経過
一週間が経過した。
午前中に筋トレ、ダッシュ、持久走、そんな肉体強化トレーニングの他にやっている実践稽古がアッシュとの模擬訓練だ。
基本的には木剣で組み手形式に訓練、実戦経験を積む、という内容だ。
「あーもー!アッシュ強すぎる!」
「そりゃそうだろう、たぶん俺人間で一番強いもん。」
「そんなに強いんならさ、俺武器を変えていい?」
「うん?武器?」
「そう。これ使いたいんだけど。」
「ほう、鞭か。渋いね。」
「渋いかどうか知らないけどさ。俺が狩りに行く時はこれ使うことが多かったんだよね。」
「なるほどね。」
「じゃ、いい?」
「いいけど、木剣も使う訓練もいつも通りやるよ。その他にプラスで使う分には構わない。」
「なんでそこまで木剣にこだわるんだよ?」
「ん、なんでかというとね。武器には有効射程というものがあるんだよ。もちろん射程が長いほどこっちの攻撃は当たるし敵の攻撃は当たりにくいからいいことずくめなんだけど。」
「じゃ、鞭もありじゃん?」
「ありといえばありだけど。それ対複数戦や狭い場所での戦闘を想定してないでしょ?」
「あ」
「鞭は武器の性質上広いところじゃないと振り回せないからね。室内戦とか向いてないのよ。そして振り回して攻撃する関係上、次の一撃に入るまでに時間がかかったりする。ただそのスピードは現存する武器では1番はやいからな。あたれば骨折や痛みでのたうちまわるということを考えると鎮圧力は高いと思う。それはつまり殺傷力は低いということだ。なので鞭も使えればいいし、どこでもいかようにも取り回しがきく剣も使えれば損はしないということさ。」
「なるほどね。」
「いままで外で狩りにということで有効だっただろうけど、それしか選択肢がないという状況は避けた方がいい。それでも鞭を日常的に使う人もいないから対人戦では有効かもね」
「対人ね。むしろこの旅はモンスターと戦うことがおおいんだろ?」
「あぁ、言ってなかったけど最初の勇者の資格をとるファイアローゼなんだけど、ここの試験は対人戦があるんだよ。」
「そうなのか。」
「具体的には『回復系』『攻撃系』の二つの魔法試験と、最後に対人戦だ。」
「げ!魔法の試験もあるのか。」
「大丈夫、ここ最近のアルなら大丈夫。攻撃魔法は火の魔法を使えるじゃないか。これを無詠唱で撃てるようになってきたんだから時間を短くするように練習していけば間違いなく合格さ。回復系は自己回復と他者回復にわかれどちらかクリアすればOKで、自己回復はその場で体に傷をつけられるんだけどそれを治すだけだ。他者回復はたぶん傭兵の中に傷とか病気とか怪我持ちががいるからその人を治す。他者回復は回復できれば時間にかかわらず合格になるよ。ここまでで何人かふるい落とされる。そして最後にファイアローゼで1番強い傭兵が出てくる。この傭兵を圧倒するか、近い実力でも合格と言ってもらえればそれでクリアさ。」
「なるほどね。勇者としてバランスよく育ってないと合格しないのか。」
「そういうこと。で、アルの場合は自己回復の課題なんだけど。実はこれ詠唱破棄して魔法で治せるくらいの実力がもうあるはずなんだ。」
「え?そんな訓練してないよ?」
「まぁまぁ、言われたとおりにして」
そういうと同時にアルの腕に切り傷を付けた。
「いっ」
「はいはい我慢して。そんな大きな傷じゃないから。そして眼を閉じて自然体で立ち、呼吸を整えて」
「スーハー」と深呼吸をする。
「そしていままで怪我したときのこととそれが治っていくことを想像して。それらはすべて体が自動で治していたことだ。それを魔法で補いスピードを高めるのが回復魔法の基礎だ。」
言われたとおりにしているのだろう、アルの腕の傷がみるみる治っていく。
「はい、おしまい。な?簡単だろう?」
「おぉ!きれいに治っている!」
「自己治癒は比較的簡単なんだ。過去に怪我したことがない人間なんてほぼ0だからな。その傷と治りかたをイメージしやすいから、それを魔法で強化するイメージを加える。これも魔法についての基礎訓練をしたからすぐに出来るようになったんだ。」
「すごいな。」
「これでほぼ合格するだろうけど、今の傷なら無詠唱で静止状態から5秒以内、または動きながら15秒以内になおせるのが理想だ。」
「それははやすぎだろ!」
「おっと、肉体トレーニングの時間に魔法の訓練もしてしまったか。よし、そろそろ飯にして終わったら移動メインといくぞ。そろそろ町によって食糧等も調達したいしな。」
「はいはい。まったく休まる時間がないぜ。」
ここ一週間でアルベルトの魔法の技量はあがった。もともと素質があるのもそうだが、魔法による肉体強化が思いのほか相性がいいのだろう。筋力強化もすんなり覚えた。
しかしまだ魔力の絶対値が足りないためかすぐ枯渇してしまうが。
それでも魔法による筋力強化で移動のペースは格段に上がった。
これなら予定通りにファイアローゼにつきそうだ。
「ふぅ、久しぶりの町だ。」
あれからまたしばらくの日数と距離を移動した。
途中途中に村や町はあったが、めぼしいものないので食糧を調達する程度で移動に時間を使い寝るときは野宿という生活だった。
「食糧の買い出しとかは明日出発前にやるから、今日はもう休もうか。」
そういうと二人は宿へむかって行った。
この町は大して大きくないが、ファイアローゼへ行く道の途中にあり、こっち側からだとこれから大きな森の中を通るため、準備のための人々が足を止める町となっている。
逆側から来たら大きな森を抜けてすぐの町になるわけだ。
そんな交通の途中の町のためかいろんな人や行商人、物が行き来する町となっている。
そんな森の町、ディレストの町へ到着したのだった。