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盗賊と勇者

「……気は済んだか?」


俺様の問いかけに勇者であるちびっ子は首を横に振る。


「はぁ……騎士が死んだのはお前の責任じゃねぇよ。かといってアイツの責任でもねぇ。あの四天王とかいう奴が強すぎただけのことだ」


魔王直近配下、四天王。


そのうちの1人だったか。

あれほどのバケモンがあと3人もいるとなるとかなりの問題なんだが……

こっちも問題か。


「いいことを教えてやろう」


「いいこと?」


「あぁ、そうだ。まずは上を見ろ」


勇者が上を見る。

俺様も上を見上げる。


ったく……こっちが心沈ませているってのにどこまでも青い空しやがって……気に食わねぇ。


「何が見える?」


「そら。あおいそら」


「あぁ、そうだ。クソみてぇに広い空だ。気に食わねぇくらい青い空だ。だけどな、めっちゃ悔しいことに騎士が死んだことはあの空にしてみりゃ、どうでもいいくらいちっぽけなことなんだぜ?」


「……」


「あぁ、くそ。腹が立ってきた。だけどな、決して忘れるな。アイツが死んだことを決して忘れるな。そんでもって、それを踏み越えていけ」


「ふみこえる?」


「そうだ。人間ってのは不便な上に面倒なもんだからよ、忘れることの出来ないことの一つや二つ、そこら辺に転がってるわけよ」


「盗賊もあるの?」


その質問に俺様は一瞬答えに詰まってしまったが、


「……俺様のことはどうだっていいんだ」


言い訳っぽく聞こえるが……どうだ?


「……わかった。それで?」


どうやらごまかせたみたいだな。


「そんでだ。忘れちゃいけねぇが、それにずっと引きずられることはねぇんだ。心のどこかで覚えておけばいい」


「こころ……」


「そうだ。それともう一つ。どうしても泣きたい時は泣け。悔しい時も、悲しい時も、怖い時も泣け。泣いて泣いて、泣きまくって、涙がこれ以上出なくなったら……」


そこで俺様は言葉を切って、これでもかってくらいの笑顔を作り上げる。

俺様は天下の大盗賊様だ、これくらい造作もねぇ。


「笑え。大きな声で笑っちまえ。誰かの目なんて気にすんな。笑って笑って疲れるくらい笑って。それから前を向けばいい。そうでなきゃ、騎士が心配するぞ?」


「うん、わか……た……きし……きし……! ぼく……ぼく!」


はぁー……これでいい、これでな。安心しろよ、騎士様。勇者は強くなる。俺様よりも、アンタよりも。悲しみを背負っちゃいるが……その悲しみが勇者を強くすることだろうて。


だから安心して眠ってろ。ちょっとばかり退屈するだろうが、そのうち俺様たちもそっちに行くからよ。魔王討伐の土産話片手にな。






騎士の墓はちょっとした丘の上に作らせてもらった。

城下町に戻れば立派な葬式に立派な墓が待ってるんだろうが……俺様たちは振り返るわけにはいかねぇからな。


騎士の墓から歩いて陽が両の手で数え切れねぇくらい昇って落ちるくらい日が経った。

俺様たちは宿泊街で宿を探していた。

探していたはずだったが……


「どうして、宿を探す前に勇者を探すことになってんだ!」


「あの……親分、ちょっと落ち着い」


「あ?」


「なんでもありません! あっし、ちょっと裏の方を探してきやす!」


ったく……久しぶりに子分共と会えてちょっと立ち話している間にどこかに行きやがって……


「見つけたらお仕置きだからな……!」


「あっ、盗賊! 探したんだよ?」


俺様が密かにお仕置きのメニューを決めていると人垣を分けて……いや、人の足を分けて勇者がこっちに来た。

その後ろには女……女!?


ほほう、俺様が血眼で探している間、君は女を引っ掛けていたわけだ?

お仕置き倍増し、決定だな。


ってか、今なんていいやがった?

探した、だぁ?


