決断
アッシュはすごい。
まず倒れている仲間たちに回復魔法をかけてくれた。
自己回復魔法を使える人はある程度いるが、他人にかけられる人は絶対数が減ってしまう。
切り傷、擦り傷程度しかなかったとはいえ、それらが痕も残らず完治している。
さらに大の大人を2人支えて汗もかかず涼しげな顔で村まで歩いてきた。
「アッシュさんて、体力あるんですね…」
俺は1人しか連れ歩いていない上に肩で息をしている状態なのに…
「まぁ、ちょっとね、諸事情により鍛えているもんで」
そんなレベルかよ、ということを考えているうちに村についた。
「おぉ、アルベルト、お帰り。どう…だった…?」
村の人たちが出迎えてくれた。
「それも含めて話があるんだ。尊重のところに一旦集合したい。」
「わかった、主だった面々に招集をかけておく。」
「リッド達もお願いしていいか?」
リッドは村長の息子で一緒に来た仲間の一人だ。
「で、そちらの方は?」
「俺達を助けてくれた旅の方で、アッシュさんという。お礼もしたいし、一旦俺のうちに案内するよ」
そう告げて村の人たちと別れた。
ファーリーの村は人口80人程度の村だ。
豊富な山の幸、野生動物の狩猟の他、麦などの作物で成り立っている。
その食料を三羽烏に貢ぐとなると、村としての財政を圧迫するとかなんとか
「で、俺達は三羽烏を討伐することになり、失敗したところにアッシュさんがきてくれたと、こういうわけです。」
「なるほど。それで今から今後の対策を含め、会合があるからそれに出席してほしいと?」
「そうです。」
「なるほど、ですね。」
そうこうしているうちに村の集会所についた。
集会所兼村長宅なわけだが、すでにみんな集まっていたみたいだ。
「おぉ、そなたがアッシュさんか。村の者を救っていただきありがとうございます。」
「いえいえ、たまたま通りかかっただけですよ。」
「そうですか。そう言っていただけるとありがたいです。しばらくは客人扱いになりますのでゆっくりしていってください。」
無言でうなずくやいなやみんな真剣な面持ちに切り替わった。
「さて、三羽烏の件についてだが、アルベルト、リッド、やはり歯が立たぬほどか?」
「多対一の状況を作れればさほど強い相手ではないのですが、やはり連携がとれていて付け入る隙がありませんでした。」
リッドが答える。
「そうか…」
重たい空気が流れている。
「すみませんが一つきいてもいいでしょうか?」
「おぉ、アッシュさんいかがなされたかな?」
「三羽烏、ガーゴイル達ですが特段体が大きいといったこともなく、通常個体でした。であれば3匹分の食料といっても大の大人3~5人分程度の食料でしょう。村の財政を圧迫するほどではないと思うのですが?」
「うむ、わしらもその程度ならなんとかしのぎ、マイルスからの討伐兵士を待てるのだがな。」
「なにか理由があると?」
「アッシュさんはヤマアラシというモンスターをご存知ですか?」
「えぇ、存じております。」
「そのヤマアラシを三羽烏が育てているのです。」
「なるほど、ですね。」
ヤマアラシ
生まれてから成体になるまで約1年と大変短い期間で成長する。そのため大量の食事を必須とし、食べる者がない時は植物から動物いろいろなものを食料とする。
そのため短期間で生態系などが変化が出ることから「山荒し」「山嵐」などから「ヤマアラシ」と呼ばれる。体長は幼体で2~3メートル、成体になると最低でも5メートルを超える。見た目は熊にに似ているが、全体的に赤い毛並みで遠くからでも視認ができ、人間や他の動物に対してもひどく攻撃的である。
「食料の供給をしている三羽烏を討伐してしまえば、罠など駆使すればヤマアラシの討伐はさほど難しくないのですが…」
という誰ともつかない村人の話が繰り広げられる中、皆の視線がアッシュに注がれる。
「アッシュさん、お願いです。三羽烏をものともしない大立ち回りの話は聞きました。なんとかマイルスに出す予定の報酬もそのままアッシュさんにあげますので、どうか村をすくっていただけませんか?」
村長の話が終わると同時に皆がいっせいに頭を下げた。
「そうですね。やってもいいですが条件があります。」
「条件…ですか?」
「はい。一つは討伐に向かうのは私とアルベルト君の二人にしてほしいのです。」
「え?俺?いくの?」アルベルトがまさか!という顔をしている。
「えぇ、とある事情により私一人では討伐ができないと判断させていただきました。なのでその穴埋めとして人手を借りたいのです。そして先の討伐でアルベルト君は一人でも三羽烏と戦える実力が備わっているのも確認しておりますので。」
「ちょっとまって、俺はかなわないから逃げていただけだぞ!?」
「いわゆる一般人なら逃げることもできませんでしたよ。なに悪いようにはしませんから」
アルベルトから悩んでいる表情が見て取れる。
村の皆の視線がアッシュからアルベルトに移った。
「アルベルト、本来なら村長の息子の俺が一番に体を張りたいところだが、実力不足なんだ。」
リッドが説得しはじめた。
「どうか…頼む。アッシュさんもこの村をお願いします…」
リッドが改めて頭を下げた。
「さて、アルベルト君、後は君だけが決断するだけですよ?」
「わかりました…」
としぼりだすような声がした。