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Fabula de Yu 短編集  作者: モモ
7/7

風魔韻旅情-マイペースの神様-






水の音が聞こえる…


あれ…


俺は…


どうしたんだっけ…


身体が動かない…



『フマイン!!!』



シンサク…?


どうしたんだよそんなに慌てて…


『フマイン!!!』


リョウマに、コゴロウまで…


ヨシノブさんまでそんな顔して…


船の上がバタバタしてる…


あぁ、そうか。


勝ったんだっけ…


でも俺は、落ちた。


ああ、海面があんなに遠い…


俺はもう、死ぬ…


父上、母上、姉上…もうすぐそちらに行きますね…



【フマイン…】



誰だ…?


【聞こえますか、フマイン】


聞こえる…

貴女は…?


【私の名はマイマイ。世界の海を統べる者】


へえ…神さまか。


お迎えに来てくれたのかな…


【いいえ、フマイン。貴方には見込みがあります。なので私の使徒として、苦しむ人々を救うのです!】


ええ…?

いきなりそんな事言われても…

ちょっと困るっていうか…

俺はもうすぐ死ぬところだし…


【え、あれっ?この世界の海を司る大海の女神マイマイですよ?私からの加護もババーンと与えちゃいますし!ね?】


ババーンって…

随分安売りじゃありません…?


【そんな事ないですっ!私が認めたのは世界でただ一人、貴方だけなんですから!】


それは、どうして…?


【貴方が、復讐の刃を使わなかったから。とても立派でした。あの時貴方は、仇敵である彼にまで、その優しさをもって救う術を探していましたね?】


-暗い海の中、ジュウゾウの姿が浮かび上がった-


ジュウゾウ…?


【彼の事を、今でも助けたいと思っていますか?】


助け…られるんですか…?

あの人には子供がいるんです…

このままでは復讐の連鎖が続いてしまう。

あんな悲しい出来事はもう、十分なんだ…!


【その気持ちです、フマイン。私が貴方を認めた理由。

貴方は、この国でも、いいえ、この世界でも並ぶ者の無い程の苦しみを背負っている。でも、その苦しみをただの一度も武器にしようとしなかった。

自分と同じ苦しみを与えようとは考えなかった。

貴方はいつも、尊敬する師や仲間を守る為に、身に付けた力を行使していました。

私はその気持ちこそが、本当の優しさなのだと、そう思うのです】


……では、あなたの使徒になれば、俺の力で救える人は増えますか?


【 はい 】


…あなたの使徒になれば、護りたい人たちを護る事が出来ますか?


【 はい 】


どうすれば、その力を得られますか?


【私に誓いを立てれば。ただし、私の加護を得た後は、貴方の意思に関わらず、貴方のもとには救うべき者、護るべき者が集まってくるでしょう。貴方はそれら全ての人を救い、護らねばなりません。貴方は、それを望みますか?苦難と困難に満ちた生となるでしょう。貴方は永遠の命と、朽ちない体を得ます。その生涯をもって、私の使徒として人々を救うことになります。それでも…よろしいですか?】


…少しだけ躊躇いを感じる。

貴女のような存在でも、感情の波はあるんですね。


【それは、もちろんあります。私はこの世界を作った者たちの一人。最初から海にいる訳ではなく、貴方たちと同じ様にこの世界を歩いていたのですよ? さて、お答えは?】


誓いを立てます。

俺の命に意味があるんだと、知りたいから。

大海の女神マイマイ。

俺はこの先の全ての時間を掛けて、目の前で助けを求める人達を救い続けると誓う。

貴女の剣となり、貴女の盾となり、人を護る。



【貴方の想い、しかと受け取りました。汝、フマイン。類稀なる優しさと勇気を持つ者よ。貴方はこれから、目の前で苦しむ人がいた場合にその手を迷わず差し出す事を誓いますか?】