「探したのはこっちだ! このクソガキ!」


「あだだだだだ! あたまがわれる!」


「この程度で頭が割れて堪るかよ!」


前菜はこの程度にしておいてやる。


「んで? そこの嬢ちゃんはなんなんだ?」


「あだだだだ……泣いてたからお話し聞いてたの」


「……あのなぁ……ちょっとばかり人が良すぎるぞ? 困ってる人を助けるのは結構だ。だけども、困ってる奴を片っ端から助けてりゃキリがねぇぞ?」


しかし……まぁ、見るからに困ってますって感じの嬢ちゃんだな。

服はみすぼらしい……というか、布キレだけかよ!

俺様は大きく口笛を鳴らす。


「おお、盗賊カッコイイ!」


「天下の大盗賊様だぞ? これくらいできて当たりめぇよ」


「親分、お呼びですかい?」


口笛で呼んだのは俺様の子分たち。懐から袋を押し付け、


「いいか、この嬢ちゃんに似合う服を数着見繕ってこい。金が足りなきゃ戻ってこい。いいか、急いでだ。一瞬でも遅れてみろ? 死んだ方がまだマシだって思えるようにしてやるからな」


「あの……親分。一体何がどうして」


「時間が惜しいってことを理解しているか? わかったらさっさと行け」


少し睨みを効かせるとゴブリンを散らすように散らばって行きやがった。最初からさっさとやれってんだ、ったく……


「……盗賊ってすごい人だったんだね」


「あ? 今更かよ。んで、嬢ちゃんは何だって泣いてんだ?」


「えっとね……お金取られたんだって」


「それだけか?」


それだけならこんな汚ぇ布を身につける必要はねぇはずだ。


「お金取られただけじゃなくて、いっぱい盗まれたんだって」


「ほう、盗みか。そっちは何とかなりそうだな」


盗みに関して俺様の右に出るやつなんぞいねぇ。ちっちぇ盗みをした馬鹿にはきつーいお仕置きをしてやらねぇとな。


「でもね、盗んだ人はわかったんだって」


「なかなかやるじゃねぇの。んで? どこの馬鹿だって?」


「お兄さんだって。で、盗まれたから取り返そうとしたら、えっと……なんだっけ……おそわれそうに? なったんだっけ?」


おいおい……見たところ嬢ちゃんは勇者よりは歳いってるだろうが、それでもまだ少女って感じだろうが。そんな女の子を襲うたぁ……人としておしまいだな。


「お、親分……か、買ってきやした!」


「服と、靴と、その他もろもろ!」


「どうぞお納めくだせぇ……」


俺様が屑のお仕置きコースを考えていると子分共が戻ってきた。

ふん、コイツらにしちゃまぁまぁだな。


「よくやったな。ほら、報酬だ。呼び出すまでどっかで遊んでろ」


「い、いいんですかい!?」


「おお……こんなにも!」


「ありがたや……ありがたや……」


拝まれてもなんも出ねぇぞ。


「で? その後はどうしたんだ?」


「えっと……たしか……近くにあった布を服の代わりにして歩いてきたんだって。でも、お金も何も無くて困って泣いてたんだって」


「なるほどな。そこにお前が出くわしたと」


「うん。それでぼく、盗賊に教えて貰ったことを言ってあげたんだよ?」


「ほう?」


「泣きたい時は思いっきり泣いちゃえ、って。それからずっと泣いてるから盗賊を探してたの」


「探してたのは俺様の方だっての。んで、だ。嬢ちゃん、お前さんはその屑にどうしてやりてぇんだ?」


俺様の問いかけに嬢ちゃんはゆっくりと顔を上げた。






ここが奴さんのいる酒場……ねぇ?

どうみても賭博場だろうが。


「ねぇ、盗賊。ここって」


「お前は何も見てないし何も聞いてない、いいな? おい、コイツ連れてちょっと飯食ってこい」


「はっ!」


……俺様は厳しい隊長様か何かか?

