野牛族の里
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レラ=メイベル
年齢12
出生 リキュウ
職業 『※※※』未
功績★ アイアンアント100体討伐
称号『神の子』
魔力残『1800/2000』
習得魔法『火初級』『水初級』
スキル『※※』未
状態『良好』
装備『ライノタガー』『九尾族の服』
特記『寄生型:神の義肢』
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夜も更け、鳥か虫かもわからない奇妙な生物の鳴き声がそこかしこに聞こえる森の手前で、焚き火を囲みながら夕食を取り、レラのステータスカードを見せてもらっていた。
レラ曰く個人情報なので、名前、年齢、職業、功績、罪歴以外の項目は念じる事で隠せるそうだ。
アイアンアントとやらの100体討伐という物騒な功績があるが、『人』基準で考えられている為、罪歴には含まれない。
何らかの罪がある者のステータスカードには罪歴の欄が表示されるので、一目で危険か否かが解るそうだ。
ライノタガーは直訳すればサイの刃だから霊都で買った物で、九尾族の服はそのままなのだが。
「神の義肢って型があるんだな。」
「『人』のする事じゃからのぉ。恐らく死した者から神の義肢を採取し加工しているのじゃろう。」
どの世界でも『人』とは強欲なものらしい。恐ろしい話だ。
「魔法って火と水の両属性を使えるようになるの?霊法なら相反しているものだから、扱える訳がないのだけど。」
四葉が心底不思議そうにレラに訊ねると
「僕もそう聞いてたけど。うーん。わかんない。」
とレラは首を傾げながら答える。
ゲームでは魔法使いが火も水も雷も土も使えていたので、対して気にしてなかった……というか
「ん?俺も使えるぞ?」
「直人は初めから変だもん……。」
四葉に呆れたような目で変だ、と言われた俺は人知れずショックを受けたのだった。
ちなみに今日の夕飯は親子丼である。
『大嘴』という全長1メートル程の鮮やかな朱色の羽根を持つ鷹に似た鳥が胡桃さん目掛け急降下してきたが、特に構える訳でもなく抜刀。次の瞬間には首を無くした大嘴が地面にドサリと落ちていた。涼しい顔して恐ろしいリスである。
その足で森に走って行ったかと思えば、直径1メートル程の鳥の巣を抱えて帰ってきた胡桃さんは
「ナオト!これで旨い物を作れるか!?」
と目をキラキラと輝かせながら、大量の卵が入った鳥の巣を俺に見せてきたので、親子丼を作る事にしたのだ。
ーーーーー親子丼。
簡単な料理という印象が強いこの料理は、事実として手が抜かれる事の多い料理でもある。
まず大嘴のもも肉の皮の面を切らずにフライパンに強火で焼き、時々フライパンを揺すってやる事でフライパンに鳥の脂を行き渡らせる。
鳥の皮がこんがりと狐色になったら一旦鳥を皿に避難させた後、青ネギ、玉ねぎにフライパンに残った鳥の脂を染み込ませるように焼き、一口大に切った鶏肉を加える。酒を加えて軽く混ぜ合わせた後に一度火を止める。
『ここにめんつゆを』とかも簡単でいいのだが、やはり素材を十全に楽しむのならば、醤油と酒と味醂が好ましい。
水:味醂:醤油=2:1:1の割合が俺の好みの味だ。それをフライパンの中に投入し、中火で軽く煮たたせる。
軽く溶いた卵を入れ約30秒。少し卵が固まってきたら火を止めて蓋をして、蒸らす事で完成する。
ポイントはもも肉の皮を始めにこんがりと焼く事。これをサボると「親子丼って鳥の皮がぐにゅっとするのがあまり好きじゃない。」という言葉を聞く事になってしまうし、香ばしさや深みを増す為にもここで手を抜いてはいけないのだ。
やはり野生の鳥である以上肉質は固めだが旨味は強い。卵も鶏とは違い所謂野性味というものがあるが、これはこれで味があるな。
「これなかなかうまいなー」
と満足気にササミを食っているしゃもじだが、グルメと知られる猫は食事に飽きる事がある。
そろそろ別のしゃもじ飯を考えなければ、飯を食いながら尻尾をバシバシという器用な不機嫌アピールをしてくる頃合だ。
キャットフードの場合は胃の負担を鑑みて急に餌を変える事ができない。それも考えなくて済むこの世界はやはり色々と便利じゃないか!
