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猫と杓子がやたら強い。  作者: しゃもじ派
『人』の世界
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石化獣人


何時間も経ったかのような長い長い沈黙。


どうする。『獣人は気の良い奴等です。仲良くしましょう。』なんて言って攻撃されたら?


『ただのコレクションにするだけっすよぉ~』も1000体近くあるんだ。無理がある。


石像を削って石焼ビビンバを!!……なんて普通の石でいいしなぁ。


そもそもこの状況で勝てるか?大臣…はそんな戦力じゃなさそうだが、女王がまずとんでもなく強いんだろ?それに加えて護衛軍か…。


レラに匹敵する『エクシードスキル』を持っているのは女王と軍隊長だったな確か。護衛軍の中で1人だけ兜に髪の毛みたいなのが生えてるアイツが隊長か?


レラが女王、じいさんが軍隊長を相手どって、俺が大臣か。………勝てるか!?


レラは………女王がを真っ直ぐに見ている。その瞳は、決意に満ち溢れているようにみえる。


________________まぁいっか。


「俺とレラは獣世界から来た。獣人と『人』の確執は一応聞いてはいるけど、別に俺には関係がない。俺は獣人達が好きだ。だから石化を解いてやりたいと思う。」


正直に言う事にした。面倒だし。……あ、レラの顔がみるみる青くなっていく。やっぱダメかな…?


凍りついた空気。すぐにざわめき。そして怒号へと変わる。


「人類の宿敵を好きだとぬかした」

「全てに劣る汚物だ」

「とんでもない奴等を城に入れてしまった」

「獣人に魂を売った裏切り者」

「悪霊に操られている」

「死をもって救済を」


怒鳴り声で大半が聞こえなかったが、概ねそんな言葉の嵐だ。


護衛軍約20名程が一同に剣を抜き、その切っ先で俺とレラを威嚇しながら怒鳴り散らす。


レラも苦虫を噛み潰したような表情を浮かべている。が、俺はどこ吹く風。だって想像ついてたし。


驚いた表情を浮かべながら何も言わない女王を見ると、ハッと我に返ったように声を上げた。


「黙れ」


決して大きな声ではなかったと思う。だが、水を打ったような静寂が訪れた。


「随分と正直だな。処刑されるとは考えなかったか?」


「いや、考えたさ。でも嘘を並べて『人』と接したくはなかったからな。」


どうでも良くなると敬語なんて使えない。別に俺はテレサ帝国には住んでいないし、俺にとっては着飾ったただの女だ。


「おかしな事を言う……。違う質問をしよう。お前は人族であろう?人も好きか?」


「……今の所は。『人』の国に来て、獣人達が恐れるような事は何もない。きっとわかり合えると思った。」


「ふっ。そうだな。人族は獣人に比べて脆弱だ。」


「違う!そうじゃない!」


「解っているよ。だがお前も解っただろう?たかがこの部屋だけでこの調子だ。それでもわかり合えると思うか?」


「あぁ。少なくとも俺のように獣人が好きだという奴はいるはずだ。」


「そう………だな。案外そうなのかもしれないな。」


「え!?じゃあ……」


「そうだ。お前の考えに乗ろう。________大臣。炎の騎士団に撤収命令を出せ。」


「じょ、女王!!しかし……」


「口答えをするな。それとも何か?お前この国の戦力で、此奴等に勝てると思うのか?不服がある者は前に出よ。此奴を打倒し、我が国を安泰にしてくれる者はいないか?」


女王が周囲に対して呼び掛けても、ここにいる誰もが悔しそうに俯くだけだった。


「そうだろう?これが戦争ならば既に我が国は負けだ。むしろ無血なだけ幸運だ。今更だがお前の名を聞いてなかったな。」


あ、本当に今更だ。レラばっかりに目が行ってたんだな皆。


それにしても意外過ぎるぐらいにすんなり都合の良いように進んでいて少し怖い…。


「直人。飯野直人だ。」


「そうか。ではメシノ。我が国はお前の考えに沿う。……が、石化の解除は混乱防止の為、石像全てをブルーグラス平原に移送した後に行う事。それと出来れば国への獣人の立ち入りはしばらく遠慮してもらいたい。」


「あぁ。もちろん混乱は俺も望んでいない。」


「あとはこの国の安全の保証が欲しい。お前らが人族に仇なす事をするとは思えんがな。」


それはそうだろう。確かに獣人を放してみました、すぐに攻め入られました。なんて事になったら目も当てられない。


石化した獣人達とは話した事もないし……。根強く『人』への嫌悪感を持っている奴もいるだろうし。


「それはどう保証すればいいんだ?」


「もし万が一獣人達がこの国に攻めてきた場合、お前達が無条件でこの国の味方をしてくれ。」


……うん。まぁそうなんだけどさ。それは全然構わないのだけど。


「口約束でいいのか?」


「いいや。悪いが人質を取らせてもらう。」


人質?まさかレラか??


いや無理だろ。こんな最強のスキルを持ってるレラをどうやって封じるんだ?というかそれが出来たら今既に俺等の首をはねて終わりのはずだろ?


「誰を人質にするんだ?」と言う前に、女王の目配せにより護衛軍の1人に連れてこられたのは痩せこけた女性。


場に合わせたようなドレスアップをしているが、そこに華やかさは全くない。アクセサリーもネックレスをしているぐらいで、つい先程急いで手入れをしたであろう赤い髪が顔の大半を隠していた。


女性への扱いはとても丁寧で、ここで酷い事をされたのだとは考えにくい。とすると単純に疲労や心労等によるやつれだろうか。


「カーミル!!!!!」


突然、レラが叫ぶ。光を失っていた女性の瞳が少しだけ輝く。それはすぐに信じられないようなものを見る目に変わる。


カーミルってレラの実家のメイドさんだっけ?レラが探してる子か!


