだよ? そんなところにたっていないでぼくといっしょにかえろうよ?」
戦士のてをひこうとしても、戦士のからだはびくともしなかった。
戦士……こんなにぼろぼろになるまで……それも魔王のへやのろうかのまんなかにたって……
「ぼ、ぼく……た、おしたんだよ? ま、まおうを……た、たおした、んだ……だか、ら……うご、いてよ……おねがい……戦士……ぼくをひとりにしないで……」
それでも戦士はうごかなかった。
『僕』は戦士のために泣いた。涙が枯れそうになかったけど、泣いた。盗賊が言ってた。涙が出なくなるまで泣けって。だから『僕』はずっと泣いた。ずっと泣いて泣いて泣いて、涙が出なくなったから笑った。
おかしくなるくらい笑った。
戦士のために泣いて笑って、『僕』は魔王城をあとにした。
「……魔法使い……」
魔法使いとわかれたそのばしょはおおきなあながあいていた。
そのまんなかに、ひかるものがみえたからぼくはあなのなかにおりていった。
そこにおちていたのはぼくがあげたねっくれすだった。
「……魔法使い……ぼくね、魔法使いがぶじだったらそれでよかったんだよ? もっと魔法使いとたびをしたかったんだ。もっといろんなことをおしえてほしかったんだ」
なのに……どうして……どうしてなの……魔法使い……
『僕』は魔法使いのために泣いた。ネックレスを手に握りしめ泣いた。彼女の遺したものはこれしかなかったから。後でわかったことだけど、ネックレスには強固な防御魔法と保存魔法がかけてあった。
『僕』は泣いた。ただひたすらに泣いた。
いくら泣けども涙が枯れることはなかった。
だからそのまま歩いた。
ここは……盗賊とわかれたいせき……?
「いせきがもとどおり?」
たしか……あのときくずれたはず……
いせきのなかまでもとどおりだった。
でも
「……盗賊」
盗賊はたおれたままだった。
「ぼく……とまらなかったよ。たちどまらなかったよ。魔王をたおしたんだ! どう? すごいでしょ! ぼくひとりで魔王をたおしたんだよ!」
『僕』は盗賊を前にして笑いが止まらなかった。魔法使いで涙を使い果たしたからなのかはわからないけど。
でも魔法使いの前で笑えなかった分盗賊の前で笑った。笑って笑って、疲れて、『僕』からはなにもでなかった。
盗賊の身体は下半身がなかった。四天王の攻撃を受けたんだ、その程度で済んだと考えればいいのかどうか、『僕』には分からない。
「騎士……」
騎士のちいさなおはかにははながおいてあった。
だれかやさしいひとがおいてくれたのかな。
「ぼく、魔王をたおしたんだ。いっぱいたびもしたんだよ。いろんなひととあったんだ……騎士といっしょに……た、び……したかったなぁ……ねぇ、騎士……」
『僕』は涙が止まらなかった。
『僕』は笑いが止まらなかった。
壊れたように泣いた。
壊れたように笑った。
いや、もう壊れてたのかもしれない。
『僕』にはわからない。
「勇者がかえってきたって、魔王をたおして勇者がもどってきたってつたえて」
「わ、わかった」
おうさまがいるおしろのまえでぼくはとめられた。
だから、勇者のあかしであるけんを見せた。
そうしたらしんじてくれたみたい。
おうさまもすぐあってくれたし。
「おお、勇者よ! よくぞ戻ってきた。その様子だと魔王を討ち滅ぼしたのだな! よくぞやってくれた!」
おうさまはほめてくれたけど、どこかつめたかった。
「だがな……勇者よ。我が国だけがお前を所持するわけにはいかんのだよ」
このくにだけが……
「他国にお前の存在がバレてな。いや、それは時間の問題だったが故、なにも問題は無い。ここからが本題だ」
そういっておうさまはゆびをならした。
ぼくのまわりには騎士がいっぱい。それもけんをかまえたじょうたいで。
「この世界のために死ぬか、今ここで死ぬか選べ。他国にも魔王はおる。それら全て討伐したその暁にはお前を自由にしてやろう。嫌だと言うならここで死ね」
また……魔王をたおすの……?
みんな……いなくなったのに……?
