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戦士と勇者

魔法使いのお陰で俺たちは道中を丸々すっ飛ばして魔王城の前までくることが出来た。


「勇者……そのなんだ。辛いなら泣けばいいと思う」


「ううん、そうじゃないの。そうじゃないんだけどね」


……俺は神様、アンタを呪うぜ?

こんな年端もいかない少年の背中になんて重いもん載っけてやがる。


「なみだがでないんじゃないの。なかないってやくそくしたから。やくそくはまもらなきゃダメだから」


「……そうか」


「うん」


俺たちはしばらくの間何も喋らなかった。敵の本拠地を目の前にして警戒しないのはいけないってことだってのはもちろんわかっている。だが、不気味な程に気配がしねぇ。まぁ、魔王城のなかから凄い殺気は飛んできているんだが……


「ところで、さ。戦士って盗賊となかがいいの?」


「んー……そうだな。詳しくは話せんが、仲はいいと思うぞ」


「そっか。だったらがんばらないと。盗賊に怒られちゃうね」


「そう、だな。あぁ、そうだとも。盗賊が怒ると怖いからな」


「ねぇー。ほんと盗賊ってひどいんだよ。ぼくのあたまつぶそうとするし」


「ふっ、次会った時に俺が奴の頭を握り潰してやろう」


「戦士ならできるかも! ぼくじゃむりだからがんばってね!」


あぁ、次に会った時には必ず潰してやるとも。


俺より先に死ぬ阿呆には死ぬほどの痛みを与えんとな。






「さて……いよいよ魔王城に入る訳だが……」


「のっくでもしてみる?」


「……恐らくノックした途端に俺たちは炭になるだろうな」


近くに寄れば寄るだけわかる。これほど濃い殺気は味わったことがない。

だが俺とていくつもの修羅場を切り抜けてきた。この程度で怖じ気つくほど軟弱者ではない。


「では俺が斬り込む。勇者は俺の後から着いてきてくれ」


「ねぇ、戦士。ひとつだけやくそくして?」


「俺に守れる約束ならばいいぞ」


「ぼくといっしょにまおうをたおして」


その言葉の重みを俺は感じ取ることはできない。が、顔で分かる。


10もいくかいかないかの少年にこんな顔をさせちゃいけねぇ。


「承知した。この戦士、必ず勇者と共に魔王を打ち倒すことを誓おう」


「うん……うん」


「では……いくぞ」


俺は背中に担いでいた斧を振り抜きながら扉に思いっきり叩きつける。

むっ、ヒビが入る程度か。

ならば、


「これならどうだ!」


斧を1度持ち上げ、再度振り下ろす。その瞬間に俺自身に強化魔術を掛ける。あまり魔術は得意じゃないんだが……うだうだ言ってられん。


少しだけ勢いがあり余るだけのことよ。


「「「ぐぁぁぁぁぁぁ!!!」」」


「おー……まものがふっとんじゃった」


「ついでにいくつかの壁を破壊しておいた。これで進みやすくなっただろう」


「ねるときさむそうだけどね」


「……そうだな」


こういうのは大概魔法で直すものだと思うが……まぁ、言わなくていいか。


「では行くぞ!」


「おー!」


扉の付近に待機していた魔物を吹き飛ばしたとはいえ、流石魔王城。後から次々湧いてくる。流石に厳しいか?


「ねーねー、戦士。ぼくだってまほうがつかえるんだよ?」


「ほう? ならば見せてもらってもいいか?」


「ふふん。ぼくのまほうにおどろくがいい」


ふむ、少しだけ期待してみるか。


勇者がその腰に吊り下げている剣を自身の前に構えたその時、


「剣が光った?」


「いっけー!」


剣から光の線が延びて真っ二つにするのかと思ったのだが……光が部屋全体を包んだと思ったら、なんと魔物共は全員灰となってしまった。


「どう? どう? すごいでしょー!」


「お、おう。予想外の攻撃だったから驚いたぞ」


「でもね……これ、ちょっとだけ……つかれるんだ……」


「……ならばその力は魔王まで取っておけ。あとは俺がやる」


「たのんだよ、戦士……」


「あぁ、任された」


ぐったりしている勇者を背に担ぎ、俺は今一度気合を入れ直す。


「行くぞ!」






しかし……フロア数がやたらと多いな。

入口の扉からいくつの階段を登ったと思っているのだ。

まぁ、出てくる魔物は俺の斧で両断できるからいいのだが。


「戦士……だいじょうぶ?」


「問題なし、だ。だが……長いな」


「ながいよね」


一体魔王は何を思ってこんなにも階段を作ったのか……






うぉぉぉぉぉ!


