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猫と杓子がやたら強い。  作者: しゃもじ派
食の神 プウ
9/77

中華鍋

結局ジジイが喰い終わるのを待つ羽目になった。


「茶が欲しいのぉ。」


同類を乾燥させて煮出した物を飲む気かこいつ……。


「とりあえず教えてく……」


突然ビュォっという音と共に、野球ボールぐらいの大きさの赤く光る球体が通り過ぎた。俺の顔の真横をだ。少しでも下か、横にずれていたら当たっていた所だ。


「ここで何をしている!!『人』!!」


また突然聞こえたデカイ声に後ろを振り向くと、褐色の肌をした筋肉が盛り上がった壮年の男が立っていた。

何かの毛皮で出来たズボンと、ベストを前空きで素肌に着ているが、ベストの丈が足りていない。肩から胸の部分しか隠れていない……変態だ!どこの男性アイドルグループの一員だよ。


「ここで何をしていると聞いている!!」


片手をこちらに向けながら叫ぶその姿は、さながら吹き替え版洋画の悪役が、スパイに怒っているシーンのようだ。恐らく先程の赤く光る球体は攻撃霊法……って考察してる場合じゃないな。


「妖怪と喋っていた。」


と俺が返すと


「……それがどこにいる?」


と返ってきた。


横を向くと先程と変わらず真っ青な草原の中に、青い小さい花が咲いているだけだった。…あのヤロウ。


「はっ。やはり問答は無用のようだな!!」


――契約せし我の霊力を糧に二尾の名の根源たるその力を貸し与えよ――


……二尾?いやいやこれはマズイな。霊法が来るぞ。


「しゃもじ!!来い!!」


…………うん来ないな。猫なんて気まぐれなもんさ。っていうか寝てたわあいつ!


――焔監獄ほむらかんごく――


男が霊法を放つ。ゴォという音が鳴り、俺の周囲1メートルの地面から炎で出来た複数の柱が立つ。それらが俺の頭の上で一つになり、半球体の檻となる。……徐々に狭まっているようだ。本格的にヤバイな。


水……は遠いな。駆け抜ける……のは無理だな。炎がデカ過ぎる。……なら。


俺は杓子を中華鍋に変えて炎の柱を一本抑え付けた。


中華料理屋のコンロは天井をも焦がす炎を上げる。それを上から中華鍋を被せて抑え付ける。同じ要領だ。……良かったバイトしていて。


バランスを失った霊法は崩れて消える。


「なん……だと……?」


俺の好きなマンガの好きなキャラが良く使うセリフを本気で言っている男。今更気付いたが、四葉と同じ耳と尻尾がある。


あんな炎に包まれたら確実に死ぬだろ!危険極まりないぞこの男。


「いや…俺は娘を助ける!こんな所でつまずいてたまるか!!」


あ…四葉のお父さんでしたか。それはそれは。水竜から助ける為に来たんですね!父親の鏡です!!

俺は笑顔を作り、男に近付きながら台を指差して

「娘とは、あそこで寝ている奴の事ですか?」


と言ったが…ヤバイ…悪役っぽいセリフになってしまった…?


「き…貴様ぁぁぁぁぁあああ!!!」


ああやっぱり!!もう殺した、って意味で伝わってしまったようだ!いきなり攻撃されといて笑顔がひきつらない訳ねぇもん!


男は自身の尻尾を引き抜き、剣に変えて飛びかかってくる。そんな事出来るんだ!?……じゃなくて誤解だ誤解!!


ガギンっっと金属音が響く。中華鍋を盾にしたので助かった。ひぃぃ……俺が何したってのさ!!こんな理不尽な暴力見たことねぇよ。


「中々頑丈な盾だな。」


鍋ですが!?おっ?ちょっと離れてくれた。


「話を聞いて……っっ!?」


俺が恐る恐る顔を上げると、居合い切りの構えをした男が見えた。


――剣技の一、閃熱殺せんねつさつ――


そのまま男が横薙ぎに剣を振ると、そのまま炎の剣閃となり飛んできた。当然俺はまた中華鍋で亀になりやり過ごす。俺を越えて行った剣閃は、あのドデカイツル草を3本なぎ倒し、消えた。怖いしっっっ!!


「くっ!?これで終りだぁぁあ!!」


――剣技の終、獄殺剣閃ごくさつけんせん――


終!?いきなり奥義放ってきたこの男!もっと順を踏んで行けよ!!


俺の前後、左右、頭上に取り囲むように配置された数え切れない程の炎の剣閃が浮かび上がり、襲いかかってきた。


『杓子!でかくなってくれぇぇ!!!』


半泣きになりながら叫ぶ俺。当然そんな事出来るか解らないが、出来なければ間違いなく俺は今死ぬ。


結果、俺に被さっていた中華鍋は大きくなり、完全に俺を覆ってくれたお陰でやり過ごせた。


「そんな……馬鹿な……。」


中華鍋で出来た暗闇の中で男の声を聞いた。このままこうしてれば何とかなるはず。


………。


…………。


あれ?静かになったぞ?


「ほほっ!霊力切れで倒れたんじゃな!!」


暗闇の中でジジイの声がしたのでゆっくりと中華鍋を上げると、確かに倒れているのが見えた。


「どういう事だ?」


「霊力とはすなわち燃料じゃ。体とは色んな物を燃やして動いておる。燃料が切れれば動かなくなるじゃろ?」


「つまり腹が減るって事か?」


「そうじゃな。失った燃料は外部から取り入れる必要がある。霊力を使えば使う程、腹が減る。それでも無理に行使をすれば、倒れるのは必然って事じゃ。」


中々教えるの上手いじゃないか。妖怪のくせに。あれ?


「あのまま放って置いたらどうなるんだ?」


「呼吸で霊力を補給する手段を知らなければ、最悪は死じゃ。」


何を平然と言ってんだこいつ!一大事じゃねぇか!……あれ?中華鍋があれだけの火を浴びて熱くなってない?


試しにジジイをつまんで中華鍋に放り込んだみたら「熱いわ阿呆あほうが!」と言っていた。俺、熱さ感じないのかな?


「いち早く隠れた罰だ。」とジジイに言い返しながら、鯖蟹を2枚焼き、男に駆け寄った。


「食えるか?」


俺が魚を差し出すと、驚いた顔をした男。そりゃそうだな。


「…誰が貴様のほどこしなど…。」


虫の息だな。本格的にやばそうだ。


「いいから食え。お前の娘は生きているぞ。水竜も殺した。」


「……でたらめを言うな…。」


「だったら早く食って確かめるんだな!」


ムッとした顔をしながら魚を鷲掴み、ガツガツと食べ始めた。



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