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猫と杓子がやたら強い。  作者: しゃもじ派
封印と芽生え
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封印と芽生え


「まぁ……その前に後片付けからだけどな。」


何かを思いだし、諦めたように言うクロルクード。


「ん?後片付けなら俺がちゃんとするよ?」


「あー。そうじゃねぇんだわ。ドラゴンってのは報復する生物で…………、ほら。お仲間達はもう感じてるってよ。」


そう言われて改めて周りを見渡すと、確かに皆は遠くを見つめて冷や汗を流していた。


「……ドラゴンの圧力は、霊力のそれとは違う。なぁ、そういえばお前らはどうやってドラゴンを倒したんだ?普通なら触れる事すら叶わないはずだけどな。」


確かに皆今みたいに固まっていた。圧力、ね。俺は感じなかった。


「最後の食事は実に美味じゃったのぉ。今さらになってしまうがの、ありがとうナオトよ。」


…勝手に肩を這い上がって気持ち悪い口調で言ってきたジジイ。


「もういい加減慣れようよ皆。しゃもじがいれば大丈夫だろ?」


「……直人。そのしゃもじがいないのだけど。」


でた!肝心な時にいないあいつの癖!どこいった!!


「獣神様なら先ほどドラゴンの肉を食った時に興奮して、どこかへ飛んでいってしまったじゃろうが!」


あぁいつものね。いつものやつね。わかってるわかってたよ。猫が驚いた時に良くやる垂直飛び。しゃもじの場合は嬉しい時にやる。そして今のしゃもじの垂直飛び記録はきっと大気圏を突破するぐらいだ。


「ドラゴンって強いよなぁ?というか、個体数が少ないイメージなんだけど…」


「個体数は…どうじゃろうな。何せドラゴンを目にして生きていた者が少な過ぎてのぉ。強いというよりはあれは災害じゃ。というかドラゴンすら気遣うのかお主の甘さは…」


「そうか。よし、じゃあクロル。頼んだ!」


「俺か!?起きてるドラゴン相手じゃ時間稼ぎすら出来ねぇぞ!?というか『ブレス』をされたら世界樹すら危ねぇ!」


『ブレス』。まぁ普通に考えて火の息だろう。世界樹が危ないとなると、杓子の本気と同じくらい怖いって事だ。


……ちょっと話をしてみるか。


《同胞に手をかけてしまった事は大変申し訳なく思う。だが、それは獣神のした事。何とか矛を納めてはもらえないか?》


霊力を伸ばしてドラゴンを捕捉。こちらに高速で飛んできているのがわかった。…ダメ元だが霊力から言葉を伝えてみる。


――千里眼――の原理でやっているが、どうやら上手くいっているみたいだ。ドラゴンの姿から羽音、息遣いまで捕捉出来ている。………が


《何か条件があるのならば聞く。どうしたら許してくれるのか?》


……ダメだ返事がない。まだかなり距離はありそうだけど速いからあまり時間もなさそうだ。


そもそもドラゴンに言葉が通じる訳ないか?いや、草の根っこが喋る世界だしな。


「頭がいっぱいあるな…」


ついついドラゴンの特徴が(こぼ)れる。


「多頭竜じゃと!?」

「ヒュドラか!!?」


妖怪と魔族が別々の名を叫ぶ。両方聞いたことがある。


「神殺しの伝説竜。今度こそ獣神様がいたとしても…終わりじゃ…」


ジジイが呟いた言葉はとても不吉なもの。…神殺しだと?


「しゃもじですら危ういのか?」


「神話、と呼ばれる昔話じゃがな。命神(みことのかみ)が手を焼いた八頭の竜を一頭に繋げ、大地の底へと封印したとされておる。その封印を守る者として、神の力を与えた『人』を生んだ。それが『愛されし者』じゃ。

じゃが封印され途方もない年月が過ぎ、徐々に弱るはずじゃった竜に、『人』は自らの霊力を与え、強大な竜の力を借りる事を覚えてしまったのじゃ。」


「竜脈魔法…だね。」


レラが思い付いたかのように話に入り


「魔族が考案した、霊力と気、生命力を混ぜた(かさ)増しじゃ満足出来なくなっちまったんだな。」


クロルが『人』を語る。


「むぅ…人獣大戦に敗れ、『人』を止められなかった我等にも非はあるな。」


角が獣人を代表した。


ここにいる全ての種族が頷くのなら、その神話は真実なのだろう。


「そっか。じゃあ殺そう!」


「直人何言って……!?」


伸ばしていた霊力を具現化。2本の霊力手にし多頭竜の羽を毟り取る。


『ギャァァァァァァアアアアアア』という悲鳴混じりのドラゴンの声を遠くに聞きながら、霊力手でガシリと掴んだ竜を手元に寄せる。


そのまま地面に抑えつけられた8本の長い首を持つ、体長20メートルを優に超す竜。刺々しい体表に、一つ一つの頭には立派な紅いツノが生えている。毟り取った羽も、コウモリのような革張りのような羽だ。


獰猛な黄金の爬虫類の眼は俺を睨み付けてはいるが、霊力手は8本全ての首を束ねるように押さえ付けている。


「おい……。おいっっ!お主いつからそんな霊力の使い方が出来るようになったんじゃ!!」


突然の状況の変化に呆けていたジジイの時間が動き出す。


「いやぁ。しゃもじに危害が及ぶかもしれないんだろ?じゃあ殺すよそりゃあ。」


自分でも不思議なくらい、自然と暴力を振るえる。


「……何なんだこいつは……。何だこの純粋、とも言える殺意は…魔族にだってこんな………」


「なおとーあたらしいめしかー」


いつの間にか戻って来ていたしゃもじが俺の足下に体を擦る。甘えたり、マーキングの為の行動だが、これがまた堪らなくかわいい。


ふわっと俺から殺意が抜け落ちたのを感じた。…新しい飯って。菓子パンマンかおまえは。この竜まで食う気なのか…


バサッバサッという音に振り向くと、俺の霊力手が緩んでいたのか、竜が抜け出し飛び立っていた。あれ?羽?再生したのか??


