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猫と杓子がやたら強い。  作者: しゃもじ派
封印と芽生え
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魔物の群れ

気が付くと蔓のような植物が俺の身体に巻き付き、地面から足が浮いていた。


「……ん?……んん??」


「悪りぃな、ちょいと近道とさせてもらう……ぜっっ!」


どんぐり小僧の気合いの入った声とほぼ同時。まるで鞭のようにしなやかな動きで、俺を飛ばす蔓のような植物。


ははっ。空中散歩にも慣れたもんだ。いきなり飛ばされたからって焦ったりなんて事はないのさ!


ほほう。さっき身体に巻き付いてきたあの蔓は、世界樹から伸びてきたものだったのだな。いや何となくわかってはいたけども。


「ぐっっ!だぁっっ!?うぇぇぇえ!」


空中散歩に慣れた所で、上手く着地出来る訳ではない。


冷静になれる事を良いことに、着地姿勢を取ってはみたが、タイミングが掴めず無事に胴体着陸成功だ。


「直人!!」


だが落ち……いや着地した場所は完璧だったようで、野牛族の面々からの視線を浴びつつ、驚いたように声を上げる四葉を見た。


「四葉!どんぐりから聞いた!どうなってる!?」


「……良かった。直人が来てくれて。」


安堵の声を漏らす四葉の目配せにより、視線を移す。


どうやらここは野牛族の里を見下ろせる簡単な高台のようになった場所らしい。


ドーンという音と共に舞った土煙の中に、角の姿がうっすらと見え。


カキンッ!キィン!っという金属音が響く場所には、能力解放された豹双牙の無数の刃が見えた。


―—――—虫だ。


魔物とは要するに『恐ろしく巨大な虫』だ。


羽が生えたムカデ。酸のような唾液を吐き続けながら群体するアリ。凶悪なまでにトゲトゲとしたカブトムシ。見るからに鋭利な顎を持つトンボ、不気味な鱗粉を撒くチョウ等。


その全てが『人』より、野牛族よりも、大きい。


「通常ならばこのように多種な魔物が集まって侵略じみた事はせんのだがの。………恐らく悪魔が絡んどるんじゃろうな。」


俺と視線を同じくしたジジイが虚ろに呟く。


「お兄ちゃんが来てくれたから、霊力を回復しながら僕の目で……≪レラ!≫……って訳にもいかないみたい……えへへ。」


レラが状況を打開すべく出した提案は、すぐに小人さんにより却下されていた。


周囲には多数の幾何学的な紋様の光る円。その上には負傷した野牛族が寝そべっている事から、四葉の霊術による回復だろうと想像できた。


レラが持ってきてくれていた霊力袋から油揚げを取り出した瞬間だ。


四葉の鼻がかわいらしくヒクッと動き、耳と尻尾がピンと伸びた。


「………四葉?」


「………うん。」


軽く俯きながら顔を赤らめながらも、しっかりと油揚げを掴んでいる四葉はこんな状況でもかわいい。


よし!気合い入ったぞ!サクッと片付けてやるとするか!しゃもじが!!!


「いくぞ!しゃもじ!!!」


…………しかしなにもおこらなかった。


やっぱいねぇ!!いつもいねぇあの猫!!どこ行った……って。どんぐりに飛ばされたのって俺だけか。


あぁ……じゃあどうしよう。


「おい!お主!何を諦めとるんじゃ!!早く霊具を開放せんか!」


「いやあ。あれは制御出来ないからな。」


「やかましい!こんな時に使わんでいつ使うんじゃ!薙ぎ払えぇぇぇぇぇ!!!」


昔どこかで聞いたような物騒なセリフを吐くジジイを、レラが制止した。


「ううんおじいちゃん。その必要はないみたいだよ。見て。」


「なんじゃ!?……お…おおう…?確かに必要なさそうじゃなぁ……」


レラがジジイ制止した理由。それはこの状況が好転した事に他ならない。


そしてその好転の理由とは……


「こいやーー!すりつぶしてやんよーー!」


と言いながらも自分で突っ込んで行き、その言葉通り、彼の後には擦り潰れたような虫達の残骸が転がっている。


―――――巨大なしゃもじだ。


なったのだ。この巨大な虫達をおもちゃに出来る大きさに。


梅雨が明けた初夏、細切れにされたムカデが部屋の隅から干からびた状態で見つかる、なんて事はよくあった。


猫と犬と人間は、遊びで他の命を奪う残酷な生き物だ。―――――が、今この状況においてはファインプレーと言える。


「しゃもじがいれば、何にも心配いらなそうだね…。」


「うむ。じゃが…あれは不穏じゃ。」


レラの呟きに答えたジジイが指差した先には(まゆ)があった。


千年樹に寄生するかのような大きな繭。


まるでそこに植樹されたかのように、似つかわしくないそれは、巨大というのも生ぬるい。


あんなのモ〇ラより大きい蛾が出てくるに決まっている。


多く見積もって全長3~4メートルしかない魔物達のボスなのだろう。


その証拠に、繭に近づくにつれ魔物の密度が高くなっている。


とまあ、この辺りは普通に思いつく考えだ。だが俺は別の事が気になっていた。


「直人……まさか……!?」


「お兄ちゃんが、料理人の目に!!?」


戦慄する二人には俺の考えがバレてしまったのだろう。


「あの中身、食えるかな?」






昔から好奇心が行動を支配するタイプだったと思う。


だからこの世界も結構すんなり受け入れたし、それなりに楽しんでいる。


子供の頃に読んだ漫画の主人公が、たき火で焼いたムカデとトカゲを美味いと言って食べていたのを真似た事がある。


調理も知らない時分の事なので、ただただ焼いただけ。意外と火加減が難しく、ムカデなどは一瞬で炭になったりした。


ムカデもトカゲも恐ろしく臭く食えたものじゃなかった。いやもちろんキチンと調理すればそんな事もないのだろうけど。


『幼虫は雑な調理でも美味しく戴ける。』


俺が10歳になる時に出した結論だった。


例えばキャベツについた虫は、濃厚なキャベツの甘味を持っており、栗の中の……「おい!!!正気かお主!!!!!!!!!」


思考の邪魔をしたジジイは俺の肩に乗り、俺の頬をぺちぺちと叩いた。


静まり返った元戦場の中。


様々な虫の体液の耐え難い悪臭の中。


俺がルンルンした気持ちで霊力手でもぎ取った繭を開くと。


中には丸く(うずくま)る、恐らく爬虫類であろうものの姿が見えた。


「………ドラゴンだ!」


俺は無意識にそう呟いて、杓子を大きめの出刃包丁に変えていた。



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