はい。


【汝、フマイン。死の絶望を理解せし者よ。それでもなお、全ての命を支え、慈しみ、愛する事を誓いますか?】


はい。


【汝、フマイン。生命の重みをその身に背負う者よ。貴方が手を伸ばした先で、その手を打たれ、振り払われる時が来ても、貴方は変わらずに、全ての命を護る事を誓いますか?】


はい。


【よろしいでしょう。只今より汝フマインは、私の剣となり、盾となり、この世界を護る調停者の一員となるのです。この世界の事を、頼みますね】


感謝します、我が神。

俺はまだまだ未熟だけど、貴女の期待に応えられるように頑張ります。


【焦らなくても、時間は無限にあります。貴方のペースでいいんです】




☆★☆★☆



最初から最後まで、マイマイの姿は見えなかった。

でも最後の言葉の時だけ、ニコッていう、優しくて柔らかい笑みが見えた気がした。




それからしばらく暗闇の中を漂っている感覚が続いて、気が付いた時には浜辺に打ち上げられていた。


立ち上がると少しふらついたものの、身体に異常は無いみたいだ。

でも、暑い。

真上にある太陽の光が、ジリジリと肌を焼く感覚。

おかしいな。

ついこの間、キョウの街に雪が降ったばかりなのに。

これじゃ夏だ…


とりあえずここが何処なのか、それを確認しないといけない。

そう思って浜辺から上がり、近くに見えた港町まで歩いていった。


そこはヨコハマという大きな街で、オエド城からすぐ近くのトクガワ港より大きく、大型船舶はこっちに停泊する事になっていた。


その大きな港町を歩いて、どこか違和感を感じる。

街ゆく人々の表情が違う。

僕がリョウマに着いて色んな地域を歩いた時にすれ違う人たちは、みんなこの国はどうなってしまうのかっていう不安が表れていた。

いや、違うな。

市井の人々は国がどういう形になろうとあまり関心はない。

国の形が変わったその後に、自分たちの生活に悪影響が出ないかどうか、ただそれが心配なんだ。


それが、この街にいる人達はみんなにはその不安の影が見えない。

どうしたことか?と疑問に思いながら、気付くとヨコハマの中心街まで出ていた。

そして一際目立つ大きな建物の前を通りかかった時、突然声を掛けられた。


「フマイン…? おい、まさかフマインじゃないか!?」


「ん?」


その声の方を向くと、見たことない着物を着た人がこっちを見ている。

黒くて、スッとしていて、細身の姿が際立っている。


はぁ〜、こんな服この国にあったんだなぁ。

なんて考えていたら、両肩を掴まれた。

そういえば話しかけられたのに返事をしてなかった。


「あ、ええと、素敵なお召し物ですね?」


「え、これか?これはスーツといってな、遥か西のゼルコバっていう新興国からの輸入品なんだ。めちゃくちゃ高い代物なんだぜ」


「へぇ〜。そんな高価なものを見せていただきありがとうございます。それではこれで…」


「ちょっと待ておい!!俺だよフマイン!!シンサクだ!!!」


「え?」


名前を言われて、初めて顔を見た。

だってシンサクはこんな小洒落た格好をしないから。


「本当にシンサクだ…」


「本当にフマインなんだな…!!よく帰って来た!!こっちに来い!!」


「えっ? えっ? 」


あれよあれよと、馬車に乗せられてしまった。

どこに行くのかを聞いてもシンサクは黙ったまま、窓の外を見ているばかりで答えてくれない。


仕方ないから僕もガタゴト揺れる馬車から、景色を見ていた。


やがて夕方になり、馬車が着いた場所。

そこはオエド城からほど近い場所にある大きな邸宅だった。


「ここは?」


「ヨシノブ公の邸宅だよ。着いて来い。みんな集まってるはずだ」


「みんな?」


どんどん奥へ進むシンサク。

廊下の奥に、一番大きな両開きの扉の部屋が見えてきた。

話し声が漏れ聞こえてくる。


「だから……は、………であるからして……!!」

「それでは……的な解決にならないと以前から………!!」


会議か何かかな。

紛糾してるようだけど、それには構わずシンサクが扉をバーンと開け放った。


