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魔法使いと勇者

辺りが光で包まれる、その瞬間に私は魔力を使って魔法を発動させる。


瞬間移動


1度言った場所ならどこに居ても移動できる魔法。

ただし、魔力をかなり持っていかれる上に距離に応じて魔力の回復が遅くなるという欠点付き……なので、遺跡が見える丘の上に移動させていただきました。


……遺跡が崩れ落ちる……

四天王が本当にこれで倒れるのかどうかは……正直不明です。ですが、私たちが魔王城に辿り着くまでの時間稼ぎにはなるでしょう。

……盗賊。あなたの勇姿、けっして忘れません。


「勇者様……もういいのですか?」


「うん」


「でしたら安心しました。私は常にあなたのお側にいます。あなたを1人にさせません。決して」


勇者様は崩れ落ちる遺跡を眺めながら何か考えているようでした。

その顔は盗賊のことを信じているようであり、裏切られたようであり……様々な感情が混ざりあっていて


「そんな泣きそうな顔をしないでください。あの日私にかけて下さった言葉を覚えていますか?」


「おぼえているよ。魔法使いがないていたから、なきたいときはなけばいいっていったもん。盗賊が、ね。おしえてくれたんだ」


盗賊……やはりあなたはお優しい人だ。今は……戻れませんので、魔王を打ち倒したその暁にはあの街にあなたの像でも作ってもらいましょうか。ふふ、あなたの嫌がる顔が思い浮かびますよ。


「そうです。ですので、勇者様。まだ涙が枯れないのであれば思う存分泣いてくださいな。ここには私しかいません。見えるのは木々とその隙間を縫うように星空がチラホラ。私の胸で宜しければ思う存分泣いてくださいな。もう……あなたの辛い顔を見たくありませんので」


「魔法使い……ぼくね、盗賊とやくそくしたんだ。ぼくはおとこだからつよくなるって。そしたら盗賊はわらって『俺様より強くなってみろ。その時は1人前として真剣勝負してやるよ』っていったんだ……でもね、ぼく……つよくなれそうにないよ……どうしたら、い、いの……かな」


……強くなる、ですか。


「でしたら簡単です。前だけを向くのです。ですが、前ばかり向いていては後ろに気づけませんので、たまに後ろを振り返ってください。そして今日の日を思い出してください。あなたのその思いがあなたを強くするのです」


「魔法使いのおはなし、むずかしいよ」


「ふふっ、いつの日かわかるようになりますよ。今は……存分泣いてください」


「ちょっとだけ、ちょっとだけ……ない、ても……いい、よ、ね」


あぁ、盗賊。あなたは優しくてそれでいてとんでもない人ですね。こんな小さな男の子の背中がこれほど大きく見えるなんて。

そちらからでも見えますか?


勇者様の広くて大きくて頼りになる背中が。






あれからどれほどの陽が昇り月が落ちたでしょうか。もはや数えることをやめた気がしますが……それでも少しずつ近づいている感じはします。何しろ魔物が少しずつ強くなっているのですから。


やはり自分の陣地は守りを固めているのでしょう。


「勇者様、今日はこの村に泊まりましょう」


「うん。あれ、なにかやってるよ?」


勇者様が指さす方を見ると、何やら祭りでしょうか。催し物や屋台が数多く並んでいました。


「あの、よろしいでしょうか」


「おや、旅のお方ですか?」


「何やら楽しそうな雰囲気ですが、何かあったのですか?」


私は門番の方に声をかけ、この村で何をやっているのかを尋ねました。


「収穫祭だよ。今回は特に豊作でね。神様に感謝するために豊作の時はこうやってお祭りを開くのさ。普段はあまり商人も寄らないんだけど……豊作の時はいっつもこんな感じだよ」


