空飛ぶウサギ、崖から飛んで、月へ行く!
※冬の童話祭2016参加作品です。いつもとテイストが違うかもしれませんが、笑って許して下さい。なお、作者は、ハッピーエンドが大好きです。
※本文4000文字程度。
空飛ぶウサギ、崖から飛んで、月へ行く!
昔々、とある並行世界に、一人の駄女神様がいました。
駄女神様が空を見上げると、空には満月が煌々と輝いています。
薄黄色の満月は、染み一つなくとても綺麗。卵の黄身みたいに真ん丸で均一な満月は、そのままお菓子作りに使えそうなくらい、曇りのない色でした。
でも、それが少しだけ物足りないなぁと、駄女神様は感じていました。
「月に餅つきをするウサギがいないのは仕方ないけれど、せめて空飛ぶウサギくらい、いないのかしら?」
そう呟くと、駄女神様は広域検索の魔法で世界を見渡しました。
◆◇◆
僕の名前はロック。元々の名前は「第一二三野原の一〇二〇番目の子」という長い名前なのだけれど――気が付けば、仲間達から「ロック」という名前で呼ばれていた。
ロックという言葉に、「反骨精神」という若干の諦めと軽蔑が込められているのは知っているけれど、そんなことで僕は自分の夢を諦めたりなんかしない。
「僕は、空が飛びたいんだ!」
そう、僕は空が飛びたい。
空を自由に、鳥のように、颯爽と飛びたいのだ!
◇
今日も僕は「両耳パタパタ」の訓練をしている。
両耳をパタパタして――ジャンプ!
「今、ちょっとだけ、飛べたよね!? 浮いたよね!?」
誰もいない秘密の特訓場に、僕の声が響いた。さっ、寂しくなんか無いんだもんっ!
僕が空を飛んだら、きっとみんなも褒めてくれる。
だから、もう一度耳をパタパタ。
ジャンプ。
――ふわ、とさり。
「よしっ、多分、浮いているっ!」
笑いが止まらない。
「ぐふっ、ぐふふっ、ぐふふふふっ。いよいよあの作戦を実行する時が来たっ!」
僕は野原の外れにある崖へ移動する。海に突き出すような断崖絶壁。
いつもは身体にまとわりつく潮風が、今日はとても心地良い。目的は、空を飛ぶことただ一つ。
だから、僕は助走をつけて――全力で走って――崖からジャンプした。
耳をパタパタさせる。
「飛べるっ!! 僕は鳥にな――」
ぐしゃっ。
地面に叩きつけられた。
耳のパタパタは止まらない。止められない。いわゆる、痙攣しているだけともいう。
「ううっ……痛い。がふっ、けふっ、でも、負けないっ!」
言葉を口には出したものの、身体全身が痛い。いろんな場所から血が出ている。
だんだんと遠のく意識の中、目の前に人間の女の子がやって来た。
一〇歳くらいだろうか? サラサラのロングストレートに、真っ白な髪と素肌と真っ赤な瞳。背筋がぞくっとなるような、ちょぴっと怖いオーラを纏っている。
若干、彼女の口元が引きつっているのは仕方ないと思う。今の僕、多分、スプラッタだから。
女の子が、ゆっくりと口を開ける。これから来るであろう大音量に、反射的に耳を伏せていた。でも、女の子の口から聞こえてきたのは悲鳴じゃ無かった。
「お前の本気を見せてみろ? お前の本気はその程度か?」
予想外の挑発するような言葉。女の子は悪戯っぽく笑っている。
うん、とりあえず――明日から頑張る。
だって……まぶたが……重たい……か……ら……
(Bad_end)
――なわけない。今から頑張るっ!
カッとまぶたを見開いて、顔を上げると、にこにことした女の子が立っていた。
「よ~し、よしよし、男の子だね。時間遡及」
女の子の手が光ったかと思うと、僕の身体が温かい光に包まれた。
◇
気が付くと、崖の上にいた。手足は折れていない。脳裏に声が聞こえる。
「お前の本気を見せてみろ」
うん、そうだ今度こそ僕の本気を見せてやる。前に向ってダッシュ!
「ちょ、ちょっと、私の話を聞きなさいよ!」
女の子の慌てた声が聞こえたような気がするけれど関係無い。
僕は、今こそ鳥になるっ!