なんだその敬礼はよ……


「盗賊……ちゃんと帰ってきてね?」


「……安心しろ。俺様は天下の大盗賊様だぞ? 大盗賊様が約束を破るかよ」


「そう、だよね。ぼく、待ってるからね」


「先に寝てろ」


勇者が離れたのを確認して俺様は気を取り直す。

さぁて、一仕事といきますか。


「お前さん、本当にいいんだな?」


仕事の前に確認事項。


目標はいたいけな少女から盗みを働くだけじゃ飽き足らず、襲おうとした屑野郎の始末。そのついでに違法賭博場が一つ潰れた上に中にいる屑野郎共が生き埋めになるかもしれんが……まぁ、ついでだからな。そんなことまでは知らん。


「えぇ。あの男には……それ相応の罰を与えなければいけませんので」


「そうかい」


俺様が嬢ちゃんに問いかけた時、その答えは


「屑野郎の始末」


だった。


まぁ、嬢ちゃんが決心しなくても俺様が片付けていたとは思うが。


「そんじゃ入るとしますかね」


本来違法賭博場ってのは誰かの仲介なしには入れない。が、そこは天下の大盗賊様よ。抜かりなしってもんだ。


「お客様、紹介状はございますか?」


「ほれ」


裏世界じゃちっとばかり名の知れた俺様だからこそ使える手段その1。


お名前カードだ。


「……失礼致しました。あなた様がこの街に到着したその瞬間にご挨拶にお伺いするべきでございました……愚鈍なるこの私をどうかお許しくださいませ……」


「構わねぇよ。それより入っていいんだな?」


「もちろんでございます。お前達、支配人様のご来店だ! 丁重におもてなしをするのだ!」


「「「はっ!」」」


……ちょっと効きすぎやしねぇか?


「盗賊……あなたって一体」


「その話は屑野郎を始末してからだ」


俺様たちは案内されるがまま、賭博場の接待室へ。


「あっ、盗賊だー。遅いよ? 早くしないとご飯冷めちゃいだだだだだだだだ!」


「なーんでおめぇがここにいるんだ、あぁ?」


接待室の中には勇者がいた。

いや、待てよ?

俺様は飯食ってこいって言ったよな?

それがなんでこんな所で飯食うことになるんだ?


「あ、あの親分……」


「あん? 俺様は今こいつの頭を握り潰すことに忙しいんだ。さっさとしろ」


「いえ、飯屋に入ったはいいんですが、どうにもこの街の店という店が親分を慕う連中ばかりでやんして……」


「で?」


「席に着いた途端ここに案内されやした」


……つまり、だ。コイツらは普通の飯屋に入った。だが、この街の連中は俺様の名前と顔を知っている。そうなると必然的に俺様の子分共の顔も知っている。子分の顔に泥を塗ることになれば、それは俺様の顔に泥を塗ることに等しいとでも考えたか。それで街1番のここに案内した。


「なるほどな、そういうことか」


「いーだーいって! はやくはなしてよー!」


「あぁ、悪かったな」


「うぅ……魔法使いー。ぼくのあたま凹んでない?」


「大丈夫ですよ、もう痛くありませんからね」


……アイツ、魔法使いに優しくされたいからってわざとやったんじゃねぇだろうな?


「盗賊様、こちらリストとなっております」


「あん?」


リストだぁ?

