事後1
「危ないッ!」
俺はそう叫ぶと、急いでシャロロの元に向かった。
そして、シャロロを突き飛ばすと、頭上に手を向けた。
瞬間、上空から、特大の雷が、俺、正確にはこの天使に向かって落ちてきた。
「『反射』!」
掌の先に、虹色の半透明の分厚い板が出現した。
雷が、その板にぶつかると、ぶつかった先から、形状を球体に変えていく。
落雷が終わると、雷の球体が、ビームとなって落雷を逆再生するかのように、寸分違わず上空に向かっていった。
しかし、一向に手応えがない。
「チッ」
俺は、大きく舌打ちをした。
「ご主人様、お怪我はございませんか?」
シャロロが、血相を変えて駆け寄ってきた。
「俺は大丈夫だ。安心しろ」
そう言って、シャロロの頭を優しく撫でると、エヘヘ、と年相応の笑顔を見せた。
俺は、撫でるのをやめると、へたれこんでいる天使を見下ろした。
「ヒィッ」
天使は、怯えて後退した。
「お前の名前はなんだ?」
とりあえず名前を聞いた。
「な、ナミットです」
天使、ナミットが段々と涙目になってきた。
「そうか。じゃあナミット。お前には捕虜の様なものになってもらう」
俺は、亜空間庫から、念のため作っておいた、付与が付けられている、ロープを取り出した。
付けられている付与は、拘束。ただ物や生物を拘束するだけの効果だ。
そのロープを、ナミットに当てると、勝手にナミットを拘束した。それはもうガッチリと。
「へ?」
ナミットの口から間抜けな声が聞こえた。
俺は、ちょろん、と飛び出しているロープの端を掴むと、シャロロと一緒に村に向かった。
………ナミットを引きずりながら。
俺達が、村に入ると、ものすごい歓声が、辺りに轟いた。
入り口を囲むように、村人全員が、人垣を築いている。
ビックリした。と言うかうるさい。
「お兄ちゃん!」
人垣の中から、少女が飛び出してきて、胸に飛び付いてきた。
「お前、明奈か?」
俺は、恐る恐る聞いた。
少女は、胸に顔を押し付けたまま、縦に首を振った。
俺は、ゆっくりと優しく、明奈の頭を撫でた。
「久しぶりね、勝也」
「母さん!」
人垣の中から、今度は母さんが出てきた。
「てゆうか、何で二人ともこっちの世界に居るの!?」
母さんに、思っていた疑問をぶつけた。
「お父さんがね、命を懸けて、私達を此方に転移させたの」
母さんの顔に、若干影がさした。
「そうか。あとこいつどうしよう?」
そう言って、俺は、ロープにくくられたナミットを全員の前に放り投げた。
「あ、そういえばご主人様」
名案を思いついたのか、シャロロが話しかけてきた。
「あの地下牢に閉じ込めるのはどうでしょう?」
「ああ、いいな、それ」
俺は、シャロロの提案を肯定した。
「じゃあ連れていってくるわ」
ずるずるとナミットを引きずりながら、自宅に向かった。
破壊された壁から入り(入ると修復した)、玄関から一番遠い部屋の、壁の一ヶ所を押し、床の一部分を押すと、下へ降りる階段が出現した。
その階段を降りると(ナミットを引きずりながら)、七つの牢屋がある空間に出た。
勝也は、その一番奥の牢屋に、ナミットを入れ、ロープを解き、壁から延びている鎖付の枷を、ナミットの両手足に付けた。
あと何故ここに地下牢があるのか、現在も不明で、一説によれば、ご先祖様が、敵の捕虜を入れておくために作ったと言われている。
「またあとで来る。それまでおとなしくしとけ」
そう言い残して、牢屋から出、鍵もしっかり閉めた。
俺は、外に出た。
一々階段を登り降りするのが面倒だったので、転移で外に出た。
何故か村人達は、宴の準備らしきものをしていた。
母さんと明奈は、遠くで野菜を切っていた。
「シャロロ。一体これは何の騒ぎだ?」
俺は、近くにいたシャロロに質問した。
「宴の準備ですね」
シャロロは、さも当然とばかりに淡々と答えてきた。
「まあそれは見たらわかるが、俺が言いたいのはそうじゃなくて、どうして宴の準備をしているんだ?」
「それは、偽天使の大群の討伐、という建前で、ご主人様の帰還の為の宴です」
正直にいって、俺は、あまり自分の為、というものが苦手だ。
理由は特に無い。
俺は、心の中で嫌だな~、と思っていると、ふと思い出したことがある。
「なぁ、シャロロ。一つ聞いていいか?」
「はい。何なりとお申し付けください」
シャロロの、メイドのような言い方に、少し感心すると、
「親父、拓斗の死体は何処にあるんだ?」
親父の死体の場所を聞いた。
「それでしたら、屋敷の拓斗様の寝室にございます、あの箱に入っております」
「そうか、有り難う。今から少し用事が出来た。出来るだけ早く戻る」
そう言い残して、俺は、家の中に入った。
親父の寝室は、玄関を入って右側の三番目の部屋だ。
この家は、外見以上に中は広い。
それもそのはず。何せ空間魔法がかけられていて、その辺の豪邸程の広さがある。
俺は、親父の寝室の扉を開けた。
そこは、六畳程の部屋で、ベッドとクローゼットと、机が一つずつある。
そして、扉の横に、人一人入れるほどの大きな箱があった。
これは、俺の力作の一つで、名前を、死者停止箱(安易)という。
これはその名のとおり、入っている死者の時間を停止させることが出来る。
死者停止箱(神造級)
付与
不壊 死者時間停止 使用者制限
もちろんこれは世界にこれ一つしかない代物だ。
閑話休題
俺は、ゆっくりと箱の蓋を除けた。
そこには、若干肌が白くなり始めた親父がいた。
そして、中に入っている親父を取り出す。
まだ親父は暖かかった。