◇
――ダメでした。三回くらい、ぐしゃってなりました(泣)
「あんた馬鹿でしょ!? 生き返らせるのも只じゃないんだよ? MP使うの。ごっそり使うの。回復するのに時間がかかるの。あんたのその小さな脳みそで、意味分かる?」
二〇分、正座でした。
女の子もとい、女神様に怒られました。
心が折れそうです。うん、お説教はまだまだ続く。
あははっ、乾いた笑いしか出ないや。
「――ということだから、私が直接手伝うことはしないけど、ロックが空を飛べるようになるまで死なないように、私が見守ってあげるから♪」
中途半端に聞き流していたから良く分からないけれど、なんと女神様が僕に協力してくれるみたいだ。死なないというのはとても良いことだ。
「ありがとうございます。もう無駄に崖から飛びおりませんからっ! でも、必ず、空を飛んで見せますっ!」
「よろしい♪ せいぜい、私を楽しませてみることね」
僕の言葉に頷いて、女神様は煙が消えるように空気に溶けて見えなくなった。
改めて気合いを入れる。
「よし、空を飛ぶのを頑張ろう!」
とりあえず、「両耳パタパタ大作戦」は一時中止だ。
◇
まずは大きな鳥と交渉。鳥に運んでもらって空を飛ぶ作戦を実行する。
……失敗。一時的に空は飛べたけれど、背中に喰い込んだ爪が猛烈に痛かったし、巣にお持ち帰りされて雛に食べられそうになった。ドロップキックで撃退できなかったら、マジで危なかった。
(Bad_end)
鳥の落ちた羽を毛皮に刺してみた。ふと、羽が増えたら飛べるかなと思ったんだ。
……失敗。たにんのしせんがいたい。そとにでるのがこわい。
安易な考えじゃ、飛べるわけないと、三日くらい落ち込んだ。
(Bad_end)
ムササビみたいに手足に布をつけて、崖からジャンプしてみることにした。本当は空を飛びたいのだけれど、まずは手始めに滑空することから始めようと思ったのだ。これは、ムササビやモモンガといった前例があるから大丈夫。自信を持って飛び降り――
……失敗。自分の手足が短くて、体型がメタボなことに、今更になって気が付いた。ちょっと泣いた。
(Bad_end)
火薬で――
……失敗。
(Bad_end)
紙飛行機で――
……失敗。
(Bad_end)
大きな紙飛行機――
……失敗。
(Bad_end)
つい、カッとなって――
……宇宙ロケット作った。後悔なんてしていない。僕は、大空を超えて、月へ行くっ!
「ちょっと目を離した隙になにしてんの!? どこをどうしたら、一人ぼっちのウサギが宇宙ロケット作れるのよ!!」
女神様の大絶叫が聞こえたような気がしたけれど、今の僕には関係無い。
だって、夢が叶うのだから。
飛行機? え? なにそれ、美味しいの?
◇
「ふっ、ふっ、ふふふふっ、ふふふっ――ついに来た。ここまで来た。さぁ、夢と希望を打ち上げよう」
ロケットを見上げながら、手元のスイッチを押す。
「ぽちっとな♪」
轟音&高温。打ち上げは成功。あっという間に空の向こうに見えなくなった。
――って、あれ? なんで僕はここにいる?
「ロケットに、乗るの忘れてたぁぁっ!」
◇
気を取り直してもう一度。
「あんた、よく心が折れないわね? それだけは称賛するわ」
いつの間にか、女神様がロケットを作る僕の後ろにいた。
「何度か、骨が折れましたけれどね、物理的に」
「あははっ、面白い冗談だわ♪」
そう言うと、女神様は消えていった。……わりと、真面目に「治してくれて、ありがとうございます」って言うつもりだったんだけれどな。
まぁ、女神様はいなくなっちゃったし、とりあえずお礼は置いておいて、今度こそロケットの中に入る。
「今月、二度目の、ぽちっとな♪」
轟音&振動。そして宇宙空間。ロケットを操作して、真っすぐに月へ向かう。
『自動航行モードに切り替えます』
音声案内の後に、船内を移動する。
ふわふわの宇宙空間。無重力だから、空中で自由に飛ぶことが出来る。両耳パタパタで前に進むこともできるし、調整すれば右折、左折も可能だった。良かった、両耳パタパタの修行を止めなくて。
でも。……暇すぎる。暇すぎて死にそうだ。……一人は……嫌……かな……ぁ。
(Bad_end)
◇
「はっ! ここは? あ、ああ……僕は、夢を見ていたんだ」
気が付くと崖の上。ここから何度も飛び降りて、ぐしゃっとなる夢を見た。
「……」
がさり。
音がした方を振り返ると、幼馴染みが心配そうな顔でこっちを見ていた。
「……ロック、大丈夫?」
「僕は――うん、大丈夫だよ」
「……そう」
「「……」」
お互いに無口だから、沈黙が流れてしまう。いつものこと。いつもの時間。
でも、それで気付けた。月まで行かなくても、すぐ近くに幸せはあったんだ。
長い長い夢を見ていた。
悪夢のような、魅惑的な夢だった。
でも、そんなモノに手を出さなくても、幸せはすぐそばにある。僕の隣にひっそりと寄り添ってくれている。
ああ、今の僕は幸せなんだ。多分、きっと、間違いなく。
……。
……。……。
……。……。……。
なんて思うほど、僕の心は綺麗じゃない。
誰かに与えられた幸せだけじゃダメなんだ。もの足りないんだ。手を伸ばしたいんだ。
それが僕の存在意義だから。自由を求める意思だから。現状に満足していたら進化なんて出来ないから。
「僕は空を飛びたいんだ!」
女神様、まだ僕を見ているんですよね?
まずは、宇宙ロケットを作ったチートな技術力&魔力で、とりあえず世界統一だ。あ、でも、テラフォーミングとタイムワープの技術開発も必須になる。僕一人じゃ手が足りない。
変なプライドなんて投げ捨てて、同じ夢を見られる仲間を集めなきゃ始まらない。
必ず、きっと、僕らは月へ行ってみせる。
――そのためにも、まずは「なろう」で参考事例の研究だ。SF、内政チート、成り上がり、ハーレム、検索っと♪
◆◇◆
「やっぱり、月にはウサギよね~♪」
満月を見上げながら、駄女神様は満足げに頷きます。
うんうん、うんうん、と何度も頷きます。
「まさか空を飛び越えて月へ行っちゃうとは思わなかったけれど、風情が全然違うわぁ~」
本日三つ目の「月見だい*く」に手を伸ばしながら、駄女神様が見上げた視線の先。そこに見える月の模様は――
今度の満月の夜に、並行世界と空が繋がるみたいなので、あなたの目で確認してみて下さい。
ロックなウサギ達の姿が、見えるかも?
(end)