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Fabula de Yu 短編集  作者: モモ
2/7

Song1-太陽ノック-

彼女の存在は貴方にとってどの様なものですか?


このお話には自分の中の答えを詰め込んでいくつもりです。


*一部に残酷な表現があります。

だれかが言った、彼女は主人公だと。

だれかが言った、彼女は光だと。

だれかが言った、彼女は太陽だと。

だれかが言った、彼女は希望だと。


わたしは、彼女の事をどう思っているのだろう?

その答えはまだ出ていない。







「もう、行くの?」


わたしは彼女にそう尋ねた。


「うん、行くよ!」


彼女はわたしにそう答えた。



そう答えた彼女の笑顔は、瓦礫の山と化したこの街でも、キラキラと輝いて見えた。








…酷い、それは酷い戦争があった。



魔法で栄える国だったわたしの国【リィンバース】は、知らず知らずのうちに外敵の侵入を許し、内政から崩壊していった。

兵数や装備、国の防備など無いに等しい、魔法を研鑽する為だけに作られたこの国だ。

勝てる要素なんて何一つとして無いのは赤子でも分かるはずなのに、汚い手を使って既に身内となっていた外敵に、簡単な言葉で唆された国の上層部は開戦を決定。


あれよあれよと帝国との戦争の幕が開いた。


わたしは一介の魔法使いでしか無かったし、国に仕えるようになってから日も浅かったから、上からの命令で何故か軍に組み込まれてそのまま戦地へと向かわされた時も文句なんて言えなかった。


自分でも期待していなかったけど、初戦での華々しいデビューなんてものは全く出来なかったし、更に言うと戦場に本陣を構えた翌日には、敗走兵の一員となった。


連日の雨で泥濘む道を歩くわたし達。


「あぁ、もうこのまま太陽を見る事も無く終わってしまうのかな…」

「やめろよ、後ろ向きな事言うの…」

「しょうがないだろ、こんな状況なんだから。大体さ、向こうの陣容を見ただけで負けるって分かったぜ俺には」

「だからやめろって!」

「それなのに将軍(あいつ)ときたら、突撃ー!!だってよ!?無理に決まってるじゃねえか!」

「もうやめろ!!十分すぎるほど分かってんだよそんな事は!!現にあいつはそのまま死んだ!!だからこそ俺達は生きてる!!このまま国に戻って全部伝えて、元老院に降伏を勧めよう…それしかない…」