「戦士! うしろがすごいよ!」


「どう凄いのだ!?」


生憎俺は逃げるのに精一杯で後ろを振り向けん!


「えっとね……まもののたいぐんでてんじょうがみえない」


「何? それはほんと」


チラッと見なければよかったと後悔するももう遅い。


「なんだ、あの量は!?」


「うーん……やっぱり戦士がへやをこわしたのがだめだったんじゃないかな?」


「まさか風呂に入ってるとは思わんだろうて! 男か女かわからんのだぞ!?」


それに裸を隠すようなポーズを取られても反応に困るというものだ。


「むむ! 戦士、つぎのかどをみぎにまがって!」


「よしきた! しっかり捕まってろ!」


こうやって逃げている間にも少しずつ魔王のいる部屋に近づいている。

というのも勇者が魔王のいる場所を逐一察知しているようなのだ。

対魔王限定なのが少しアレだが、便利である。


「そのつぎはかいだんをぜんぶあがっちゃって! そのさきが魔王のへやだよ!」


「こ、この階段をか……」


目の前には軽く100は超える階段、後ろには魔物の大群。選ぶは


「こんちくしょうが! 魔王、その首洗って待っていやがれ!」


「が、がくんがくんするぅ!」


「口閉じてろ! 舌噛むぞ!」


数段飛ばしで上がっているからか勇者が大分揺れているが……気にしてられん!


「自己強化の大盛りだ! 一気に行くぞ!」






「こ、こ、が、ま、まお、うの、へ、や、か」


「戦士……大丈夫?」


「だ、大丈夫、だ! だ、が、少し、だ、け息、を、と、とのえ、さ、せて、く、れ」


も、もう2度とあの階段は昇らんぞ……階段のあとに階段とは何を考えているのだ……


「お待ちしておりましたよ、勇者御一行」


「……誰だ」


俺たちの後ろから声をかけてくるのは。


「なぁに、魔王様の部下の1人です。ですが……今ここにいるのは我が姫の裸体を見たそこの男を処分するためです」


「やっぱりあのときへやこわしたのがまずかったんじゃ……」


「……かもしれん」


というか姫かよ。もっとこう……分かりにくいところに風呂を作れよ!


「魔王様にそう簡単にご対面できると思わないことですね!」


「……おうおう、また随分と用意しやがって」


「戦士、ぼくもたたかうよ」


俺の横で勇者が剣を構える。


「あー……そのなんだ。先に謝っとく。すまねぇな、勇者。俺、お前と一緒に魔王倒せねぇ。だから……先に行ってろ!」


俺がそう言うと勇者は泣きそうな顔をしていた。


「そんな顔をすんな。俺は必ず追いつく。この魔物の群れを何とかしてな。コイツらを何とかしねぇ限り、俺たちは常に背中に気を配らなきゃいけねぇ。が、俺達がここで魔物を全部倒していたらキリがねぇ。わかるな?」


わかるけどもわかりたくないって顔に書いてるぜ、全く。


「だからここは俺に任せろ。お前の背中は俺が守る。お前は魔王を倒すことだけに専念しろ」


俺は背中に担いでいる斧を構える。魔物の大群が俺に襲いかかるまで残りわずかって所か。


「安心しろ必ず追いつく。なんだったら魔王を倒して待ってろ」


最後の最後に頷きやがって。お前はいい男になるぜ、全く。


「いけ、勇者! このクソみたいな戦いのケリつけてこい!」


「戦士、ぜったいだよ!」


「わかってるよ。お前こそ勢い余って魔王城崩壊させんなよ?」


魔物の大群がやってきた所で俺たちは2手に別れる。


勇者は先へ。


俺はコイツらの相手。


「さぁ、来い! ここから先1歩たりとも通すことが出来ると思うなよ!」

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