プロローグ
「むっ、誰だ」
こんな時間に誰が声をかけるのだ?
家来たち……ではないな。声が違う。ではメイド? 否、彼女たちは就寝もしくは警護中のはずだ。
『私は女神。夜更けに失礼致します』
「女神? 女神と言うと、かの聖書に掲載されている女神か?」
『人の世にどのように伝わっているかはわかりませんが、恐らくその女神でしょう。前置きはこの辺にしておきましょう』
前置きだと?
いや、仮にこの声の主を女神として、だ。この国王に何用なのだ?
『明日、東の孤児院より1人の少年が訪れます。彼は勇者です。はるか1000年前からこの世界に侵略し続けている魔王を打ち倒す者』
「それは本当なのか?」
にわかには信じられない内容だ。魔王が、魔物を統べる王が、世界の果てよりこの世界に侵略しようとしているのは知っている。魔物の被害もそう少なくはないのだからな。
『信じられないのも無理はありません。ですので、証拠をお見せしましょう。明日、勇者は鎧を身につけ、剣を携えて来るでしょう。その者に『勇者』と声をかけなさい。さすれば鎧は光り輝き、剣もまた眩く光瞬くでしょう』
それだけ言ってその声は聞こえなくなってしまった。まさか本当に勇者がいるとは……
……半信半疑だった。夢でも見ていたのだろう、そう思っていた。だが、
「確認したいのだが、そなたは本当に『勇者』なのだな?」
その途端、鎧は光り輝き、剣も同じく光り輝いたのだ!
おお、あの声の主は紛れもなく本当の女神であり、私の前には本物の勇者がいるのだ!
だが、年齢はちと幼いようだな。見たところ10かそこらだろう。こんな幼子に勇者が務まるというのか?
「ふむ、まだ幼き身でありながら、魔王を討たんとするその心意気大いに結構!
だが、1人では不安であろう。
そこでここにおる騎士長をそなたの旅の共に付けよう。
なぁに、実力は折り紙付きよ。
それでは良い報せを待っておるぞ」
私は側に付いている騎士長を指さす。
本人は相当驚いているようだが、仕方が無いことなのだ。
私は騎士長を近く呼び、小声でこっそりと告げる。
「騎士長、頼んだぞ」
「はっ、お任せ下さい!」
勇者のお目付け役といえば聞こえはいいだろう。
だが、真の狙いはそこではない。
無事魔王を打ち倒したその時が楽しみよ。