「…あぁ、そうだな…」


前方を歩く男たちが喚いている。

逃げてるだけでこんなにクタクタなのに、よく口喧嘩なんて出来るものだ。

ボンヤリと考えていたわたしの横を後方部隊の人が走って行った。


「おいヤバイぞ!!後方から帝国軍のやつらが追って来てるって!!」

「嘘だろ!?」

「このままじゃ追い付かれるぞ!!」


容赦無い帝国軍の追撃と、その可能性に気付きすらしなかったわたし達の無能さ。

そしてタイミングが悪い事に、その時わたし達が行軍していたのは、山間(やまあい)の崖と崖に挟まれた細い一本道。

このまま後方から追い立てられたら、陣もなにもあったものじゃない。

最後の一人まで狩り尽くされて終わりだ。


せめて女性兵士だけでも逃がそうと思ったのか、男性達が立ちはだかろうとしている。

しかし、そんなものは紙のように引き裂かれて終わるだろう。

ここにいる全員がそれを分かっていた。

どうせなら、と全員が決死の覚悟を決め、迫り来る帝国軍に相対しようとした矢先、彼女が現れたんだ。


『』


どこからか聞こえた声。

そして高い崖の上から音も無く降り立った人影がひとつ。

その手には手元から先端にいくにつれて太くなる杖のようなものが握られている。

こちらに歩いてくるその人の顔はフードに隠されていて見えない。


それなのに、わたしには何故かその顔が笑っているように感じた。



「止まれ!!あなたは誰だ!!」

「今はそんな事どうでもよくない?とりあえずボクが助けたいから助ける!文句は後で聞いてあげるってばよ!」


そう言うなりその人はフードを取った。

その下から現れたのは、太陽のような、そして、いたずらっ子のような笑顔をした女の子だった。


そして振り返ると、その杖のようなものでその辺に落ちていた小石を二つ、立て続けに打ち飛ばした。

途端に響く轟音。

飛んで行った小石が、道の両側の崖を崩してしまったのだ。


目を見開いて固まるわたし達。

こんな身体能力がこの人の体にある訳がないし、ただの身体強化魔法にしてはデタラメ過ぎた。


当の本人は鼻歌を歌いながらこっちに歩いて来る。


「これで、普通の人間にこの道は通れなくなった。さぁ、行こう?」


そう言いながらわたし達の国へと向かって歩いていく。

何もかもが意味不明で、まだ呆けていたわたし達だったけど、何となく彼女に着いて行く形で帰還の途に着いた。


道すがらわたしは色々な事を聞いた。

彼女の名前はリナ。

彼女も魔法を研究しているという。

その研究の日々の中でリィンバースに居着いたのに、戦争開始と聞いて居ても立っても居られずに飛び出して来たらしい。


ヘトヘトになりながら、リィンバースに辿り着いたわたし達。

生き残った将校達が元老院に停戦と降伏を進言しに行った。

わたしはひとまず、リナの家まで彼女を送って行くことになった。


「ねぇ、あなたは何者なの?」


わたしの口をついて出てしまったその言葉に彼女は顔を俯けてしまった。


「何者…って…ボクはリナだよ?さっき自己紹介したじゃん…」

「違う。そういう事を聞いてる訳じゃない。あんな魔法、あなたの年で扱える訳がない。というかそもそも、あれは魔法なの?発動した気配が全く無かった。だとしたら、あなたのその身体は魔法で構築されている事になる。でもそんな人間は存在しない。だから聞くの。あなたは、何者?」


彼女は黙り込んでしまった。

わたしは質問してしまった事を後悔し始めていた。

彼女が何者であろうと、わたし達を助けてくれたという事に変わりはない。

それなのに何で責めるような語気で質問してしまったのだろう…


わたしが謝ろうと口を開きかけた時、彼女が先に口を開いた。


「ボクは、この世界が好きなんだ。狭い所に閉じこもっていたボクを迎え入れてくれたこの世界が。辛いことも沢山あって、乗り越えなきゃいけない事も沢山あったけど、やっぱり世界との関わりを断つ事は出来ない。辛い事と同じくらい、ううん、それよりもっと多くの楽しい事が、この世界には溢れてる!その楽しい事を経験して、それを昔のボクと同じ様に閉じこもってる人に伝えていきたいんだ!」


最初は伏し目がちに。

でも途中からは自分の言葉に自信を持って、わたしの目を真っ直ぐと見て話してくれた彼女。

その時のわたしは、彼女のその言葉を応援したいって思った。


「そう…あなたがこの世界を守りたいって気持ちは分かった。でも、あなたが何者なのか、それには答えてもらってない。ちょうどここがあなたの家よね?教えてくれないかしら?」


再びたじろぐ彼女。

その反応が面白くて、ついからかってしまう。

なんだか、ずっと彼女を見ていたい。

彼女がクスッと笑って答えてくれた。


「強引だね、オネーサン。いいよ、上がって!お茶くらいしか出せないし、長くなるけど、全部話すよ。その上で信じるか信じないかを決めて。もし信じて貰えたら、ボクはオネーサンに協力するって誓うよ」

「長くなっても構わない。あなたのお陰であの道は崩れた。空でも飛ばない限り数日間は敵襲も無いでしょう。話を…聞かせて?」



そして、リナの正体や今までどうやって生きてきたのかなど、およそ普通の人に話しても理解して貰えない事柄を、全部話してもらった。

正直言って、半分くらいは信じられないという気持ちがある。

彼女はこの世界を作った創世記の女神の一人で、更にその時代からずっとこの世界で生き続けて来た。

今や世界を二分する帝国や共和国が影も形もない頃からこの世界を生きている。

まして、魔法を作ったのは彼女と彼女の仲間の人達なんだ。


「ボクはね、戦争ってやつが大嫌いなんだ。ボク達が作ったこの世界が、ボク達が作らなかったもののせいで壊れていく。それが我慢出来ないんだよ。でも、ボクの力を使って片方に肩入れして戦争を終わらせても、意味が無いって気付いたんだ。ボクが居なくなればまた争いは起きる。だから、ボクは世界に関わるのをやめた。そんな時さ、この国に辿り着いたのは。この国は素晴らしい国だよ。自分達がやりたい事をやってる人達が集まってる。ボクはこの国の人達が好きになった。だからこの国の人達を守りたい。オネーサンの事も、あの時あの場にいたみんなの事も」


