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Triple Alley  作者: 立花りん
―卯の章―
5/7

p.05


無事審査を通過し、寝室に案内されました。船員の寝室は3層に分かれていて、僕は一番上の若者衆が使うフロアの一室の前に立ちました。換気の為かドアが開けられていて、中の様子が窺えました。

言われた通り部屋は大変綺麗で、潮の臭いもしません。普通の家の寝室のようにさえ見えました。ただ、男7人が入ると少し狭いかもしれません。

同居人を連れてくると言って3人はどこかへ行きました。その後ろ姿を見送ります。3人は本当に仲良しで、僕が見る限り片時も離れませんでした。恐らくいつもああなのでしょう。1人だけを引き離すのは難しく、厄介です。

少しして「虎」と「山猫」が戻ってきました。「豹」はいませんが、後ろに同居人と思われる6人を連れています。皆思い思いの服装で汚れています。「山猫」がその前を歩いているからそう見えるだけでしょうか。

「連れてきたぜー。仲良くしろよ!」

「タニさん、こちらが新人のウェナンです。後は頼みましたよ」

「分かりました!」

6人が揃って敬礼し、2人の船長は何かを話しながら去っていきました。

6人の中で一番背の高い男が声をかけてきました。四角いメガネの奥で目が輝いています。この人が部屋の室長のようです。

「それじゃコルーシ、今日からよろしくな。入ってくれ」

「はい、よろしくお願いします」

お辞儀をすると室長は微笑み、僕を部屋に入れてくれました。他の同居人は会釈を返したりペコリと頭を下げたり、笑いかけたり手を振ったり、1人は腕を組んで僕を睨み付けていました。あまり歓迎しているようには見えない彼の姿が、何故か深く印象に残りました。


部屋の奥の方にハンモックが7つ掛かっていました。それぞれの洗濯物が床の籠に入れられています。

「まず……お前のハンモックは一番上だ、シゲの隣。んで、こいつがシゲ」

「よっ!よろしくな、新人!」

「よろしくお願いします」

軽い挨拶と共に、先程手を振っていた男の子が笑いかけました。大きさからすると、歳は僕と同じぐらいでしょうか。日焼けした童顔に、好き勝手に跳ねた短い茶髪が影を落としています。差し出された手はゴツゴツしていて、豆だらけの傷だらけでした。自分の細い手が女々しく感じられ、恥ずかしく思いながら握手しました。

室長――タニさんは次に洗濯物を入れる籠を教えてくれました。朝食時に食堂外の大きな籠に入れ、夕食時にそこから洗濯された自分の物を持って帰る制度だそうです。新しい服が必要な者は、定期的にもらう「賃金」を使って上陸した町で買えとのことでした。制服などはなく、動きやすい服、つまり戦闘向きの服であれば何でもいいそうです。

武器については、町で買ってもよいが、武器開発マニアの「山猫」に依頼する方が喜ばしいとのことでした。開発マニアって……

後のことは一緒に行動しながら覚えろと言われました。



次は自己紹介です。

新人は一発芸を披露するのがルールだそうで、僕は必死で内容を考えながら耳を澄ましました。

「まずは俺な。タニ・ケイだ、この部屋の室長を任されている」

「よっ室長かっけーッス!!」

「ありがとう、シゲ殿。俺は見ての通りこの中では一番の年長者だ」

「ちょっと待ってよ、僕も君と同じ歳だよ」

「ああ、すまない、丸。こいつは俺の友人で幼なじみで、同期なんだ」

「こんにちわ、丸だよ。よろしくねぇ」

丸さんはタニさんと同期のようには見えません。小柄で華奢で、戦闘のせの字も知らないように見えました。垂れ目で黒い髪を揃えて切っており、オカッパに近い感じです。睫毛も長く、まるで女の子のようです。がっしりした体つきで茶髪を短く刈り上げているタニさんと並ぶと、親子にも見えます。

「次は誰がする?ウカミ、お前どうだ?」

「しない。成二がやれよ」

先程偉そうに僕を観察していた背の低い男――ウカミさんです。つっけんどんにそう言い、そっぽを向いてしまいました。肩まで垂らした黒髪で顔が隠れ、本当は僕と一緒にいたくないんじゃないのかと思ってしまいます。タニさんは笑って「こいつはいっつもこんなだ。怒ってる訳じゃないから、安心しろよ」と言ってくれましたが、いつもこうだと困るような気もします。