一斉に沈黙し、こちらを見る室内の人たち。


「なんだ、シンサクか。遅かったじゃないか。ヨコハマでの収穫はどうだった?」


「その事は後回しだ。まずはこいつを…あれっ?おいなんでそんなとこにいるんだ!早く入って来い! フマイン!!」


「…フマイン?」

「フマインだと?」

「シンサク、なんの冗談だそれは」


ザワザワしてる中、僕は扉の陰から顔を出す。

みんなスーツってのを着てる。


「えっと、どうも、皆さん… 数日ぶり…?」


「何を言ってるんだフマイン…」


ガタッと椅子を鳴らして立ち上がったのはコゴロウだ。


「あ、コゴロウ」


「フマイン、お前…()()()()()()()()()()()()()()


「…え?」


「…やっぱりな。コゴロウ、こいつはあれから五年経ったってのを知らないらしい」


「知らないとは?あの日、船から落ちたお前を、俺たちがどれだけ探したと思っている?

戦後処理や無血開城やらのどさくさで我々は現地を離れなければならなかったが、捜索隊を雇って数百人規模であの辺り一帯を捜索させた。それなのに影も形もなく、我々はもう諦めてしまっていたんだ… それなのに突然ヒョコッと帰って来たと思ったら、五年経ったと知らないだとぉぉぉ!?」


「ひぃぃぃ!?なんで僕が怒られてるんだよ!?僕だってわけわかんないのに!!」


「落ち着け二人とも!! サイゴウもリョウマも座れ!! ヨシノブ公、今日の会議はこれで終了にさせてもらいたい。後日改めて今日の続きをしよう。フマインと関わりのない者もいるからな」


「うむ、そうしよう。諸侯、すまないが聞いた通りだ。戊辰戦争で私を助けてくれた恩人の帰還なのだ。その再会の喜びを味合わせてくれまいか」


そういう事なら…と、僕の知らない人たちが席を立って退室していく。

僕はというとコゴロウに襟首を掴まれたままだ。



そうして、顔見知りだけになった室内で、僕の身に起こった事を一から説明した。

と言っても、女神マイマイと誓いを交わして、次に気付いたらあの浜辺にいたんだから、それ以上説明のしようもない。

まさか、その間に五年も時が経っていたなんて。


「女神マイマイ…」


「リョウマ、聞いたことがあるのか?」


「いや、その名に聞き覚えは無いが、この世界には創成の女神が存在している、という書物を読んだ事がある」


「あ、それって…」


「そうだよフマイン。君が姉上様から託されたあの書物だ。数年前に見せてもらってから、ずっと私の書斎にしまってある。その書物によると、この世界を創成した天帝様というのが居て、天帝様が創り給うた世界を百人の女神と天使が整えていった、という壮大な物語だった」


「でもそれは空想の物語ではなかった。そういうことか?」


「ああ。フマインが会ったという女神マイマイの話が根拠だろう? それに我々はもう、その奇跡の結果を目にしているではないか。シンサクよ」


「…あ!あいつか!そうかすっかり忘れてたぜ!」


「あいつって?」


「説明するより会った方が早え!おいコゴロウ!」


「分かっている。既にシンタに迎えを頼んだ」


「え?え?誰?」


「アイツだよ!五年前、お前と一緒に海に落ちた…」


ガチャリ、と扉が開いた。

そこに立っていたのは…


「ジュウゾウ…!?」


「いやはや… 本当に再会出来るとは… 神の思し召しに感謝ですね」


そう言いながらジュウゾウは僕の前まで来て、僕の手を取って握り、そして跪いた。


「我が命の恩人、フマインよ。今こそ五年前の御礼を申し上げたい。君はあんな事になってしまってもまだ、我が命を救おうと女神様に掛け合ってくださった。あの後すぐに船に引き上げられたのだが、その時には身体の不調は全くなく、息子共々ヨシノブ様の計らいによって部下として使ってもらっている」


「え?本当にジュウゾウ…さん…?」


「おや、分からないですかな。でもそれも無理もない。かなり痩せましたからなぁ」


顔を少し赤らめて照れながらお腹をさすっているジュウゾウ…さん。

いやいやいやいや!!

