俺勇者なんだけど敵を倒せない、ワロタ
ここはセピアルト大陸で一番大きい国「マイルス」
の、はるか北に位置する山と森に囲まれた自然豊かな村「ファーリー」
からさらに北に進んだ森の中だ。
なんでこんなところにいるかというととあるモンスターを退治するためだ。
俺の住んでいる村ファーリーがここ最近とあるモンスターに目をつけられ、定期的に食べ物を貢がされる。
マイルスのお偉いさん達は近隣国との小競合いに人を割いているため、モンスターの討伐に人を派遣する余裕がないらしい。
もともと食料の生産出荷で村の運営が成り立っているのに、モンスターに貢ぐ分だけ町の運営が苦しくなっていく。
村のみんなで話し合った結果、討伐することにしたのだがマイルスから人が派遣されない以上自分たちで何とかするしかない。
なので村の若い者たちで多対一の形でもってしてモンスターを倒そうということになった。
そこまではよかった。
モンスターが思った以上に強かったんだ。
三羽烏と呼ばれるガーゴイル達はとにかく連携がうまく、俺達は多対一の形を作れずただただやられるだけだった。
みんなバラバラに逃げたから今はどうなっているかわからないがたぶん殺されはしないだろう。
ただ三羽烏の怒りをかったいじょう食べ物要求などはこれから先格段に増えるに違いない。
もし捕まれば人質みたく扱われたりするかもしれない。
作戦は失敗でどう転んでもいい方向には進まないだろうと思わされる結果だ。
「くそ、失敗か…」
俺は比較的傷が浅いためまだ動ける。
「せめてみんなの無事を確認しなくては…」
敵が俺を追ってこない以上たぶん仲間が狙われているのだろう。
「助けにいかない、とな」
そう思いながら仲間を探して歩き回る。
「しかし静かだな…」
悲鳴の一つでも聞こえてきてもおかしくないのに森は穏やかな様相で、それがやけに静かに感じる。
とおもった矢先に声がきこえてきた。
「キェーッ」と叫び声
『この声は三羽烏?』
耳をすませると三羽烏の声が、剣を振る音が聞こえる。
その音を頼りに森を進む。
「こっちか」
誰かが応戦しているんだろうか。
「無事でいてくれよ…」
『あれ?そういえばさっきからきこえてくるのは三羽烏の声…だけ?』
近づくにつれ、きこえてくる声や音の異常性に気付いた。
と同時に目に飛び込んできた光景に驚かされた。
一人の男が三匹のガーゴイルの攻撃をただただ避けていた。
それも汗一つかかず、危なっかしさもなく。
むしろ美しいくらいの動きで。
「なんだこの男は…」
そう思いながらも男を助けに入ることができずただただ見とれているだけだった。
背中に目でもついているのだろうか?というくらい三羽烏の攻撃が当たらない。
フェイントを入れたり三方向から同時攻撃したり、魔法で攻撃なんかもしているが、すべて余裕をもって買わしている、そんな印象の動きだった。
三羽烏達も攻撃が当たらずイライラしてきたのか、それとも疲れか動きがだんだん緩慢になってきた。
そしてその瞬間を男は見逃さなかった。
三羽烏の攻撃を避けて手を添えただけ
思い出してもそうとしか見えなかったのだが、三羽烏達の羽やくちばしがぼろぼろになっていく。
ただただその男の動きに見とれていただけだった。
「くっそ、なんだこの男は!」
「兄貴いったん逃げましょう!」
「顔は覚えたからな!近々また命をもらいにくるからな!」
そう言って三羽烏は逃げ出した。
「ふう」と、男は一息入れた。
よく見るとその後ろに仲間たちがいる。
「み、みんな無事…なのか?」
「あぁ、みんな無事だよ。ガーゴイル達に連れ去られそうだからとりあえず助けたんだけど、君の知り合いかな?」
「あぁ、同じ村の仲間だよ」
「それは助かった。一人で全員運ぶのは大変だと思っていたんだ。」
「そうか、もちろん俺も手伝うよ。みんなを助けてくれてありがとう。お礼がしたいんだがうちの村に来てくれないか?」
「ではお言葉に甘えましょう。」
「俺はアルベルト、この先のファーリー村の者だ。あなたは?」
「俺はアッシュという、よろしくアルベルト。」
アッシュと名乗った男は白いマントをはおり、細身の剣を一本腰に携えていた。
ガタイがいいわけではないが、鍛え上げられた肉体があるのはマントの上からでもわかるようなたたずまいをしていた。