「お前を殺す理由は……そうだな。我が国の騎士長を殺した罪だ。我は王である。その意味が分かるな? この罪人を牢へ入れよ! 勇者、お前が賢い返事をすることを我は期待しておるぞ?」
ぼくはそのままどこかへとつれていかれた。
「……なんでなんだろう」
あの頃……孤児院よりはまだマシな牢屋だった。
孤児院は……地獄だった。
今俺の目の前で広がっている地獄よりもっと酷い地獄だ。
「ぼくが……なにをしたんだろう……」
ぼくがそうかんがえていると、
「勇者殿……よろしいか?」
「あなたは……?」
「大臣だ」
だいじん……たしかおうさまのつぎにえらいひと。
「よっと。ここは冷えるな」
「ぼくはつみびとだよ?」
「見つからなければいいのだよ。勇者殿、あなたに聞きたいことがあってな」
「ききたいこと」
「騎士長……いや、騎士だったか。それと盗賊、戦士、魔法使い……あなたの仲間のことを聞きたいのだ」
「……みんな……みんな、いなくなっちゃったよ」
「それでも」
ぼくはだいじんにこれまでのたびのことをぜんぶはなした。
いっかいじゃはなしきれないからなんかいかにわけて。
「そうか。そうであったか……盗賊をあなたの元へ送ったのは私なんだ。まぁ、アイツだけでは不安だったからその後に戦士を送ったのだが……」
「それで……」
「魔法使いは私の弟の娘でな。小さい頃から可愛がっていたものだ。まぁ、あのような不出来な弟だ。その内何かをやらかすとは思っていたが……あとで私が秘密に処理しておこう」
「魔法使い……のことが、ぼくは……だいすきだったんだ……」
「そうか……そうか」
だいじんのてはおおきくてあたたかった。
騎士ほどじゃないけど。
「騎士はな、奴がこの王国の騎士団に入団した時から面倒を見ていてな。勇者殿と一緒に旅たつと聞いて、誇らしい反面心配していたのだが……そうか」
だいじんはなにかをかんがえているようだった。
「勇者殿。あなたはあなたの思うがままの道を進みなされ。その結果がどうなろうとも」
「……ぼくの」
「私はそろそろ戻ります。あぁ、それと」
だいじんはそこでいたずらっぽい笑顔で
「牢屋の鍵は開けておきます故。どうぞ思うがままに」
そういってだいじんはいなくなった。
ぼくはそこではじめてうしろをふりかえった。
たくさんのしたいがえがおを
うかべてぼくの
あしもとにたくさんあった。
それから『僕』は走った。
ただひたすらに走った。
途中何かを斬ったような気がするが気にしていられない。
走って走って走って、走り続けて、
魔王城まで戻ってきた。
ゆっくり、ゆっくりと階段を上がる。
本当に長い階段だった。
もう少し前の魔王を痛めつければよかったか。
魔王の部屋までくると、中から声が聞こえてきた。
『あの時の勇者の顔! アンタにも見せてやりたかったぜ』
『ほう? どれほどの顔をしていたのでしょうか』
『もう、盗賊。勇者様が聞いたら怒りますよ?』
『全くだ。もう少し礼儀を覚えたらどうだ?』
『なんだと? 戦士、てめぇに言われる筋合いはねぇ!』
『ほら、二人とも喧嘩はやめなさい』
『本当ですよ。もうすぐ勇者が帰ってくるのですから』
我慢出来なかった。
『僕』は扉を乱暴に開けた。
あぁ……なんだ、みんな、ここにいたんだね。
『あぁ、勇者。おかえりなさい』
『よっ。待ってたぜ』
『勇者、待っていた』
『勇者様……おかえりなさいませ』
『みんな……ただいま!』
……少し記憶に耽っていたか。
俺も耄碌したか。
「ここまできたぞ、魔王!」
ほう、今の勇者は装備が豪華なのだな。
「さぁ、この俺に倒されろ! 故郷のみんなの仇を今取ってやる!」
しかし……あの時の魔王の言葉が今になって理解できるとはな。
『ぼくはみんなのしたいのうえをあるいてきたんだなって』
「さぁ、勇者よ。この俺を打ち倒すことが出来るかな?」
今度は振り返らない。
なんたって、
ぼくは勇者だから。
あとがきを書こうと思ったのですが、長くなりそうなので活動報告に書きます。
真夜中くらいに更新かな?
それではまたどこかで!