痩せたとかの問題じゃない!

顔に色濃くこびり付いていた陰鬱とした影が綺麗さっぱり無くなってるし、痩せたというよりは小さくなったという表現の方が合ってる。

それに、五年前のあの船で首を掴まれていた時の手と、今僕の手を握っている手、感触がまるで違う。

硬くて冷たくて奪う為のものだったその手が、柔らかくて暖かくて、育む為のものに変わっている。


「いえ、分かりますよ… あなたも、随分と変わられたようだ」


僕の言葉に目を見開き、しきりに頷いている。


その後は、この五年間で起きた事をみんなに説明してもらった。


あの船での出来事から二日後、倒幕軍がトクガワに到着。

先陣の大将だったサイゴウさんがオエド城に入ってヨシノブさんと会談し、オエド城の武装放棄と無血開城、そして幕府側の権力を朝廷に返還する『大政奉還』を無事に成し遂げた。

そうして二百八十年、十五代にわたって続いたトクガワ幕府は終焉を迎え、倒幕軍は新政府軍としてこのオエドを動かす為に日々奔走している。


シンサク、コゴロウ、リョウマ、サイゴウ、トシミチ。

この五人が新政府の五傑として会議などの指揮を執り、新たに元首制度を採用。

民主主義の政治を行うことに決まり、初代総理大臣には、シンサクたち蝶集藩の傑物であるヒロブミさんが就任した。


そしてヨシノブさんはというと、無血開城から二年間はミトにあるお屋敷に軟禁されていたそうなんだけど、それが解けてからは新政府軍の相談役として忙しい日々を送っているらしい。


大将軍だった頃より忙しくなるとは思ってなかった、とはヨシノブさんの言。

口調は不満そうだったけど、顔は笑ってたから結構楽しんでるんだと思う。


ジュウゾウさんは服部一族を解体。

忍びの里を解放して、服部一族が所有していた広大な土地を利用して、今や関東一円の農作物の管理を担う程に大きな田園地帯を作り上げた。

息子であるゼンゾウくんも手伝ってくれているらしく、忍びの時よりも笑顔が見られるようになった、と嬉しそうに話してくれた。



そうそう、国の名前が変わったんだって。

オエドから【ヒノモト】へ。

首都トクガワは【トキョウ】に。


今までずっと排斥してきた諸外国の文化も取り入れ始めていて、街中に続々と建ち始めている瓦斯(ガス)による灯りをともす街灯は、外国からの技術を元に作られ、暗い夜道を照らしてくれている。