何のリストかね……


「……なるほど、なるほど。コイツはちとばっかりおもしれぇじゃねぇの」


「いかがなさいましょうか」


「俺様がきっちりお仕置きしてやる。お前達は最低限の金だけ残して、ここに書いてある施設全部に金を配ってこい」


「かしこまりました」


さて、と……どいつもこいつも腐りやがって……


「盗賊? たべないの? おいしいよ」


「お前は絶対に腐るなよ?」


俺様の言うことに対して勇者は首を傾げて返事しやがった。

ちょっと腹が立ったから思いっきり頭をガシガシしてやった。


「盗賊、やはりあなたは」


「魔法使いの嬢ちゃん、その話は後でつったろ」


そういや、この嬢ちゃんは魔法が使えるんだったか。ちょっとばかり協力してもらうかね。






「これはこれは領主様、はるばるおいで下さいましてありがとうございます」


「あなたは?」


「失礼しました。私、当賭博場の支配人でございます」


「おお、支配人であったか。いずれ挨拶をと思っておったのだが、遅れてしまってな」


「いえいえ、本来であればこちらから挨拶に出向くもの。遅れてしまい誠に申し訳ありません。お詫びと言ってはなんですが、こちらを」


「……いいのかね?」


「えぇ。それと別室に用意してありますので、お1人でおいで下さいまし」


「後で向かわせてもらおう」


けっ。


「それではごゆるりとお楽しみくださいませ……」


下準備は完了、と。

さて、俺様も向かうとしますかね。






「おい、話が違うぞ! 誰なんだ、コイツらは!」

「貴様こそこの私に向かって失礼ではないか!」

「お前が何者かなぞどうでもいい! それより支配人はどこだ!?」


おーおー、腐った人間がこんなにも集まるとくせぇもんだな。


「皆様、どうなされましたか?」


「支配人、コイツらはなんだ!」


「なんだ、と仰られてもあなたがよくご存知では?」


「なに?」


一応違法賭博場って言う認識はあるようで、全員仮面を被ってるからか誰が誰か分からねぇみたいだな。

まぁ、違法賭博場も今日までだが。


「仮面を外してみては如何? よーく見知った顔が出てくるからよ」


俺様の言葉にその場にいた全員が一斉に仮面を外し始める。

うは、こうも似た顔が並ぶと最高に笑えるな、おい。


「なっ……父上。父上がなぜここに……」


「そういうお前こそ……それよりなぜお前までいるのだ!」


「あなたこそ、領主の仕事をほっぽり出して何しているのよ!」


領主御一家勢揃いってところだな。

まさか家族全員が犯罪に身を染めてるとは思わんかったが。


「おい、嬢ちゃん。出番だぞ」


俺様の言葉で扉から嬢ちゃんが出てくる。嬢ちゃんを見たこいつらの顔が最高に笑えてくる。

1人は真っ赤、2人は真っ青だからな。

顔に染料でもぶっかけられたのかねぇ?


「な、なぜ……なぜお前がここに……」


「その台詞、丸ごとお返しします。ねぇ、お兄様」


「ち、違うのだ……違うのだよ、我が娘よ……」


「そ、そうよ! これは何かの間違いよ!」


「そうですか。ところで、あなたがた3人に手渡したメモは全員同じ言葉が書かれていることをご存知ですか?」


「全員考えることが一緒とはな……領主様がここまで腐ってるとかこの王国も大変だな、えぇ?」


「き、貴様!」


嬢ちゃんの兄貴が俺様に詰め寄ってくるが、俺様には届かなかった。

何しろ子分共がこっそりコイツらの後ろから侵入してたからな。その程度の脆弱な腕で止められると思うなよ?


「な、何をする! 私は領主だぞ!」


「親分、どうしますかい?」


「どうするもこうするしかねぇだろ」


俺様は腐った人間3つに背を向けて嬢ちゃんに向かってこう言った。


「王国騎士団に身柄を渡したきゃ、そこの子分共に言えばいい。証拠と一緒にお手手が繋がれることになるけどな。だが……もし嬢ちゃんが気に食わねぇんなら、徹底的にやっちまえ。偶然にも治療出来るやつはそれなりにいるからな。俺様たちは何も見てないし、何も聞いていない」






「あっ、盗賊。おしごとおしまい?」


「おう、終わったぞ」


「それじゃこれいっしょにたべようよ。盗賊といっしょにたべるのたのしみにしてたんだよ?」


「……ったく、冷めちまってるじゃねぇか」


「おいしくない?」


「いいや。俺様がこれまで食べた料理の中でも1番うめぇよ」


誰かと一緒に飲み食いしてこれほど美味いと感じたことがあったっけか……

この旅が終わって、いつの日か騎士の墓の前でコイツと一緒に酒を呑むのも……悪くねぇかもな。






「この度は大変お世話になりました」


「構わねぇよ。で? 嬢ちゃんはどうすんだ?」


「どうする……とは?」


俺様と勇者が冷めた料理を食ってる途中に嬢ちゃんは戻ってきた。まっ、思うことがあったんだろうが、俺様には一切関係の無い話だ。例えその顔に赤い何かがついていても一切関係の無い話だ。