彼女…リナの言葉には嘘がない。

それは魔法なんて使わずとも伝わってくる。

リナが本当に守りたいものが【国】ではないという事も。


「なるほどね。じゃあこれから…」


---ザザッ!---


私が応えようとしたら、私が耳に装着している通信機から通信が聞こえだした。


『尉官以上の者は速やかに王城前広場に集合せよ!繰り返す、尉官以上の者は速やかに王城前広場に集合せよ!』


聴こえて来たのは、慌てふためいた通信部隊長の声。

あの人のこんな声は聴いた事が無い。


「ごめんリナ、何かあったみたい。行かなきゃ」

「ボクも行く」

「え?でも…」

「何かあったんでしょ?じゃあ行く」


これは断れない。


「分かった、ついて来て!」

「おうってばよ!」


わたし達は王城まで走った。

王城といっても、この国に長らく王はいない。

だからその代わりに、この国で研究されている各分野の研究所の所長が集まって、元老院としてこの国の施策を決めている。

今までは新しく開発された魔法に関して、どの様に使うべきかというルールのようなものを決めていただけの、なんちゃって元老院だった。

所長達も、自分達がお飾りであるという自覚があったし、法律なんて大層なものは作られた試しがない。

この国に身分の差が役職以外に無いのもその為で、本当に魔法を研究する為だけに作られ、運営されてきた国だった。


だからこそ、王城改め、統合参謀(とうごうさんぼう)本部(ほんぶ)と改名されたこの場所での光景は、衝撃的だった。


「この者達は、我が国を敵国に売り渡さんとする売国奴である!たった一度の敗戦で怖気付(おじけづ)き、停戦と降伏をするように進言してきた!これは軍規に著しく違反した背反行為である!!よって、我ら元老院の名において処刑を実行した!」


でっぷりと太った元老院の一人が、唾を飛ばしながら叫んでいる。

その前には長机が置かれ、更にその上には、先程停戦の申し入れをしに行った男性将校達の首…

恐怖で引き攣ったままのその表情。

全員がこの国の為を思っていたのに、何でこんなことになったのだろう。


同じ様にこの光景を見ている、尉官以上の者達。

その全員が、この国の終焉を悟った。


自分が話したい事を喚くだけ喚いて、元老院の人達は統合参謀本部に引っ込んで行った。

大将軍は戦死、その他の将校は処刑された現状で、まともに軍を指揮できる者などもうこの国に存在しない。

この場に集まった者達は全員、ここより少し離れた場所にある詰所に集まる事になった。

この先の事について話し合うそうだ。


わたしは嫌でもそこに顔を出さなければならない。

隣に立つリナの表情は、俯いていて分からない。

わたしが、ついてきてくれる?とずるい聞き方をすると、彼女は黙ったまま頷いた。


詰所での話し合いは、とても話し合いなんて呼べるものではなかった。

元老院の非情さを(なじ)り、仕返しにクーデターでも起こすか、などの妄想のような事を話している。

そのどれもがこの先の展望についての話ではなかった。


全員が分かっていたんだ。

これが現実逃避だって事を。


わたしとリナは壁際からそんな様子を眺めていた。


「ねぇ、オネーサンはこれからどうするの?」

「ん…?」

「この国に、守りたい人達とか、守りたいものはあるの?」

「どうかな…分からなくなっちゃった。でも、少なくともここにいる人達は守りたい、かな」

「そっか…分かった。じゃあこういうのはどう?」


リナが話し出した計画。

それは、無意味な話を続けていた人達の耳目を集めるのに十分過ぎるものだった。

気付くと全員がリナの計画を聞いていて、ここはこうしたらとか、それならあれが使えるとか、身を乗り出して話し合いが始まっていた。


日付が変わる頃、話はまとまった。

残された時間は少なく、手も足りない。

だけど、全員が自分の成すべき事、そして、守りたいものについて想いを馳せている。


この計画がうまくいけば、戦争に負けてこの国の形が無くなっても、国を創る人達は生きていられる。


この国に固執する事をやめたその時から、自分達の事、自分の事を考えられるようになった。

自分はどうしたいのか。

自分が成したい事は何か。

それを考えた時、わたし達は、それが見えてきていた。


全員に注目されているリナが気炎を上げる。


「みんな、ボクの話を聞いてくれてありがとう。みんなでやれる事をやろう。今、ボク達の前には未来への入り口がある。これを逃がす手はないよね。最近降り続いた雨も明日には上がる。そうすれば太陽はいつだってボク達の味方だから。このチャンス、みんなで掴みに行こう!」


熱い眼差しで頷き合うわたし達。


わたし達はそれぞれの成すべき事を成す為に、足を動かし始めた。

全員が自分の役割を果たした時、この国を救う事になるんだと信じて。

オネーサンの名前はまだ秘密。


短編には収まりきらず、もう1話続きます。

(あと1話で終わるかな…?)

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