作戦開始
「さて、アル。なんで夕方からの討伐にしたでしょーか?」
「え?」むしろ会ってから一番テンションの高いアッシュに驚く。
「ヒンいる?」
「うん、見当もつかないしもらうかな。」
「ヤマアラシの生態しっている?それがヒントです。」
「全然わからない。食欲旺盛で1年ほどで成体になる。とは聞いてるけど」
「答えはね、食べた後に寝るから、です。」
ヤマアラシの生態は意外にも知られていない。個体の絶対数が少ないがその凶暴さと食欲で名前は知れ渡ってはいる。
1年で急成長するため、1日ほど起きて食事をし、その後1週間ほど寝る。この繰り返しで成体になる。
体が大きくなるにつれ、食べる量が増えてくる。
「…なので三羽烏が昨日帰った理由はおそらくこれ。今日か昨日の夜から食事をしてるから。
そのため食事が終わるまでは三羽烏もつきっきりになるからね。そして食べ終わった後に就寝、起床してからまた食糧あつめ。このサイクルで今は活動しているはずだよ。今日村に襲撃がなかったのもそのためかな。」
なるほど、筋は通っている。
うんうんと頷く。
「ところでなんでアッシュはそんなこと知っているんだ?」
「昔にね、ちょっといろいろあってね。全国各地を旅したり、図書館などに入り浸ったりしていた時期があるからね俺は。」
「ふーん。まぁ、確かに思い返せば何日かに1回襲撃のない日があったわ。そこは信じるとして、やつらが全員寝ているってことがあるのか?」
「ヤマアラシは食糧を食べさせてあげる場合は驚くほど静かに食事するんだけど、その作業も結構大変なんだよね。ほぼずっと食べているからさ。
その後1週間寝るとわかっていたらあいつらもおそらく寝る。寝てないとしてもひとりが見張りになるくらいだと思う。」
「確かに。」
「そこを俺がひとりずつ行動不能にしていき、最後にこれでヤマアラシにとどめをさして終了。順調にいけば夜が明ける前に村に帰れる予定だよ」
と言いながら、懐からこぶし大ほどの謎の塊を取り出した。
「で、それなに?」
「最近大国で開発された火薬というものを固めたもので、火をつけると大爆発する。これをヤマアラシの口にでもいれて火をつけるだけだよ。」
「なんでそんな物騒なものを…」
「あぁ、ヤマアラシは体毛がなかなか硬くて刃物が通りにくいんだよ。起きたらめんどくさいから一撃必殺するしかないのさ。」
「…なんでそんなものを持っているのかな…て思ったんだけど…」とアルベルトがぼそぼそしゃべるがアッシュには聞こえていないようだ。
作戦と言うほどの作戦ではない気がするが、アッシュの身体能力の高さを考えるとそれも可能にするだろうと思われる。
完全に日が落ち月明かりだけの中を歩いていた。
見つかって囲まれるとまずいということでたいまつなどは付けていない。
じょじょに会話もすくなくなり緊張感がましてきた。
「アッシュ、もうそろそろ着くよ。夜で見づらいけど、あの山の中腹に洞窟があるんだ。そこを拠点にしている。」
その時、バサッバサッと大きな鳥が羽ばたくような音が聞こえてきた。
三羽烏の1匹だ。
「人の気配がするから来てみたが、お前だったか!」
来た!と思うと同時に緊張が走る。
それと同時にアッシュがゆっくりと距離を縮める。
「そっちから来てくれて助かったよ。全員一緒だとちょっとめんどくさいと思っていたところなんだよね。」
と言い終わると同時くらいに三羽烏が剣を振った。
シュッと空気を裂いた。
直前までそこにいたアッシュがいない。瞬きとかしたわけではないのに動きを眼で追えなかった。
「怒っているのか行動がわかりやすすぎるよ。」
そんなセリフを言いながら剣を数回振るう。
羽が落ち、手足の関節から血が飛び出す。
一瞬目を覆いたくなった。
アッシュは的確に、宣言通りに敵を行動不能にした。
「さて、アル。ここからが君の仕事だ。」
アッシュの表情が会ってから一番真剣な顔をしていた。