「魔法使いは、ぼくたちといっしょにたびにいくんだよね?」


「おい、勇者。嬢ちゃんはこれから大変なんだ。そう簡単に誘ってるんじゃねぇ」


「旅……ですか。それもいいかもしれませんね」


「おいおい……昨日話しただろ。俺様たちは魔王を倒しに行くんだぜ? 常に命のやり取りをするんだ。そんな危険な旅に出るよりは、ここで領主の仕事でもした方がいいんじゃねぇのか?」


「ふふっ、確かにそっちの方が危険も何も無く、ただただ仕事をこなせばいい日々かもしれません。ですが」


嬢ちゃんはそこで言葉を切って勇者を抱き抱えた。

……羨ましくなんてねぇからな。主張しているあの塊が勇者の顔に押し付けられて羨ましいとか思ってもねぇし、ちょっと形変えているのとか羨ましいとか思ってねぇ。


「約束しちゃいましたから。勇者様と共に旅に出るって」


「……いいんだな?」


「えぇ」


……覚悟は決まっているようだな。


「んじゃ、行くとするか」


「親分! また帰ってきてくだせぇ!」


「いつまでも待ってやすから!」


「お元気でー!」


ったく……そろそろ俺様から離れろっての。


「随分慕われていますね、盗賊は」


「ちょっとだけな」


「ふふっ、困っている人にこっそり手を差し伸ばす大盗賊様ですから、皆さん慕っているのですよ」


「……絶対勇者に言うなよ?」


「この通り」


……どこで耳を塞いでんだ……


「おめぇもいつまで挟まってんだ! とっとと自分で歩きやがれ!」


「あだだだだだ! あたまがわれるー!」


全くよぉ……こんなのも悪くねぇって思っちまうとは……俺様も耄碌したかね。






いや、完全に耄碌したわ。

昔の俺様ならこんなことになんてなってねぇ。

というかなる前に自分から回避してたわ。


ったく……天下の大盗賊様も落ちぶれたもんよ。


「盗賊ー! しっかりしてよ、盗賊!」


「あん? 無事だったか、勇者。それならいい」


「……盗賊、それ以上は」


「何言ってんだ。こんなもんちっと痒いだけだに決まってんだろ」


「ほう、まさかこの私の一撃を受けてまともな意識を保つとは」


「僕の精神妨害もあまり効いてなさそうだし。いや、効いててこれなのかな?」


クソッタレ。

まさかこんな遺跡に魔王直近の四天王がいやがるとはな。それも2人。

全く……面倒なことに首突っ込んじまった。


「盗賊! めをあけてよ! やくそくしたじゃん! しなないって!」


「んな約束したか? 覚えてねぇな」


あぁ、その目をやめろ。俺様はお前にだけは弱いんだよ。


「盗賊冗談だ。お前との約束は全部覚えてるよ。だけどな、勇者。俺様は死にやしねぇよ。ちょっとばかり永く眠るだけだ。とんでもなく眠くてな。お前は魔法使いの嬢ちゃんと一緒に先にいけ。俺様も目を覚ましたらすぐ追いかけるからよ」


「盗賊……」


「ぜったいだよ……ぜったいきてよ!」


「はっ! この俺様をなんだと思ってやがる。天下に名を馳せる大盗賊様だぞ? 俺様が起きるまで天下はお前に預ける。俺様が目を覚ましたら再び俺様の天下よ」


くっ、本格的に眠くなってきやがった……


「魔法使い、俺様が起きるまで勇者のこと、任せたぜ」


「任されました。あなたの分まで勇者と共に」


「すぐに追いつく。行け! 勇者、お前はこんなところで立ち止まっちゃいけねぇんだ!」


「そう簡単に通すと思って?」


「いいや、絶対通させる。ところで俺様はちとばっかり寝つきが悪くてな。もう少しだけ子守唄を歌ってもらうぜ!」


懐から取っておきを取り出し、目の前の2人に向けて投げる。

クソっ、安定しねぇな。


「なんだ、これは?」


「っ! 近寄るな!」


「どかーんってな」


魔法使いなら……なんとかしてくれんだろう。俺様ができるのはコイツらと一緒に寝るくれぇだ。ちとばっかりでかい子守唄になったけどな。


あとは頼んだぜ。

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