生活様式も変わり始めているのだという。

シンサクのようなスーツが流行りだし、女性はワンピースドレスやスカートを着用するようになった。


くすぶり続けていた戦乱の火種は、文明開化という炎を燃やす為の燃料になったみたい。



「そうか… 五年間でそんなに平和になったんだね…」


「寂しそうな顔をするな!本来なら当初からお前にも手伝って貰わねばならなかったものを、俺たちで分担して処理しているのだ。これからビシバシと働いて貰うぞ!?」



…ここではっきりさせなくちゃいけない。

僕がどういう立場になったのかを。

女神マイマイとの誓いの言葉を思い出せ。



「シンサクごめん。僕はそれに参加出来ない」


「…なに?」


シンサクの眼光が鋭い。

僕が彼と出会ってから十年以上経ったけど、こんなに怖いシンサクは初めてだ。


「僕はもう、一人の人間じゃなくなったんだ。女神マイマイの加護を受けた神官で、この手の届く範囲を超えても、救うべき人を救わなきゃ。

この国はもう平和だ。どんどん平和になっていく。それはシンサクたちが成し遂げてくれるはず。

だから僕は旅に出て、このヒノモト以外の世界にも足を踏み入れて、そこで苦しむ人たちの手を取って、共に足を動かして、流れる涙を止めるんだ」


だから、ごめん。と、言葉を締める。

シンサクはまだ僕を睨みつけたままだ。

コゴロウは腕組みをして目を瞑って、無言を貫いている。

リョウマは僕の事をじっと見ているけど、その眼差しはいつもと変わらない。

サイゴウさんも難しい顔をしているけど、それもいつもの事だ。


シンサクだけが、僕を引き止めようとしている。

いや、違うか。

みんなはシンサクに任せたんだ。


僕から神官としての使命を諦めさせこの国に引き止め続け、僕の手を使ってこの国の平和と安寧をより強固なものにするか。

僕の出立を容認して、この国を自分たちだけで作り上げていくか。


そのどちらを選ぶか。



長い沈黙の後、シンサクはハァッと息を吐き出して僕から視線を外した。

不意に外を見ながら言う。


「世界中で助けを求める者をお前一人で救うというのか?」


「…うん」


「避けられない絶望と対峙し続けるという事だぞ?助けようとしている者たちはみな、絶望の手の中にある。それを分かっているのか?」


「…絶望なら、僕も味わったよ」


ハッとして僕を見るシンサク。

僕はその時、どんな顔をしていたのだろう。

シンサクは一瞬、哀しそうな顔をした。


「でもねシンサク。絶望の手の中にいた僕を救ってくれたのはシンサクなんだ。そしてシンサクは一人じゃなかった。僕の事を、一緒になって助けてくれる仲間がいた」


部屋にいる人たちを見回す。

一番奥の窓の外では、赤い髪が揺れている。


「僕は、なにかを成し遂げようとする時には、善悪に関わらず、必ずそれに力を貸してくれる人が現れるって事を知ってる。その人たちに、絶望はこうやってぶん殴るんだぞ!!って教えて、それを知った人たちがまた別の人にそれを教えていく。そうすれば絶望をぶん殴れる人が増えて、世界は今日よりもっと良いものになっていくでしょ?」


「フ… 絶望をぶん殴る、か…フフフ…」


「リョウマ…」


「いいね。そのセリフ気に入ったよ、フマイン。確かに我々はもう絶望と戦う術を知っているし、戦う為の力も持っている。その上でフマインの力まで借りてしまったら過大戦力となってしまうだろうな。それでは平和を作る為ではなく、平和を押し付ける為の政策を作り出しかねない。我々はこの国の上に立つ者だが、生活を作るのは民衆のひとりひとりだ。何もかもを雁字搦めにして縛ってしまっては、本当の平和は訪れないだろう」


「だがリョウマ、フマインの力はお前が一番欲していたじゃないか」


「確かにね。この五年間は決して順風満帆では無かったから、優秀な弟子の手を借りたいと願った日が何度あった事か… でもね、さっきも言った通り、平和は押し付けるものじゃない。みんながそれぞれで感じるものなんだ。そうじゃないとまた戦乱が起こるかもしれない。この次にそうなった時、武器を向けられるのは…我々なんだよ。そうならないように民主主義を取り入れ、国家の代表は国民の代表である、とした。事実、ヒロブミくんはよくやってくれている。そして我々はもう、今のままでやっていった方がいい。我々の意見が対立しても、その意見のどちらを採るか決めるのは民衆だから。それなら我々の力は、これ以上強くなる必要は無いと思わないか?」


「確かにその通りだ。だが、これよりのちに海外の列強諸国に目を付けられたらどうする?

