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殺生

「アル、君にやってもらいたいことというのはここからのことだよ。」

「ここからのこと?」

「あぁ、俺は宣言通り敵を行動不能にした。アル、君がとどめを刺すんだ。」


「…俺…が…?」


一瞬何を言っているのかがわからなかった。


「アル、ガーゴイルというモンスターはね、空を飛び、人語を操り、人に近い生態をしているけども、一番の特徴はその生命力の強さなんだよ。いま俺はガーゴイルの関節や節々を切り裂いた。しばらくは動けない。だが、ガーゴイルは時間さえあればこのくらいまでの怪我なら回復する生命力をもっているんだよ。」


アッシュの言葉が耳にははいるが、アルベルトは返事が出来ないでいた。

モンスターを、村を苦しめた三羽烏を、討伐する。そう意気込んできたはずだが、実際に命を奪うという行為、これ自体はアルベルトの人生にほとんどない経験だった。

虫をうっかり踏み潰す、というレベルのこととはかけ離れた行為

ガーゴイルがなまじ人と共通点があるという点が、家畜などのそれとも違う生き物ということが

命を奪うという行為にブレーキをかけていた。


「アル、怖気づいたのか?」

「あ、あぁ。なんかこう、ちょっと…」

「こいつが一人で来たということはヤマアラシとこいつの仲間は寝ているよ、しばらくは起きないだろう。こいつ自身もすぐ回復ような怪我じゃないからな。あせらずゆっくりと気持ちを落ち着かせろ。」


もちろんアルは家畜などの命すら奪ったことはない。

すぐに思いだせるものでも小さいころに好奇心で虫を殺したりした程度だ。

今回の討伐も実はそこまでの覚悟をしていなかった。

誰かがやるのだろう、と思っていたんだろう。

そこをアッシュに見抜かれたのか、それともただ単に試されているのか、どうすればいいのだろうかという堂々巡りだ。


「アル、少し俺の話をしよう。俺はさ、まぁ、知っての通り戦闘においては強いんだよ。人間というくくりであれば最強を名乗れるくらいの自負はあるし、生物と言うくくりでもこの世界でトップ10に入れる自信はある。ただね、ある呪いに掛かっているせいで、生物の命を奪うことが出来ない体になってしまったんだ。」

ちょっと前までオチャラけて話をしていたアッシュとは目つきというかまとう空気が違う。

きっと本気のことなのだろう。

「生物の命を奪うことが出来ないとなると、この世界で生きていくのはとても大変なんだ。モンスターに襲われても殺せない。食料の確保もままならない。困っている人を助けるのも一苦労だ。虫をうっかり踏み潰したりも出来ない。行動が恐ろしく制限されるんだ。いろいろと苦労したよ。いっそ死んでしまおうと思うこともあった。しかもこの呪いは、自分で自分の命を奪うことも許さなかったんだ。どんな怪我も、病気も、傷も、魔法も何をしても死ぬことが出来ない。人に殺してもらおうと思っても、普通の人なら死ぬほどのダメージを受けたりしても、ある程度の時間がたつと元通りの肉体になってしまうんだよ。」

アルは黙って聞いていた。

「しかもその自分で自分を攻撃したり、人に攻撃してもらった時は死ねないうえに痛みや苦しみは感じてしまうんだよ。文字通り死ぬほどの痛みや苦しみで死ぬことが出来ない。頭がおかしくなりそうなこともあった。そんな辛い人生を打破しようと呪いを解くための旅に出ることにしたんだ。今はいくつかある手掛かりを一つ一つ調べていっているまでさ。」

そういうと長い沈黙が続いた。

おそらくアッシュはすべてを話していないだろう。

でも嘘をついているわけではないと感じる。

「アル、村のみんなを救うんだろう?命を奪う行為はよくないというやつもいるが、それ以上の数の命を救うんだ。ただいたずらに奪うわけではない。」

「あぁ…」

「むしろアルが見込んだ通りの優しい男で俺はうれしいよ。こういう状況になるとさ、相手が人間じゃないというだけで

平気で殺すことのできる人間だっている。それが日常の人間だっている。」

「そう…だな…」

「笑った顔で近付いてきて刃物を突き付けてくる人間だっているだろう。目が合った瞬間襲ってくっるモンスターもいるだろう。

そういうときに躊躇せずに、自分を、大事なものを守れるような人間になるんだ。」

そういうと少し間があり、アルは大きく深呼吸をした。

吹っ切れたような顔をしたアルがそこにいた。

「実際に話に聞くのとやるのでは抵抗感が違うな。モンスターだろうが命を奪うことは大変なことなんだな…」

「あぁ、だがこれからの自分の人生のプラスになることだ。」

「わかったよアッシュ。」

そういうと持ってきたショートソードをガーゴイルののど元につきたてた。

夜で明かりもないというのに鮮血のしぶきが見えた気がした。


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