「よう。『花の』。いつ人世界に来たんだ?」
「今しがたじゃ。久しいな『樹の』。……どうやら健やかそうじゃな。」
ーーー朝。
俺が朝食の準備をしていると、拳大のどんぐりに手と足が生え、目と白髭を蓄えた口をくっつけたような生物が、ジジイに話しかけにきていた。
今日の朝食は少し前から仕込んでいたアレである。というか、朝食と言えばコレである。
九尾の里産の巨大豆を空炒りし、霊力でひき割ってから、柔らかくなるまで蒸す。
ジジイ産の米を収穫する際に採れた藁を20分程茹でて、天日で干し、完全に乾かない内に蒸した豆をくるむ。
あとは大体40℃の霊力庫の中で発酵させ、更に熟成させる事で出来上がる。
ーーーーーそう。納豆だ。
「つーかよぉ『花の』、お前『人』なんてこの森に入れようってんじゃねーだろうな?」
「いや、こやつらは安全じゃぞ!儂が保証しよう!」
「信じらんねぇな。……なんか臭ぇしよ。」
臭いだと……?
日本人の叡知その②である納豆を臭いだと……!?
いい感じに納豆菌様が大豆を醸してくださったお陰で、こんなにも美味しそうな納豆に仕上がったというのに!
簡単そうに見えて、上手く作るには物凄く神経を使うこの料理の価値が解らんのか!
「それは確かにそうじゃ!お主は確かに可笑しな男じゃが、よもやその様な腐れた物を食う気じゃあるまいな!?」
「直人……。ごめんね。確かにそれは……ちょっと……。」
「お姉ちゃん早く燃やしちゃってよ!」
「む……そうか?私にはそこまで邪悪な物に思えんのだが。」
流石侍ガールなだけあってか、唯一胡桃さんだけは否定的な意見ではないが、コイツらは何も解っちゃいないらしい。
ジジイに出してもらったネギを加え、ネバネバとかき混ぜながら俺はゆっくりと周囲を見渡す。
「いいかお前ら。特にそこのどんぐり小僧!」
「どんぐ!?……おい、てめぇ。なかなか良い度胸じゃ……」
「うるさい黙れ。これは『納豆』と言って、原料となる大豆の栄養価を十全に得られる万能食であり、俺の故郷が誇る料理なんだよ!第一に腐っているという表現ではなく発酵と言って、これを食う事で………………」
「あ、始まっちゃったね。」
「う……む。料理の事となると儂より小言が多いからのぉ。」
「……唯一、納豆の欠点と言えるべき欠落した栄養価を補う為の先人達の知恵と言えば、そうこれだ。ネギだ。ネギを入れる事によって納豆が放つアンモニア臭を抑えるだけではなく、美味しさも格段に上がり、増してや健康面に置いても………………」
「おい……『花の』……。何か、こいつは大丈夫そうだな……。つーか、あいつ何を言ってんだ?」
「そうじゃよ……『樹の』。こやつは料理と獣神様にしか興味がないんじゃ……。独特の単語を良く使うのでな、儂も良く解らん。」
俺が一頻り納豆の説明を終える頃には、皆はどこかぐったりとした表情で遠くを見つめていた。
よしよし。ちゃんと聞いていたようだな。
「……やっぱり僕はダメだぁ。この匂いがどうしても!」
初心者向けのひきわり納豆でさえも、レラは口に運べずに嘆いていた。
俺は料理を作る身として好き嫌いはやはり勿体ないと思ってしまうが、決して否定する訳ではない。
『好きな物を好きな時に好きなように食う』
それは料理を美味しいと感じる為の原則であり、俺はその為に料理が作れるようになったと言っても過言ではない。
「ふむ。正に珍味、と言った所か?これは良い……が引いた糸が絡んで取れんぞナオト。」
未だにキャラが掴めない胡桃さんの口元、手元、そして服までもベッタベタに納豆の菌糸が絡まっている。……子供か。
ちなみにしゃもじも初めは納豆の香りを嫌ってはいたのだが、今となっては慣れたのか、気にする様子もなく毛繕いをしていた。