八つの口を禍々しく開き、紅い光が収束を始める。


……あれ。これはまさか。


「クソがっっ!"ソリッドウォール"!!!!!」


クロルは悪態をつきながらも力強い詠唱で、魔力の壁を作り出していたが、俺の霊力で作るそれより明らかに弱い。


多頭竜が収束させていた光は重なり、煌々と光る。野牛族の里など丸飲みにされそうな大きさだ。


ブレスって火の息とかじゃないのか!?破壊光線だろあれは!


「しゃもじっ!」


「なんだー?」


「狐火で迎撃するしかない!」


「おー」


「狐火!!!」


「おーー?」


いや「おー?」ってキョトン顔するな!かわいいぞ!でもそんな場合じゃないぞ!!


霊力壁を展開するか!?いや野牛族の里まで展開させるには時間が足りなそうだ。


ゴォッ!!という轟音と共に、ブレスはついに放たれた。


周囲が一瞬にして紅く紅く染まる中、俺は見た。


しゃもじが名前の由来でもある、猫アッパーをちょいっとしている所を。


風圧。いやこれは霊圧なのだろう。猫アッパーと共に発現したその霊力の激流は、ドラゴンのブレスの進路を容易に曲げた。


そしてゴゴゴゴゴゴゴ…という音と共に、世界樹の横をかすめていった。…あーぁ。せっかくあそこまで再生させたのに…。


まぁかすめただけみたいだし、また再生させればいい。


いやしかしうちの猫は本当に規格外過ぎる。もう一回猫アッパーをかませぱ多頭竜なんてバラバラになるんじゃないか?




ゴトッ。




何か硬い物が地面に転がるような音。


そこに目を向けると、掌に乗るくらいの綺麗な空色の水晶玉のような石。


「………しゃもじ…………?」


さっきまでここにはしゃもじがいた。


しゃもじを探して辺りを見渡す。先程までは居なかったはずの灰色の鱗が体表を覆う、二足歩行の爬虫類……いや。恐らくは竜の獣人。


その竜人がすぐ近くに立ち、その無機質な黄金の瞳で水晶玉のような石を見つめていた。その口元は少し笑っているようにも見える。


「しゃもじっ!!!」


嫌な感じがする。背筋が凍りつく。俺の叫びはただただ谺する。


「なぁ!四葉!!しゃもじを知らないか?さっきまで俺の足下にいたんだ!!なぁ!!」


四葉は一度だけ息をのみ、水晶玉のような石に縋り付くように詰め寄る。


「封印石……」


レラから言葉が溢れる。


「封印石、じゃと?多頭竜を封印していた神の石か!?」


……そうか。そういう事か。


既に逃げ出していた竜人を、地面を這うように広げた霊力で捕捉。


先程ここに立っていた奴ではない竜人も何人かいるようだ。


縄のように変化させた霊力で縛り付け、次々と俺の前に寄せてくる。


全部で10人。見ただけでは男女の区別はつきそうにない。


「くそっ!もう少しだったのに!」


恐らくはリーダー格であろう先程立っていた少し大柄な竜人の隣にいる奴が悔しがっていた。


どうやら言葉は通じるようだ。


『ギャァァァァァァアアアアアア』と哭く共に、再び八つの口が光を収束させるが


『グチャ』という音を最後に、俺の霊力手に握り潰された。





「さて。お前がリーダーか?これはどういう事だ?」


大柄な竜人を真っ直ぐに睨み付け、努めて冷静に言葉を発する。


「くっ。誤算だった。獣神さえ封印すれば我等の敵はないと思っていたが。まさかヒュドラを易々と殺す程の奴がいるとはな。」


獣神さえ封印すれば。


封印した、のか。


「そうか。何故こんな事をした?」


しゃもじが封印された、という事か?


このただの石ころがしゃもじだと?


「ふん。そんな事言える訳がな『ブチッ』い……!?」


青い血が勢い良く噴き出す。1拍置き、大柄な竜人の隣にいた奴の体だけがドサリと倒れる。


首から上だけを霊力手によって持ち上げられている竜人の顔は、驚愕と恐怖に支配されていた。


「あぁぁあああああああああぁぁぁ!!!!!ブル!ブル!!!!ブル!!!!!!」


大柄な竜人が叫ぶ。











気がつくと、辺りは青い血で染まっていた。


大柄の獣人以外は、折られ、千切られ、裂かれ、刺され、潰され、剥がされ、削られ、抉られていた。


俺の背中には四葉が縋り泣き


レラが俺の袖を懸命に引いていた。


「獣神様が封印された事で、完全にナオトの殺意が芽生えてしまったんじゃ…」


この世の終わりだと思わせるようなジジイの声を最後に


俺は意識を失ってしまった。



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