事後2
俺は、すぐに固有スキルの『蘇生』の準備を始めた。
このスキルの発動には、一分程時間が掛かる。
それじゃあ何故『書き替え』を使わないかというと、親父が死ななかったという因果に書き替えると、母さんと、明奈が、四年前に死んだという因果になるかも知れなかったからだ。
そこのところは、あまり使いこなせていない。
そういう理由で、俺は、『書き替え』ではなく『蘇生』のスキルを使うのだ。
「『蘇生』。生き返れ、親父」
横たわっている親父を包むように、四つの黄緑色の魔方陣が出現する。
親父の体が、わずかに黄緑色に発光、点滅を繰り返す。
十秒後、一際大きく発光して、蘇生は終了した。
すぐさま親父の脈拍を確認する。
……大丈夫そうだな。
しかし、中々起きない。
俺の固有スキルの『蘇生』は、死亡後、約一ヶ月頃までなら蘇生可能だ。
それを過ぎると、ガクンと成功率が下がってしまう。
そして、蘇生が成功しても、たまに起きない時もある。
その時は、大体就寝中なんだがな。
俺は、親父が中々起きないので、脇腹を蹴っ飛ばす。
しかし、起きない。
「イテッ!」
三回目でようやく起きた。
チッ、次からは一割増しで蹴ろうと思ったんだが……。まあ、過ぎた事はしょうがない。
「ようやく起きたか、親父。爆睡しすぎだろ」
あきれ声で、親父を非難した。
「イテテテテ。まだ脇腹が痛い……。というか勝也!俺はこれでも一応お前の父親だぞ!もう少し優しく起こせないのか?」
「ああ」
ギャアギャアとうるさい親父を一蹴した。
「なんだよ。反抗期かよ。昔はあんなにちっちゃくて可愛かったのにな~」
「現実逃避をするな。床にのの字を書くな。うざったい」
親父は泣いた。
いつまでも泣くので、脇腹を、さっきの五割増しで蹴った。
「いてぇ!」
「うるさいぞ、親父」
また親父がいじけた。
「勝也?宴の準備ができ----ッ!」
そんな時、母さんが入ってきた。
どうやら宴の準備が出来たようだ。
「あなたっ!」
母さんが、いじけて、また床にのの字を書いている親父の背中に抱きついた。
「うわっ!あ、詩音か。ビックリした」
親父に、後ろから抱きついた母さんは、親父の背中に顔を埋めていて、時折、嗚咽が聞こえる。
「……悪かったな、詩音。勝手に死んで」
親父は、頭をかきながら、ばつが悪そうに、謝った。
母さんが、顔を埋めたまま、横に首をふる。
親父と母さんのあいだに、桃色の、とてつもなくイラッと来る空気が流れ始めたので、俺は、部屋を後にした。
外に出ると、もうすでに飲めや騒げやの宴が開催していた。
俺が、これを見て最初に思った事は、うるさい、だった。
「ご主人様」
隣から、声が掛かる。
どうやら、俺が出てくるまで、ずっとここで待っていたみたいだな。
「拓斗様は、どうなりましたか?」
俺は、ふんっと鼻をならした。
「今頃母さんとイチャついてるよ、何せ、昔からラブラブだったからな、あの二人」
その時、シャロロの頬が、少し赤く染まったのを、俺は見逃さなかった。
別に何も言わないけど。
「あ、お兄ちゃん!こっちこっち!」
村の大人達と、肉の取り合いをしていた明奈が、俺を見つけて、手を振ってきた。
「はぁ。シャロロ、行くぞ」
「はい、ご主人様」
天真爛漫に、手を振っている妹に呆れながら、駆け足で近づいた。
「お兄ちゃん、お兄ちゃん」
「そんな近くで、大声で名前を呼ばなくても聞こえているぞ」
で、なんだ?」
服の裾を、何度も引っ張りながら、耳元で、大声でお兄ちゃんを連呼(?)した。
「あれ?そういえばお母さんは?」
母さんが、俺と一緒にいないことに、今頃気づいた明奈は、キョロキョロと、辺りを見回している。
「ああ、母さんなら、今頃親父とよろしくやっているんじゃね?」
「え?お父さん?何で?」
明奈の頭の上に、いくつもの?マークが浮かんでいる幻覚が見える。
「何でも何も、俺が蘇生したからに決まってるだろ」
「えっ!?お兄ちゃんそんなことできるの?すごいっ!」
拍手つきで、俺を誉めると、お父さんに会いに行ってくる!と言って、家の中に入っていった。
俺は、はぁ、とため息をついた。
「ご主人様、ため息をつくと、幸せに逃げられますよ?」
シャロロが、そんなことを言いながら、お皿に、お肉を大量に取ってきた。
それも五つ。
「シャロロ。一つ聞いていいか?」
シャロロから、お皿を一つもらい、他の取らなかったお皿をジト目で睨んだ。
シャロロは、小さく頷いた。
「その四皿にのった肉も、俺が食えと?」
シャロロは、無言で頷いた。
「はぁ、わかったよ、食えばいいんだろ、食えば」
その後、やけになって五皿を平らげた。
食休みをしていると、後ろに誰かがたった。
勿論迎撃した。
男の象徴にアッパーを仕掛けた。
「あぶねっ!おい勝也!俺を殺す気か!」
やはり、後ろにたっていたのは親父だった。
何かギャアギャアわめいているが、スルーしておいた。
もう一度、男の象徴に殴りかかろうか考えていると、何者かの気配を感じた。
……地下牢の方から。
「おい、勝也!感じたか?いや、感じたな?」
俺は、真剣な顔で、しっかりと頷いた。
「こりゃヤバイな。勝也。お前が行け」
「無論そのつもりだ」
俺は、急いで地下牢に向かった。
……家に入ると、やっぱり俺もいくわ、と言って、親父が追いかけてきた。