「ところでどんぐり小僧。お前はなんだ?」
「なかなか良いじゃねぇかこの刻んだ豆……ってその呼び方やめねぇか!」
「俺の飯勝手に食ってる分際でうるさいぞ。お前だって豆みたいなもんじゃないか。」
「直人直人。ちょっと不敬が過ぎるかも……三大妖精の『樹王』様だよ?」
どんぐり小僧と言い合いをしていると、四葉に背中をぺしぺしと叩かれながら小声でつっこまれてしまう。
最近四葉がつっこみ役としての頭角を表してしたような気がするな。
というかジジイの仲間の妖怪ならば余計に気遣いは不要である。
「大森林に入るのに案内役が必要じゃろう?儂が呼んだんじゃよ。」
「こんな口の利き方を知らねぇ青二才を案内なんぞしたくはねぇがな。……そこの四葉っつったか?あんたがどうしてもって言うにゃーーーーーーーーーーーーー!?」
コロコロと丸いエロどんぐりが言い終わる前に、遊び心に火がついたしゃもじに猫パンチをされ星になってしまった。
まぁ猫は鞠とかそういうの大好きだからなぁ。そんな姿で出てくるのが悪い。
一行は森の中を進む。大きな木々に囲まれた獣道だが、落ち葉に覆われてはいるが、所々地面が露出していて、木の根が這うこともなく歩き易い。
うねうねと根を這わせて進む小木をたまに目にするが、皆気にする様子がないのでこれが普通であり、害はないのであろう。
「獣樹を出した理由?そりゃおめえ、あいつらがそんだけ手強かったって事に決まってんだろう。」
星になったはずのどんぐり小僧は樹王の一つの分身だったようで、すぐに俺らに合流してきた。
要するに世界樹=樹王であり、それの実の一つ一つが樹王の一つの意思からなる分身になりえるとの事。ジジイもそうだが、この世界の妖怪は不死身みたいだな。
「あの世界樹とやらをぶった切れば、お前は死ぬのか?」
「流石いきなり俺をぶっ飛ばした獣神様の『契約者』だなおめえは。物騒な事を言いやがる。……あれを切った所で俺は死なねえ。また若木となって蘇えるさ。」
その辺りは前の世界とあまり変わりはないな。やはり元の大きさに戻るには途方もない時間が必要なんだろう。
「奴等は俺の『手』を少しだっつっても持って行きやがったからな!俺も相応の事をしたまでだ。」
がっはっはと笑いながら獣樹を出した事を説明するどんぐりは、どこか嬉しそうである。
「……殺すまでしなくても良かったんじゃないか?」
「まぁそう言うな直人よ。獣樹召喚の妖法は少し特殊でな?あれは強力じゃが操作が利かんのじゃ。」
俺が怪訝な目をどんぐりに向けると、ジジイが代わりに応えてきた。
「じゃあ余計に!少しの小枝ぐらい分けてやれば良かったじゃないか!!」
「それが出来ねえから殺すんだよ青二才が。『人』に俺の欠片を持って何かしでかした時に責任とれねぇからな。」
あくまでも冷静にそうしなければ、と応えるどんぐりは何処か寂しそうにも感じる。
「本来妖精は皆『共存』を望んでおるんじゃ…。『樹の』も儂もじゃが、やはり骨のある『人』に出会うと心が躍るわい。」
「だな。おめえは俺らの敵になったりすんじゃねえぞ。そこの小僧もな。…ま、余計な心配だろうがな。」
遠くで動く小木を追い回しているしゃもじを見ながら静かに語るどんぐり。
これ以上の問答は意味のないものだと理解が出来る。…というかしゃもじが自然を脅かしているが、あれはいいのか??
「妖精が気に入る。それってつまり心が綺麗って事なんだよ直人。」
ふわっとした笑顔でしめた四葉のおかげで、少し荒んだ心が和らぐのを感じる。
この世界に来て良かったーーーーーとさえ感じる笑顔だ。たまらんな。
そんな会話をしながら休み休み歩く事3日。ついに野牛族の里に辿り着いたのだった。