「じゃあ……すまんが成二、頼んだ」

「はいはい。俺は神崎成二。ウカミ(こいつ)とは同期で、ここにはだいぶ昔からいる。確か、俺達が入った頃は全員で7人の海賊団だったはずだ。なあ、ウカミ?こいつのことで何か困ったことがあったら言ってくれ」

神崎さんはこいつ、と言いながらウカミさんの背中を叩きました。ウカミさんはそれを鬱陶しそうに払い除けましたが、先程までの冷たい雰囲気は少し和らいでいました。

班の中で2番目に背の高い神崎さんは頼れるお兄さん、という感じの人です。短い黄土色の髪が明るい人格を更に高めていました。気難しそうなウカミさんともやっていける性格なんでしょう。

続いてシゲさんが胸を張って進み出ました。

「シゲ・マツオカだ。ハルタと同期、あんたが入るほんの数日前に入ってきた。だからあんたとも同期だな。よろしくな!!」

「今紹介があったハルタです。よろしく」

シゲさんの隣に三角座りをしていた縁なしメガネの男の子――ハルタさんが畳み掛けるように声をかけてきました。群青色の髪をサラリと流していて、とても知的に見えます。冷静ですが、ウカミさんとは違って友好的な空気を纏っています。

これで同居人の番は終わりました。

他人の自己紹介に夢中になるあまり、一発芸のことを忘れていました。皆が(ウカミさんは別ですが)期待の眼差しを寄越してきました。重圧がのし掛かります。

僕の特技――1つだけ、一発芸とは言えないかもしれませんが、ありました。

「コルーシ・ウェナンです。よろしくお願いします」

「一発芸は?」

待ちきれずにシゲさんが訊いてきました。

「あの、一発芸と言うか……絵を描くのが、得意かもです」

「おお~!!じゃあ俺の似顔絵描いてくれよ!カッコイイの頼むぜ!」

「いやいや、ここはこの室長様を描くべきだろう、なあ?」

「じゃあ、皆さんの似顔絵を……」

「俺はいい」

ウカミさんがキツい眼差しを向けました。ゾッとするような暗い目です。

「……あ、はい……では、ウカミさん以外の人の似顔絵を」

「うは~!!ありがとよ新人!!」

シゲさんはピースサインをして固まりました。手帳と羽根ペン、インクを出してペン先を浸しました。ちびキャラ風にその姿をササッと描きます。

タニさんは顎に指を当てて考える素振りで止まりました。インテリ風に見せているのでしょう。希望通り賢く見えるように描きました。

丸さんはニヘラッと笑いかけました。素早く手元に写しとり、次に神崎さん。神崎さんはウカミさんの肩を引き寄せましたが、振りほどかれてしまいました。仕方なくシゲさんの肩に手を置いて止まりました。

最後にハルタさん。ハルタさんは体育座りのままでしたが、顔だけ動かして描きやすいようにしてくれました。素朴なタッチになるよう写しとります。

ウカミさんをチラリと見ましたが、見向きもしません。

描いた絵を5人に見せると喜ばれました。

「ほらほら、俺カッコ良くないッスか?」

「にしても、俺のポーズ決まってるなぁ……これでモテるぞ!!」

「わあ、僕にそっくりだぁ!ありがと~」

「あ、シゲもちゃんと描いてくれたんだ!ありがとな、コルーシ。なんか1人だと寂しくてな」

「……ありがと。大事にするよ」

メモを千切ってそれぞれに渡しました。再びウカミさんを窺いましたが、全く動きません。酷い嫌われようです。

僕の視線に気付いた神崎さんが耳打ちしました。

「……ウカミのやつ、俺以外には船長達にしかなつかねぇんだ。だから、冷たくされても気にすんなよ」

「そ、そうなんですか」

「ああ」

神崎さんは神妙な面持ちで頷き、急に笑顔になりました。

「ま、優しくしてやってくれ。あんたにもすぐ慣れるよ」

「はい」

「うん、いい返事だ」

そう言って頭を撫でられました。この人は兄貴肌のようです。


僕の似顔絵から話がどんどん膨らみ、話し込むうちに陽が暮れてきました。廊下の方からいい匂いがします。夕食の準備をしているのでしょう。

タニさんが顔を上げ、そろそろ時間だから食堂に行こうと言いました。皆で揃って部屋を出ると、既に他の班の人が大勢、廊下を同じ方向に向かって歩いていました。その集団に加わり、いい匂いのする方へ歩いていきます。今日一日は随分と疲れたので、お腹がペコペコでした。



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