「なるほど……ありがとうございます」


「あぁ、そうそう。宿泊が目的なら今のうちに宿を取っていた方がいいよ。すごく混雑するからね」


「なにからなにまでありがとうございます。行きましょうか」


「おまつり! たのしそうだね!」


「ええ。宿を取ったら私達も参加しましょうか」


「うん!」






「ほへぇ……いろんなにおいがするね!」


「どれもこれも美味しそうですね」


宿屋の人の話ではこの辺りでは穀物がよく取れるそうで、自然とそういう料理メニューが多くなるということでしたが、確かに色んな穀物料理が並んでいますね。


「あっちは……なにあれ?」


「あれはアクセサリーとかですね。要はオシャレなお店です」


「あくせさりー?」


まだ勇者様には早いのでしょう、首を傾げていました。


「えぇ。大人には誰かに見られたいためにオシャレをする人、自分を着飾るためにオシャレをする人、様々な人がいるのです」


そういえばオシャレなんてしばらくしていませんね。どうしてもその日暮らしの旅になってしまいますので、無駄なお金は出せないのですよね。


「魔法使いもおしゃれしたいの?」


「……魔王を打ち倒したその後でしてみたいですね」


「ふーん……」


私も、私を見てほしい人に振り向いてほしいのです。今は振り向けはしませんが。


「ぼくちょっとなにかたべてくるね」


「でしたら一緒に行きましょう」


「うっ……あ、あれだよ。へやにおかねおいてきちゃったから、とりにいきたいの」


「お金は私が持っていますよ?」


「ぼ、ぼくのおかねだから魔法使いにはあずけていないの」


おや、勇者様がまさかこっそり持っているとは驚きですね。しかし……いえ、勇者様も男の子。何かしらの事情があるのでしょう。ここは大人の女性として立派なところを見せなければいけませんね。


「わかりました。では私はここにいますのですぐに戻ってきてくださいね」


「わかったー!」


勇者様がそれはそれは早い足取りで行ってしまいました。

それほど私には隠したいことなのでしょう。


「では勇者様が戻られるまで少しだけゆっくりしましょうか」


はぁー……流行りもののアクセサリーなんてここ数年買った覚えがありませんが……


「かなり派手になってますね……」


私には少し派手すぎるようです。

この旅が終わったその時も変わってるんでしょうね。

……流行りものの廃れはどうにも早いですね。


私がいくつかの屋台を少し離れた場所から眺めていると、


「魔法使いー! おまたせ!」


「おや、勇者様。もうよろしいのですか?」


「うん! ちゃんと買えたよ!」


「勇者様……立派に……」


「それで……はい、これあげる!」


勇者様がズボンのポケットから取り出したのは


「アクセサリー……ですか?」


「うん! ほんとうはみんなにもあげたいんだけど……今は魔法使いに!」


皆……これまで勇者様に寄り添った方々ですね。

盗賊の話では彼の前に騎士様がいたとの話ですが……それはそれは立派な方だったのでしょうね。


「ありがとうございます。あの勇者様、一つだけワガママを言ってもよろしいですか?」


「うん? いいよ?」


「ありがとうございます。それでは、そのアクセサリーを、ネックレスを私の首にかけて欲しいのです」


「わかったよ。じゃあちょっとだけしゃがんでね?」


言われた通り私は勇者様と同じ視線までしゃがみ頭を少し下げます。

……少しだけいい匂いがしたのは内緒です。


「はい! できたよ!」


「……ありがとうございます。大事にしますね?」


「ありがとう?」


「ふふっ」


私は今日という日を忘れないでしょう。

例え死しても尚。






「さぁ、旅の続きを始めましょうか」


「うん! おいしいものたべてげんきでたよ!」


「それはよかったです」


勇者様が元気なのが1番ですから。


私たちが村を出てまた旅を開始してからいくつもの陽が昇り、月が落ちたことでしょう。


「勇者様! ここはお逃げ下さい!」


「魔法使いをおいていけないよ!」


くっ……まさか森の中で罠に掛かるとは……


「ふん……万が一の為に罠を仕掛けておいて正解であったな。魔王様はこの森から来ないだろうと予測しておいでだったが……よもや釣れたのが勇者とはな」


そして敵対するは四天王が1人のようですね。そこらの魔物とは魔力の質が随分違います。どす黒く濃い闇の魔力。


「く、くるならこい!」


「いいや。お前は最後にしてやる。まずは……お前の前でこの女を殺してやろう。その次がお前だ、勇者」


「勇者様! 私のことは構いません! 私なぞ捨て置き早くお逃げください! あなたには魔王を倒すという目的があるのですから!」


「口喧しい女だ。まずはその舌から切り捨てやろう。その次は耳だ。次に目玉を片方ずつ。手足を1つずつもいでいき、内臓を1つずつ潰していく。最後に心臓を突いてやろう。安心しろ、心臓を突くまでお前は死なない」


