スキル
「え?」
「いやだから、戦闘向き職業の人以外は参加出来ないんだって!」
「俺は?」
「だからあんたは料理人だろうが!!」
ジルヴァに話を聞いた翌日、俺とレラとジジイは武術大会に参加するべく、登録をしに来ていた。
テレサ城のすぐ隣にあるコロシアム。東京ドーム1個分ぐらいの大きさのそれの入り口は2つ。その両方にコロシアム参加受付がある。
まさか偽造カードにそんな欠点があったとは!欠点が発覚するのが早すぎる!
パナセアを手に入れる方法その2。武術大会で優勝をし、王族護衛軍と戦う権利を得る。大会優勝の賞品は名誉と武器だが、護衛軍との戦闘に勝利する事が出来れば、テレサ王が直々に望みを叶えてくれるらしい。
王族の倉庫にはパナセアが幾つか保管されている、と言ったジルヴァが続けて不吉な事を口にした。
「王族護衛軍で1番弱い奴でもSSクラスの冒険者と同じような実力で、Lクラスも数人いるって話だ。つまりこの国に勝てる奴はいねぇって事だな。」
ルークがSクラスの冒険者。レジスもそうだった。そしてその二人がギルドでは1番強かったはず。
王族護衛軍はそうやって強者をスカウトし、地盤を固めているのだろうか。
「とにかく!あんたには参加資格はねぇ!大人しく売り子でもしてやがれ!」
参加受付のおっさんはシッシッと追い払うように手を振る。
まさかの事態だな。やはり素材を集めるしかないのか。いや、他の国に行って、その時ステータスカードの内容を変えれば………ダメだ。そもそも他の国が同じような武術大会を開いているとは限らない。
というか優勝出来るか?ルークでも優勝は難しいって話だが。
一応俺の霊力は強いらしいが、封印石のせいで削られている。それでももう絶対にしゃもじを離したくはない。
「ジジイ、ブルーフラワーって出せるか?」
今日は霊力袋と同じく、俺の腰のストラップとなっているジジイに小声で話しかける。
「ブルーフラワーとは獣世界ではありきたりな雑草の花じゃ。普通の『人』じゃと黒漠を超える事すら叶わんがのぉ。」
そうなのか。あの青い草原か。確かに幾つか花が咲いているのがあったな。
「じゃあミスリル鉱石っての……」
「はいよ。レラ=メイベルで参加受付完了だ!試合は3日後、棄権は当日でも受け付ける。」
えぇ~~~~………。レラが出んの?って何で登録してんの?
「武器の使用は原則木剣か、それ以下の攻撃力なものと限定されるがそれさえ守れば何でもありだ、相手に負けを認めさせるか、戦闘不能にする事で勝敗が決する。如何なる理由があろうと、対戦相手を死亡させてしまった場合、3年間の出場停止処分となるので注意してくれ。」
早口で説明をする受け付けのおっちゃん。殺される可能性はあるが、あまり無い事のようだ。
「レラって『人』の基準だと強いほうなのかな?」
「わからんのぉ。…じゃが『愛されし子』でいて、短い間とはいえ野牛族と共に過ごしたからの。まず弱くはなかろうよ。」
そっか。しゃもじがアホみたいに強いからついつい忘れてはいるけど、胡桃さんは獣人の中ではトップクラスに強い剣士だしな。四葉は九尾族で類を見ない才能の持ち主で、このジジイに関しては妖怪の王だ。レラが弱いとは思えない。
「レラ、やれるのか?」
「うん。優勝する自信はないけど、多分良い所まではいけると思う!」
本人もやる気充分か。なら任せてみるのもいいが…
「もしかしたらパナセアが封印石に効くかも、ってお兄ちゃんも思ってるんでしょ?早く出してあげなきゃね、しゃもじ。」
真っ直ぐとキラキラとした目で俺を見るレラ。やめろ。やめてくれ。俺の何かが目覚めてしまうかもしれん。
「その代わり、今日と明日、稽古をつけてねお兄ちゃん。」
早速、と言わんばかりに連れてこられた街の外の草原。稽古かぁ。何をすればいいかわからんが…
「良し!まずは食材を捕ろう!」
「お主、稽古の付け方がわからんからと言ってそんなんじゃ強くはなれんぞい?」
ぐっ…。特訓方法を思い付く間の時間稼ぎをジジイに見透かされてしまった。
「でもさ、俺の料理食うと強くなるんじゃないの!?」
「霊力は、な。元々戦闘技術のある角や胡桃なら強さに直接繋がるが、レラの場合はどうかの?とりあえず力を見せるんじゃレラ。」
レラに目配せをするジジイ、それに頷くレラ。相手を死なせてはいけない大会で、左目の力は使えないくらいはわかるが……
「"獣力開放"!『一つ……」
「あ、ダメ。ダメだよ。それはダメだレラ。レラがその技をやっちゃダメ。引っ込めなさい!」
「!!?」
事もあろうか角の肉体強化の技を覚えてやがった。危ない危ない。ムキムキバリバリのレラなんて誰も求めてないし、あり得ない。
「……野牛族の霊術を使えるのか?」
「え?…うん。里の皆も驚いてた…。」
そりゃそうだろう。こんなにかわいい顔立ちの男の子がいきなりムキムキバリバリになりゃ誰でも驚くわ。
「ふむ。本来野牛族や山熊族しか使えない霊術をレラが使えるのは妙じゃのぉ。」
「これが僕のスキル、って小人さんが言ってたよ。」
スキル。獣人における霊術と似たようなものと考えていいのだろうか。ステータスカードを見る限りでは、『人』によって異なるスキルを持ってそうだが。
「結局スキルってのは、個人が持つ特別な能力って解釈でいいのか?」
「え?あぁ…うん。そうだね。『人』が生活したり、戦ったりする時には結局スキルが1番大事になってきたりするから。」
俺の無知にあまり驚かなくなってきたレラは、スキルは魔法とはやはり違うが、同じく魔力を消費するものだと続けた。
「個人の生命力や精神力に左右されるスキルは、『人』によって違う。って言っても例えば炎を操るようなスキルは一括りに"炎術"とか言われちゃうけど。」
ほほう。じゃあ中には稀有なスキルを使う奴もいるという事か。
「お兄ちゃんの"霊力操作"はかなりのレアスキルでしょ?」
「ん?うん。あーまぁな!」
「僕のスキルもレアだったよ!この間ステータスカードに追加されたんだ!」
そう言いながら嬉しそうにステータスカードを見せてきてくれたレラ。そこには…
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レラ=メイベル
年齢13
出生 リキュウ
職業 『聖騎士』
功績★ アイアンアント100体討伐
称号『神の子』
魔力残『4500/4500』
習得魔法『火中級』『水初級』『風中級』『雷初級』『聖初級』
スキル『模造品』
状態『良好』
装備『ライノタガー』『九尾族の服』
特記『寄生型:神の義肢』
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前に見た時と内容がかなり変わって記されていた。