支度
一息入れたあとにアッシュを置いてアルベルトだけがいったん村に帰った。
仲間を呼んでヤマアラシの死体を運ぶために。
しばらくして大きめの荷車みたいなものを率いた男たちがあらわれた。
「ほんとにヤマアラシを倒したんだね。」
「まぁな、これで村も落ち着くだろう。」
「しかし大きいね。一番大きい荷車でやっとか」
リッドとアッシュが会話をしている。
今更になって昨日から起こったことを振り返って少し震えていた。
アッシュがこなかったら、と思うとどうなったかわからないが、今回以上の結果は得られないだろう。
などとあれこれ考えているうちにヤマアラシの死体を運ぶ準備が出来た。
「アル、いくぞ。」
と、アッシュに言われ村に向けて進む。
村に着くなり疲れがどっと来たのか皆に軽く挨拶をし家に帰って寝ることにした。
と、家の前にいくとアッシュがいた。
「やぁ、アッシュお疲れ様。本当に助かったよ。」
「そうか。俺もそう言ってくれるとうれしいよ。だけどそれにはアルの力があったからだよ。」
「あんな役なら誰だってできるさ。」
「じゃ、もうひとつアルにやってほしいことがあるんだ。」
「ん?なんだい?」
「もう一泊することになったから今日も泊めてくれ」
「そんなことか、いいよ。ゆっくり休みな。俺ももう寝るからさ。」
そしてアルは泥のように眠った。
思った以上に疲れていたみたいだ。
起きたらまだ夕方だった。
夜に出て、モンスターを倒し、明け方に帰ってきたからまだ日付は変わってないか。
となるとまだアッシュがいるはずだ。
なんとなくアッシュを探しに行く。
客間に荷物があるからおそらく村のどこかにいるのだろう。
とりあえず村長とリッドのところに行くことにした。
同時にリッドが家に来た。
「おぉ、お疲れ。やっとおきたか。ちょうどな、お前を呼びに来たんだ。一緒に来てくれ。」
あぁ、と返事をし簡単に身支度をしリッドについていく。
「で、なにがあったんだ?」
「あぁ、今回の討伐報酬をアッシュに渡す段階でちょっともめてな。アルベルトの話も聞かないとどうにもならない状況になったんだ。」
「俺の…はなし?」
なんだなんだと思いながら集会所についた。
「やぁ、アルベルト君、済まないね。お疲れのところ。」
「いや、それはいいさ。ところでどうしたんだい?」
「あぁ、報酬のことでちょっとね。」
「村長、そんなにフッかけられているんですか?」
「う、うん、いや…」
なんか歯切れが悪い。
「どこから話せばいいか…」
と村長がもごもごしている。
「では、私からもう一度要求含め現状のまとめをさせていただきます。」
と、アッシュが仕切りだした。
「まず、今回、三羽烏と呼ばれるガーゴイル3匹とそのガーゴイルに育てられたヤマアラシの討伐を依頼され、死傷者0でこれを達成。一部標的は直接手を下してないにせよ、村に迫っていた危機を排除した。達成に当たり私自身の力が大きく寄与したことは明白のため報酬を要求。そして私の要求内容は、旅をするにあたり次の町や村に行くまでのいくばくかの食糧と、討伐をこなしたという達成証明書、そしてアルベルト君の旅への同行と以上になります。」
「え?俺の?」
「アルベルトが旅についてきてくれるなら金銭的なものは一切要求しないとのことだ。そうでなければ1000万シードという大金を要求されている。」
マイルス国に依頼した場合今回の内容であれば200~400万シードが相場だろう。
かなり、フッかけている。
「アッシュ、なぜそんな…」
「私の旅の目的はここでは明かせませんがとある事情により旅のお供というか仲間を探していたところでしてね。いろいろな条件はあるもののそのすべてをクリアした最初の人物にであった。それがアルベルト、君だということだ。半端な額のお金を支払われるくらいなら多少嫌われても目的達成のためにアルベルト君にはついてきてもらいたいというのが私の気持ちでもあるんだ。」
「そうだったのか。ちなみに村長、そんな大金…」
「あ、あぁ、確かに用意できない金じゃない。だが、村のものを許可なく旅に出すわけにもいかないのでな。お前の気持ちをききたかったのじゃ。」
集会所の空気が重くなる。
「アッシュ、本当に俺でいいのか?」
「あぁ、もちろん。」
「そうか…ちょっと…考えさせてくれ…」
そう言ってアルベルトは出て行った。
リッドや仲間たちは後を追って出て行った。