よもやここまでですか……本当は魔王城で、いえ、魔王の目の前で使おうと思っていた取っておきなのですが……仕方がありません。


私が覚悟を決め魔法を使うために集中しようとしたその時、


「いたいけな少女と年端もいかない少年をいたぶるクソ野郎はお前か?」


「なんだ、お前は?」


「通りすがりの戦士様だ。お前、魔王直近の四天王が1人だろう?」


「そうだと言ったらどうなんだ?」


「……お前個人に怨みはない。が、四天王には恨みがある。悪いが個人的な憂さ晴らしに付き合ってもらおうか」


そう言って戦士と名乗る男は背中に担いでいた勇者様ほどあります斧を構えました。


「……面白い。たかが人間如きにやれると思うな?」


「御託はいい。さっさとかかってこい」


それからの戦いは熾烈を極めるものでした。

戦士の斧は地面を砕き、木々をなぎ払い、四天王は木の影からコソコソと攻撃するもの……だと思っていましたが、どうやら投げるナイフにかなりの猛毒を塗っているようです。


「どうした? 影から攻撃するしか能がないのか?」


「お前こそバカ正直に真正面から突撃するしか能が無いのか?」


「いいや、これでいい。何しろ俺は囮だからな」


「なに?」


そういえば勇者様のお姿が……?


「今だ、決めろ!」


「たぁぁぁぁぁぁ!」


「ぐっ!」


木の上からの襲撃……なるほど、囮とは勇者様が木の上に登る時間を稼いでいたのですね。ですが、惜しい……いえ、今のは


「自分の腕を犠牲に逃れたか。だがここから逃がすと思うか?」


「何をしているのだ」


「むっ、四天王が2人……これは厳しいか……」


「……こちらの馬鹿が先走ったようだ。大変申し訳ない。我ら四天王はこれより先に待ち受ける。覚悟が決まったのならば来るがいい」


どうやら見逃して……いえ、死が少し先になっただけのようですね。


「……行ったか」


「助かりました。あなたがここを通っていなければ私たちは……」


「それだが、少しだけ嘘をつかせてもらった」


戦士と名乗る彼は私の足元の罠を解除しながらそう告げてきます。

嘘、ですか。


「俺は……とある方の指示で勇者、お前の後をこっそり追っていた。途中報告のために目を離した時に見失ってしまったが……無事でよかった」


「しじ?」


「命令を受けたのですよ。誰かからの、ね」


「……済まない。俺の口から話すわけにはいかない。それより盗賊はどこだ? 勇者と盗賊が一緒に行動しているのは知っているのだが……」


盗賊と知り合いのようですね。ですが、彼は……


「盗賊は……あとでおいつくよ」


「別行動、というわけか。ならばそのうち来るだろう。奴はそういう男だからな」


「随分と信用しているのですね」


「同じ釜の飯を食いあった仲だからな。アイツが聞けば怒るとは思うが」


容易にその姿が想像出来ますね。


「さて……本題はここからだ。四天王4人に対してこちらは3人。かなり不利な状況だ」


「……私に秘策があります」


「ほう?」


「魔法使い……やくそくやぶっちゃだめだよ?」


「ええ、分かっています」


分かっていますが……こればっかりは。






森を抜けたその日の夜。


「それで、話とは?」


私は勇者様が寝静まった頃を見計らい、戦士を呼び出していました。


「盗賊のことについて、です」


「……ここにいないということは既に」


「恐らくは」


崩れかけとは言え遺跡を崩壊させる程度の威力です。例えギリギリ避けることが出来たとしても……


「そうか。薄々そうじゃないかと思っていた」


「勇者様にはどうか」


「分かっている。だが……勇者はそこまで弱くないと俺は思うけどな」


そう言って戦士はその場に腰を下ろしてしまいました。


「見張りは俺がしよう。ついでにあの男の冥福を祈るとしよう」


「……それでは失礼します」


私の言葉に戦士は手を挙げただけでした。






「ふむ、覚悟が決まったと見える」


「へぇ、あの時のお嬢ちゃんもいるじゃない」


「僕達と本気でやりあおうというその精神は評価するけど……無茶が過ぎない?」


「片腕の借りを返させてもらおうか」


森を抜け、3度陽が昇り、3度月が落ちたところで、私たち3人は魔王直近四天王と対峙していました。それにしても……やはりそうですか。あの遺跡で出会った2人は傷一つついていない様子でした。


