昔の話
森の中を走っていた。
あれから何時間たっただろう。
私は、ただ奴隷商からひたすら逃げていた。
地面から出ていた木の根につまづいて転んだ。
両膝と両肘から、血が出てきた。
さっき転んだときに擦りむいたみたいだ。
それだけでなく、森の中を走ったので、身体中に、切り傷があった。
身体中のチクチクした痛みに、顔をしかめながら、私は、自分に、回復魔法の『ヒール』を使った。
身体中の傷が、ゆっくりと消えていった。
そして、木陰に身を隠し、休息を取った。
「大丈夫?」
私は、突然声をかけられた。
私は反射的に前を向くと、私と同じくらいの年の男の子が立っていた。
男の子は、何もない空間に手を伸ばすと、そこから、お皿とスプーン、それに、いいにおいのする鍋を取り出した。
何をするのか見ていると、男の子は鍋の蓋を開けると、シチューのようなものをお皿につぎ、私に渡してきた。
「お腹すいてるんでしょ?見たところ奴隷っぽいから、奴隷商から逃げ出してきたんでしょ?」
だから食べなよ。と、男の子が言い、お皿を地面に置いた。
私は男の子がもうひとつお皿とスプーンを取り出して、シチューのようなものをつぎだしたのを見て、私はシチューのようなものをスプーンですくい口にはこんだ。
私は、その美味しさに目を剥いた。
そのあと、私は一心不乱にスプーンを動かし、すぐに完食した。
私は、男の子に、お礼を言おうとすると、
「こんなところにいたのか。てこずらせおって。奴隷の分際で、主にさからった事を後悔さしてやる」
奴隷商に見つかった。
奴隷商は、私に、手を伸ばそうとすると、手が何かに切られたように、地面に落ちた。
「これだから奴隷商は嫌いなんだよね」
そういいながら男の子は立ち上がり、右手を振り下ろした。
それと同時に右腕が肩から切られた。
右腕が地面に落ちる。
奴隷商の男の切断面から血が滴り落ちる。
男が切断面を抑え、地面を転がっている。
男の子が、また右手を振り下ろした。
男の首が胴体と別れを告げた。
断末魔の叫びもなかった。
あったのは、静寂のみ。
「ねぇ、僕の奴隷にならない?」
男の子は、お皿とスプーンと鍋を、片付けると、私に聞いてきた。
私は、男の子の顔を、真正面から見た。
男の子の目には、冗談のかけらもなかった。
私は、目尻にたまった涙をぬぐって、目の前の男の子を見ると、
「私を貴方の奴隷にしてください」
と、言った。
「じゃあこれからよろしくね」
そして、私、シャロロは、男の子、型無勝也様の奴隷になった。