「すみません私のせいで重苦しい空気にしてしまって。ところで村長、話は変わるが『賢者の書』ってきいたことありますか?」
「賢者の書?」
「えぇ、別名『すべてをしるすもの』『全知の書』等と呼ばれるあの書物です。」
「あぁ、あれですか。さすがに私はおとぎ話の話だと思っております。確かにそんなものがあれば素晴らしいアイテムですが、そのアイテムをめぐっての紛争等も起きるでしょう。さすがにそういう話も聞いたことがありませんしね…」
「そうですか」
「ですが、いつ誰が魔法を最初に使いだしたかはわかりませんが、その最初の一人が手にしていたものが賢者の書で、初めて世界を救った人としてのおとぎ話程度のものならこの村にも伝わってます。」
「そうですか。いや、貴重な情報ありがとうございます。」
「ちなみにアッシュさんは七大国すべて旅をされましたか?」
「いや、実はまだ回ってない国があります。」
「となると、七大国で一番閉鎖的で、中立国として有名なダルメア、でしょう?」
「さすが、ですね。閉鎖国ダルメアと群島諸国グランドファースの二国はまだですね。」
「もし、万が一、そんな夢のようなアイテムがあるとしたら、ダルメアの可能性が高いでしょう。中立国としての武力の高さ、そして観光地以外の情報の少なさ、そういった部分から可能性という意味では他の国よりはちょっと高いという程度ですが…」
「なるほど。一理ありますね。今回の旅では七大国すべては回る予定でしたが、早目に立ち寄ってみることとします。」
「そうですか。では私は最後にアルベルトに挨拶をしてきましょう。」
そしてアッシュと村長は二人でアルベルトの家に向かった。
ちょうどリッドたちが出てきたところだ。
「リッド、なかにアルベルトはいるかい?」
あぁ、と返事があった。こころなしか少し物悲しそうな表情をしていた。
「アルベルト、はいるよ。」
と中に入ると吹っ切れた表情をしたアルベルトがいた。
「…おや、決まったのかね?」
「はい、リッド達にも応援してもらえました。幼きころから両親のいない私を親同然として育ててくれた村長には申し訳ありませんが、今回みたいなことがあった時に村を守れる力や知識や経験を旅を通して学んできたいと思います。アッシュさんと一緒ならそれが出来そうな気がします。」
「そうか、無理はするなよ。アッシュさん、アルベルトのこと頼みますよ。」
「わかりました。アルベルト君のことは私が責任もってお預かりします。」
「アルベルトよ。お前のじいさんや父さんも村の危機に立ち向かうタイプでな、今回みたいなことが起こると率先して体を張るタイプだった。じいさんは幼いころから一緒に育ってな、リッドとアルベルト、お前たちみたいな関係で育ったんじゃ。そのじいさんが死ぬ間際に俺の家族を頼むと言って逝ってしまった。そのころはお前の父さんがまだ2,3歳だったころかな。モンスター討伐で怪我をしそれが原因で逝ってしまった。そしてお前の父さんもお前が生まれてすぐの年が稀にみる飢饉でな。村のみんなは備蓄でしのいでいたが食糧に困ったマイルス国への献上分が例年以上でね。もう冬だというのにこれ以上は冬を越せないというところまで来てしまった。その時にマイルス国への次年度以降の減税を求め王都と村の往復をずっとして、さらに道中狩りで食糧を確保したりしてな。何とか乗り切ったということがあった。
そしてその時の狩りや道中での無理がたたって病で死んでしまった。村のピンチに村を救い直接的にしろ間接的にしろ死んでしまうからな。今回も心配だったのだよ。」
アルベルトからしたら初めて聞く話だった。
拾われた子供として聞いていたから。
「村長、私の母親は…」
「アルベルトの母はな、お前の父さんが死んだあとにふらっと村から消えてしまってな…生きているのか死んでいるのか、それすらもわからない。もともとこの村の出身だからいつか便りがあると信じているのだが…」
「そうですか。名前はなんというんですか?」
「母の名前はミルモアという、生きていれば40才くらいになるはずだ。」
「そうですか、今どうしているかもわかりませんが、母を探すという目的も私の旅の目的に加えます。村のみんなのためと、自分のための旅とします。」
「ということです、アッシュさん改めてアルベルトのことを頼みます。」
「はい、お任せください。」
こうして二人の旅は始まるのだった。