準備
「ではみなさん、準備など含め時間をいただきます。出発は明日の夕方頃にしますので、本日はいったんこれで終了でよろしいですか?」
うん、と誰ともつかない声がどこからか聞こえてきて、流れるように解散となった。
「アッシュさん…」
「アルベルト君、とりあえず寝ましょう。私に任せれば問題ありません。」
とはいったもののアルベルトの表情はあまり明るくない。
不安を抱えたまま夜を明かすこととなった。
「あー、あんまり寝られなかった。」
時刻はお昼になろうかというころ合いだ。
もうひと眠りするほどの時間もない。
「アッシュさんはもう起きてるみたいだな。とりあえず…アッシュさんのところにいくか。」
アッシュさんはうちに泊まっていただいた。
不安であまり深い眠りについたつもりはないのにアッシュさんの起きた気配には気付かなかった。
アッシュは村人と話をしていた。
社交性が高いのかもう打ちとけている。
顔立ちは端正で、銀とも見間違える灰色の髪がまたマッチしている。
『身体能力も高く社交性もあり、それでいてイケメンとか完璧すぎるだろ…』
そんな事を思いながらおはようと声をかける。
「これはこれはアルベルト君、おはよう。ゆっくりやすめたかい?」
「いや、あんまり。不安と緊張でね。」
「それはそれで大丈夫です。ほぼすべて私に任せていただければ解決しますから。昨日は穴埋めなんて言い方しましたが、大したことではありません。
ただちょっと君にはやってもらいたいことがあるだけですよ。」
アッシュがそう言いながら何か企んでいるような笑顔をみせた。
「わかったよ。そのやってもらいたいことをしっかりやり遂げられるように努力するよ。そのための打ち合わせというか準備をすすめようぜ?」
そう言って二人はまた家に戻った。
「といっても向こうのいわゆる巣に出向いて討伐してくるだけですので、持ち物は使い慣れた武器と一日分の食糧程度で大丈夫ですよ。」
そのあまりにも軽い感じに逆に不安になる…
まさか途中で逃げるつもりか?などと考えてしまう。
その不安が解消できないまま出発の時刻になった。
村のみんなに見守られながら村を出た。
プレッシャーを感じるのだが、アッシュからは一切の不安や緊張が見受けられない。
しばらく無言で歩を進めていたら急にアッシュがしゃがみこんだ。
「はぁー、あのさーアルベルト君さー」
『なんか急に砕けた感じになったな。』
「俺さ、普段から人前だと失礼のないように敬語とかつかうんだけどさ」
「は、はい。」
「ここからはタメ口でいい?」
「う、うん、別に…かまわないけど。」
「ていうか、素に戻るって感じかな。改めてよろしくね。あ、あとさ、アッシュさんていう呼び方もやめてよ。呼び捨てでいいからさ」
「い、いや村を救ってくれる方を呼び捨てなんてできませんよ」
『なんか急にグイグイ来るなこの人』
「俺もアルって呼ぶからさ、よろしくね。アル」
逃げ出す雰囲気はないようだけど、こんな感じで大丈夫かな?策はあるのかな?
と違う不安に襲われるアルベルトだった。