「戦士、あとは頼みました」


「速攻か。それが一番なのかもしれないが……いいのか?」


「ええ。勇者様には後であなたから説明してあげてください」


「……苦手だが請け負った」


勇者様には昨日眠られた際に魔法をかけていますので、しばらくは目が覚めないでしょう。


「まさかここを通すと思っているのか?」


「無理にでも通させます」


『暴走』


「この感じ……魔力の暴走!?」


「うへぇ……よくやるよ……」


「これであなた達は動くことができません。戦士、先に行ってください」


「……すまない」


魔力の暴走。言葉だけでは何のことやらさっぱり分かりませんでしたが……なるほど、無理矢理魔力の上限を解除、そして増幅させているのですね。身体が痛みを訴えていますが……そんなことは無視です。


「ふむ……地面を陥没させ足ごと地面と同一化させたか」


「納得している暇があるのか?」


「これもまた運命というもの。我は如何なる結果になろうとそれを受け入れよう」


「はっ! だったら俺は抗ってやるよ! あの時とは違ぇんだよ!」


「僕もちょっとだけ本気だそうかな?」


「はぁ……どうしてうちの男連中はこんなのばかりなのかしら……そうは思わない?」


私に聞かれても困るのですが……しかし、力づくで私の拘束から抜け出そうとするとは……


「ですが、それは予測通りです」


『サクリファイス』発動条件クリア。


「なので、ここで決めさせてもらいます」


「……まさか!」


「どうやら知っているようですね。ええ、そのまさかですよ」


「その魔法は色々と条件が……まさか、あなた! 暴走した分の魔力で補おうというの!? 無茶を……」


「ふふ、この程度の無茶であなたたち4人を道連れにできるなら私の命なぞ安いものです」


あぁ、勇者様。お約束をお守り致しませんで申し訳ありません。

私は……ここまでです。

ですが、魔王城は目と鼻の先。

ここからはお二人で頑張ってください。


私は四天王を1人でも多く道連れにしますので。


「まーほーうーつーかーいー!」


「っ、勇者、様……どうして」


「すまない、目を覚ましてしまってな。止めようとしたんだが……」


「どうして! どうしてなの!? ぼくとやくそくしたよね!? ずっといっしょにいてくれるって! どうしてやくそくをまもってくれないの!?」


……あぁ、勇者様。そんな顔で、泣きそうな顔をなさらないでください。こうするしか他に方法はないのです。


そう、言うつもりでした。ですが、私の口からでてきたのは


「私だって……できれば、約束を守りたかった。あなたと一緒に魔王を倒す旅を最後までしたかった! ですが……これしか方法がないのです。もう無理なのですよ! ここで四天王を倒さないと、いつ命をとられたものか、わかったことではありません! なので……私がここで、倒します……」


私は……幸せでした。


「魔法使い……なかないで……ぼ、ぼくも、なか、なかないから」


あなたと共に旅ができて。


「……泣いていませんよ。ほら、勇者様も泣かないでください」


あなたと共に色んなことを知れて。


「時間がありません。奴らの拘束はもう解け始めています。私がここで決着をつけます」


あなたと共に色んな景色を見られて。


「戦士、勇者様を頼みました」


ですので、私は、私の人生の中でこの旅をしている時が一番幸せだったのですよ。


「頼まれた。お前達の分も全て頼まれようぞ」


最後に


「勇者様」


私はそっと勇者様を抱き寄せぎゅっと抱きしめます。その耳元にこっそり


「大好きでございました」


そして唇にキスを。


これくらいは許してもらえるでしょう。


「2人を魔王城の近くまで飛ばします! 気を貼り直してください!」


「頼んだ!」


「魔法使い! ぼくも魔法使いのことが!」


私は暴走させた魔力で2人を飛ばします。

勇者様、言葉というものは時に必要ではないのですよ。


『サクリファイス』発動!

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