「あ、あぁぁ…………あぁ。レ…ラ、様……。レラ様。レラ様レラ様レラ様レラ様レラ様!!!!」


レラの名前を何度も呼びながら縋り付く女性。その手はレラがここにいる事を確かめるかのように、腕を足を胸を背中を顔を撫で回している。


「カーミル!カーミルぅぅ!ごめん。ごめんね!」


ぶわっと涙が溢れだしたレラが謝りながら女性を抱き締める。


「思った以上に人質としての価値はありそうだな。」


「………知っていたのか?」


レラがカーミルを大切に思っている事を知っていれば、確かにレラを縛る材料になるだろう。


国が優位に立てるように奔走したのだろうか。なかなか食えない奴だ。


「あぁ。『メイベル家の神罰』は有名な話さ。不本意ではあるが私の魔力を通した"誓約の首飾り"で彼女を人質とする。」


"誓約の首飾り"。クロルが言ってた『人』のえげつない発明品の1つだ。確か効果は"魔力を通した者が定めた誓約を強行する"、だったはずだ。


万が一その誓約が破られた際は、殺してくれと叫んでしまうような苦痛が襲うという。


レラや俺に直接つけないのは、恐らく霊力の差。自身を上回る霊力を持っている者には効果を為さないという事なのだろう。


「だ、そうだけど?お二人さん。」


「悪いとは思うが、体裁も必要な事なのでな。」


俺と女王がレラとカーミルに向き変えると、二人は泣きながら謝り合いながら抱き合っていた。……うん。感動の再会な所申し訳ないけどさ、聞いて?ここ仮にも王の間だよ?


「やはり!!自分は反対であります!!」


急に大声を上げたのは護衛軍の中でも1人だけ兜に髪の毛が生えてる人だ。


「私に『龍脈の指輪』を貸して下されば、こんな非人共一掃して見せます!」


おいおい。道具頼りかい…。でも軍隊長ならエクシードスキル持ち。更に『龍脈の指輪』で強化されたらかなりマズイな。どんな効果があるかはさっぱりわからないけどな!


「ほう。やってみよエリーク。」


ぴーんっという音と共に女王が持っていた指輪がエリークという騎士に投げ渡される。


ニヤリとした表情を浮かべ、指輪をはめたエリークはこちらを向き直り、シャランと鳴らした剣をレラへと向ける。


「アハハ……!やだなぁ……。これでも僕、この国の騎士団にちょっと恨みがあるんだよ…?」


ゆっくりと立ち上がったレラが、冷たい笑顔でエリークを見つめながら冷たく話す。


レラから、ぶわっと赤黒い血のような霊力が迸るのが見えた。ゾクゾクという悪寒が背中を走る。


怪しげに重く喋るレラは物凄く怖い。それを感じているのは自分だけではないようで、エリークを始め女王も大臣も騎士団も恐々とした表情を浮かべている。


「……な、なに!?これは________"石化(カトプレパス)"!?王!何をされるのです!!」


「エリーク。……残念だが、私は何もしていない……。」


目を丸くして下半身から石化していくエリークを見る女王。あぁ。なるほど。


「何ですと!?」


レラのスキルは"模造品(レプリカ)"。武術大会では色々と言われていたが、左目に映した能力を扱えるようになる超恐ろしいスキルだ。


女王は試しに俺等を攻撃していたのだろう。俺が全く気付かなかったがな!


「女王様…。これ以上お戯れになるのなら、僕だって大人しくいられませんよ……?」


怖い怖い怖い怖い怖い怖い!!!レラヤバいよ。このままだと国が潰れる!!よし、わかった!!


卵、羊乳、砂糖……はないから、この際杓子から出す!それらを混ぜた卵液の中に、野牛族産のライ麦パンを浸す。


熱したフライパンにバターを溶かし、浸したパンを両面をを焼く。


ここからが重要だ。弱火にしてじっくりと焼き上げているパンの上に砂糖を乗せ、バーナーで炙る。


一旦取り出して、砂糖と少量の水でカリカリのカラメルソースを作って和えるのも有りだが、個人的には甘くなりすぎないクリームブリュレ方式が好きだ。


カリカリ、ふんわり、じゅわり、もちもち。食感の四重奏を実現するまでには中々苦労するが、努力する価値は充分あると断言しよう。


白いお皿に盛り付け、甘くない生クリームで飾り、ミントを添える。


俺が突然始めた調理に唖然としていた周囲だが、すぐに芳しい香りに喉を鳴らした。


「カーミルさん。良かったらどうぞ?フレンチトーストっていう料理です。」


「え!?あ………れ、ら様?」


「大丈夫だよカーミル。食べてみて?」


「は、はい…。ありがとうございます……。」


見た事のない料理を恐る恐る手に取る。が、すぐにその香りに負けフォークを刺そうとするが、固まったカラメルがカチ、パキッ、という音を出しながら軽く拒む。


抵抗虚しく刺された傷から溢れ出す香りと甘味。香ばしく焼き上げたパンの部分も、また違うカリカリ感を楽しませてくれる。


カラメルに合わせ甘さを控えたトーストと生クリームが次、次、と口に運ばせる事を急かす。


とまぁトリップしている彼女の気持ちを代弁してみたが。


あ、レラも食べてトリップした。あぁ良かった。国家転覆とかになったら大変だしなぁ。



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