西のゼルコバ共和国はまだ共和国になりたての新興連合国だが、時を駆ける魔術師が軍事の中心にいると聞く。

東のバルーバは現在の国王になってからかなり好戦的になった。周辺諸国の三つの国に同時に戦争を仕掛け、その全てにおいて勝利を収めたらしい。

その二国だけではない。この国は小さな島国でしかなく内戦を終えたばかりなのに対し、広大な大陸を領土にし、独自の技術で発展し続けている国はごまんとある。

そのうちのたったひとつだけでも、この国に目を向けたらどうなる?

この国が無くなった後、責任を取って切腹などしても、誰も見る者はおらんのだぞ!

それでもリョウマお前は」


「その時は僕を呼んで」


コゴロウの言葉を遮って喋る。

これは今伝えなきゃいけない事だ。


「なに…?」


「コゴロウの心配は、わかる。だからもしこの先、この国が、覆せない程の困難に遭遇したら。この国が、ぶん殴る事すら出来ない絶望に包まれてしまったのなら。僕は戻ってくるよ。だって、それが僕の使命だから」


「フマイン…」


「僕はこの国を出る。それも、僕の使命だから」


「…意思は変わらないか」


「変わらないし、曲げられない」


「フ… そうだな、お前はそういうやつだった。コゴロウ、リョウマ、サイゴウ、ヨシノブ公、それからシンタ! こいつはもう俺たちの配下ではなくなった。大海の女神の加護を得た神官サマだ。

俺たちはこの国を。こいつは世界中の人々を。

救って、一緒に歩けるように支えていく。

違う場所にいても、やる事は同じ。

なら、こいつの門出を祝おうじゃねぇか!」


シンサクの言葉に、リョウマは微笑みながら頷き、サイゴウさんは僕の肩を叩きながら豪快に笑い、ヨシノブ公は静かに微笑み、シンタはいつのまにか横に立ってた僕のほっぺをつねってきた。

コゴロウはまだ難しい顔をして腕を組んでいたけど。



その夜。

みんなと再会した会議室が、そのまま祝宴場になった。

昔馴染みの人たちも数人集まってくれて、人数の少ないささやかな祝宴だったけど、みんなが僕の門出を祝ってくれた。


シンサクに促されてコゴロウと話してみると、酔ってたのもあって泣き出してしまった。

どうやら僕がいないこの五年間、誰よりも心配していたのはコゴロウだったらしい。

泣いてるコゴロウをシンサクが茶化し、二人とも酔っ払ってたからそのまま相撲対決になり、それがそのまま大会になり。

大いに笑って、大いに呑んで食べ、それから、ちょっとだけ泣いた。




数日後。

出立の日。

みんなが送り出してくれた。

御守りとか護符とか食べ物とか色々貰って、みんなに手を振り、歩き出す。


僕はまずヒノモトを巡る事に。

トキョウやキョウは大きな街だから復興も早いけど、地方都市はそうはいかない。

東回りにグルリと一周した頃、ヒノモトの元号も変わり、また新しい文化が始まった。


そして僕は世界に出た。


その先でも色んな人に出会い、救い、そして共に理不尽と戦った。


トキョウを発って何年経ったか分からなくなった頃。

ヒノモトは世界にも名が広まる大きな国になってた。

シンサク達とはあれ以来会えないままだったけど、彼らが遺したものは連綿と受け継がれているようだ。



そして僕は今、あの時コゴロウが話していたゼルコバ共和国に身を置いている。

かつての大戦を乗り越えたこの国で、輝かしい未来を求め日々を戦う生徒たちと一緒に、僕は僕に出来る方法で、苦しむ人々を救っている。




長くなりましたが、フマイン編はこれにて終了です。

ナオ先生との出会いなどはまたいつか。


読んでくださった貴方に多謝を。

いつもありがとうございます。

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