食事
アルはショートソードを抜き血を拭った。
心臓はバクバク言っているけど周りはやけに静かに感じる。
何とも言えない気持がアルの心の中に混在してたたずんでいる。
するとアッシュが魔法でガーゴイルの死体を燃やした。
あたりが一瞬で明るくなり、ガーゴイルは勢いよく燃えた。
「アッシュは魔法も得意なんだね」
「まぁ、な。なんでもできなきゃ世界最強を自負できないよ。」
「そっか。ていうか今、詠唱した?」
「してないよ。」
「それでこの威力か…」
ガーゴイルの死体はすぐに燃え尽きた。
あたりに肉が燃えこげる匂いだけが立ち込めた。
「さ、いくぞ。あとガーゴイル2匹とヤマアラシだ。」
「あぁ、なんかいい意味で吹っ切れたよ。」
「同じように行動不能にしていくからとどめを刺していけ。ヤマアラシはちょっとやそっとのことじゃ起きないからガーゴイルからしとめるぞ。」
「わかったよ。」
二人は歩きだした。
小一時間ほど歩いたところで例の洞窟近くまで来た。
「ここまで来たのにガーゴイルの姿が見えないということはたぶんまだ寝ているだろう。かえって好都合だ。文字通り一瞬で、先ほどと同じく物理的に行動不能にしていくからとどめを刺していけ。」
「あぁ、わかった。死体はどうするんだ?」
「ヤマアラシと一緒に爆発させて洞窟ごと埋める。」
「わかった。」
「よし、じゃ行くぞ。おそらく洞窟の中は狭いし暗い。そんなに深くはないと思うし万が一にも逃げられることはないと思うが合図するまで入口のところにいろ」
そういうとアッシュ一人で中に入って行った。
予想通りそこまで深くはなかった。が、一つだけ予想とは違った。
ガーゴイルがいなかった。
いや、いた。
いたけども過去形だ。
ガーゴイルだった、が正しいのだろう。
ガーゴイルの、死体、というかほぼ骨だけが二人分あった。
それだけで他には何もなかった。
「アッシュ!」
アルが中に入ってきていた。
「どうした、なにかあったのか?」
「聞こえなかったか?おそらくヤマアラシだと思われる獣の咆哮があったんだよ。」
アッシュの中ですべてがつながった。
「まずい、アル。すぐにヤマアラシを追いかけるぞ」
「わかった。」
「おそらくヤマアラシは成体になったんだろう。ガーゴイルが餌になってた。
ヤマアラシの食欲は成体になったら多少は落ちるものの、ガーゴイル2匹程度ではまだ足りないはずだ。おそらく村の方に向かうだろう。探しながら戻るぞ!」
そういうと二人は山を下り全力で走った。
ヤマアラシは食事をしながら進んでいるのかペースとしては比較的ゆっくり進んでいる。さらに食べ散らかした動物の死体や木の実のからなどが落ちているからどの方向に向かっているかはわかる。
いずれは追いつくだろう。ヤマアラシに。そしてアッシュに。
アッシュはものすごい速さで走って行った。
息一つ乱さずに、人間の走る速さの限界というものを超えた速度で。
どう鍛えてもあの速度は出ないだろうという速さだ。
「くそ、早すぎるよ。」
さすがにアルも息が上がり歩きだした。
そのまま息を整え歩いていると、また獣の咆哮が聞こえた。
このあたりだと村までほんとにあと少しと言ったところだろう。
おそらくアッシュが食いとめてくれている。
そう信じながら歩いていたのだが信じられない光景が目に飛び込んできた。