決着
月明かりの下、ある程度目が慣れてきたとはいえ薄暗い夜に、アッシュはヤマアラシと対峙している。
ヤマアラシの一撃は大の大人でも常に死が隣合わせの攻撃ばかりだろう。
むしろ攻撃を食らって命があれば儲けものとまで言われることもあるモンスターだ。
どんなにアッシュが強いとはいえ、本当にどんな攻撃でも死なないとしても、死と同程度の痛みを伴う攻撃を受ければしばらく動けないだろう。
そうなると、次のターゲットはすぐに俺に向かうだろう。
アッシュが勝たなければ俺の命すらない状況なので、見守るしかない。
しかし、アッシュも夜目が利かないのか、攻撃をかわすだけで反撃がない。
ぎりぎりで避けているだけだ。
とどめをさせない、命を奪う行為は出来ない、ということだが、一瞬の反撃すらできないほどなのか…
などと思いながら見守っていた。
結論、俺が間違っていた。
アッシュは避けることしかできないのではなく、避けることしかしていないのだ。
必死さというのか、そういった感情が見て取れない。
まるで動きの再確認とでも言わんばかりに避けていてるだけだ。
もちろんヤマアラシの攻撃が激しいともとれるし、実際自分だったら何回死んでいるかと言った内容の攻防だ。
そんなことを思いながらみていると、アッシュがついに剣を手に取った。
しかし構えらしい構えは取らない。
アッシュなりの考えがあるのだろう。
それに対しヤマアラシが体当たりをしかけた。
攻撃はもちろん避けたが、アッシュの剣は致命傷どころか動きを封じることすらできず、背中に刺さっただけだった。
深々と、というよりただ軽く刺さっている、といった印象。
ヤマアラシも気付いてないのかそのままアッシュの方を振り返った。
「チェックメイト」アッシュがそうつぶやいた。
その瞬間、どこからともなく雷が落ちた。
アッシュの剣をめがけて。
星夜にとてつもない光と轟音がいきなり起きれば誰だって驚くだろう。
俺もしばらくは何が起こったかわからなかった。
ただ、雷に打たれ動けなくなったヤマアラシと、煙草取り出し火をつけだしたアッシュだけがそこにいた。
フーと一息入れたあとに「アル、まだ終わっていないぞ。とどめをさしてくれ」と、言われ我に返った。
「あ、あぁ…」
「ちなみにな、ヤマアラシは皮膚が硬く、毛並みも硬く、刃物が通りにくいからさ。
口から剣を入れてのどの奥、から後頭部に剣が抜けるようなイメージで突き立ててとどめを刺してくれ。」
「さらっとグロいこというなよ…。ていうか起きない?俺噛まれたりしない?」
「その時は助けてやるさ。」
フッ、と鼻で笑われた気がする。
「違う意味で緊張するな。」
噛まれたり起こしたりしないように注意しながらヤマアラシの顔に近づく。
「ガーゴイルは剣で行動不能にしたのに今回はなんで剣をつかわなかったんだ?」
とどめを刺すこと自体は難しくなく、今ある疑問をアッシュに訪ねてみた。
「あぁ、さっきも言ったようにヤマアラシは剣での攻撃が通りにくくてな。俺が使っている剣、そこらへんの武器やで売っているようなものだしな。」
「剣が折れる可能性があったから魔法を使った、と?」
「まぁ、それもあるけどとどめをさすときに首から上が動くだけでも危ないからな。何パターンか倒し方を考えた結果、雷魔法で動き封じるのが一番楽だったからさ。」
「雷魔法使う人なんて初めてみたからびっくりしたよ。」
「だろ?アッシュ様はすごいんだぜ」
ははっっと笑いあう。
「もうひとつ、なんですぐに雷魔法使わなかったんだ?」
「あぁ、それはな、ヤマアラシと対峙する機会なんてそうそうないからさ。今後似たような体型や動きのモンスターに会ったときに動きを予測しやすいように行動確認さ。そういう意味でも今後の自分の目標のために経験値アップするためかな。それと同時に倒し方を考えるためにね。」
「なるほどね。」
「ちなみにな、ヤマアラシが生息する地域は食糧が豊富で品質もいいから、住み着くんだよ。うまいもの食えないとすぐどっか他の地域に行っちゃうからな。そのためか害獣でもあると同時に豊穣の神の使いとしてもあがめられる地域があるんだ。しかもこのサイズを剥製にでもすれば町の観光名所にでもできるだろ?」
「…そこまで考えていたの…?」
「まぁな。俺に金払うだけでも村の財政はきついだろ?旅に必要な分以外はもらう気ないし、な。お金をもらう以上のお返しをするのが俺のモットーだ。」
「なるほどね。」
「あとな、ヤマアラシの肉はうまいとも聞いている。何事も経験が俺のモットーでもあるんだが、実は食べたことがないんだ。この死体を持って帰るのも一苦労だしな。」
「そ、そうなのか?」
そう言われると数時間に及ぶ緊張と運動のためかおなかがすいている。
「すべて解決したんだ。ゆっくりしてから帰っても問題ないだろ?」
そうだな、といって食事の準備をし始めた。