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猫と杓子がやたら強い。  作者: しゃもじ派
食の神 プウ
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対岸

明らかな人工物の木の台を目指して湖畔を歩き出す。


遠目から見てだが、青い草と赤・黄・紫の花は、葉の形が異なっており、どうやら別の植物のようだ。


例外無く鳥の頭のような形をしている花は、乏しい知識の俺をヒヤリとさせた。


昔映画で観た引っこ抜いたら致死性の呪いを叫ぶ植物とかもいるかもしれないしね。


明らかな人工物である木製の台に近付くと、上に果実や肉が乗っているように見えた。


やはり湖の神か何かに供物を捧げる台のようだ。


ちょっとした高台になっていて、地面に木を打ち付けただけの3段だけの階段がある。


台から階段を経て、ツル草の森に向かって、不自然に草の生えていない、地面が露出した1メートルほどの幅の道が伸びている。これに沿って歩けば、人里に辿り着くのだろうか。


再び台に視線を戻すと、さっきまで隣に居たハズのしゃもじが台に乗っていた。いつの間に!?速すぎるだろ!!


「しゃもじ!それ他人のだからダメだよ!!怒られちゃうよ!?」


俺が少し声を荒げて言うと「たべてもいー?」と返ってきた。


いやダメだってば……。しゃもじを掴まえる為に階段を飛ばして上がった先で見たものに俺は驚愕する。


「たべてもいー?」は俺に言った訳じゃなかったのだ。


台の上には色とりどりの果実のような物と、食べ掛けの鶏の丸焼きやポークリブのようなものがあった。……もう食ってんじゃねぇか!


果実のような物には手をつけてない。流石肉食獣だ。


とりあえず油分や塩分が多そうなので肉類を取り上げる。「猫は自分で食えるか食えないか判断する」とか言ってる奴が良くいるが、それは大間違いだからな!!


「めしぃぃぃー…。」


しゃもじの可愛らしい嘆きも、とりあえずどうでもいい。


台の真ん中、幾つかの食料に囲まれる形で人が寝かされているのだ。


四肢をツル草で作ったロープのようなもので縛られた、純白な和服のような造りの服を纏った女性。金糸のように輝く髪の中から、三角に尖ったやはり金糸のような毛に包まれた耳が、人より明らかに上の位置にある。


所謂いわゆる『獣人』という所だろうか。今の所、耳以外人との相違点は見られない。犬とか狐系な耳だし、肉球あるかな…?


「おーい。」


返事はない。死んで……はなさそうだ。血色が良い。寝ているというよりも、意識を失っているようにも見える。


「しゃもじ。この人誰?」


「しるかー。さっきからいたー。めしはー?」


だよね!知っている訳がないよね!……待て待て。これはチャンスだ。肉球を確認しよう。


「おれのめしー。」


お前のでは断じてないが!!


少しだけつまんでみたが、腐ってもないし、塩分も入っていないらしい。


茹でられたり、焼かれたりする事で油分も充分抜いてあるし、うるさいのでしゃもじに肉類を食わせてつつ、女性の足の方に頭を傾けて確認する。


……変態っぽい?知らない。好奇心に勝るものはない。


足の指の腹に5つ、丸く柔らかそうな肉球があったので、軽くテンションが上がる。ファンタジーじゃないか!!


指先にあるのは肉食獣のカギ爪だ。後は触るだけだが、本格的に犯罪の香りが漂うので流石に躊躇ためらった。


「ねぇ!おーい!起きてー!」


肩に手を乗せて軽く揺さぶるが、全く起きる気配がない。


「おっきろー!」


肉を食べ終わったしゃもじが参加して足の親指に噛みつく。あぁ…肉球…。いいなぁ猫は。


「うぅ……。」


起きそうだ。とりあえず杓子を小刀に変えてロープを切っておいた。


目を見開いて、ガバッと上体を起き上げた女性。美人さんだ。


年の頃は20代前半。陽の光に当てられた白い着物がしなやかな肢体を映している。若干垂れた目は然程さほど大きくはなく、その奥の髪色に近い瞳が輝き、あまり強調しない鼻と唇が、大和撫子という言葉を思い出させる。金色の髪の大和撫子は『男』を掻き立てるような妖艶さを備えていた。


「ここへ踏み入れてはいけない!」


俺が見とれている女性が眉を寄せて叫ぶ。やがて自分が縛られていない事に気付いた上で、辺りの食物が荒らされている事にも気付いた。


「これは…貴方が!?」


いきなり怒られて、たじろぎながら女性を見つめる俺。そして何となく両手を肩まで上げて頷く。やはりただ事じゃないもんな、こんな所に縛られるなんて。


「何て事を!!水竜様が御怒りになられてしまう…。」


概ね予想通りの反応だ。多分水竜への生贄いけにえとしてこの女性が此処に居るのだろうか?


水竜様とはまた心当たりがある名前なのが厄介だ。


「水竜様とは…?」


「でっかいのー?うまかったー!」


「バカっっ!!しゃもじ黙ってなさい!!」


しゃもじ…お前は。読むべき空気も食っちまったのかお前は!?


「美味かった…?え…?この精霊は…?」


今気付いた、と言わんばかりにしゃもじに目をやる女性。やはりしゃもじはこっちの世界の人には一目で精霊に見えるのか。


という事は、生物としての猫は居ないのかな?寂しい世界だぜ!


獣神じゅうしん様…?」


じゅうしん?……重心?銃身?重臣?……いやぁ獣神だろうなぁ。


って、いきなり何を言ってるんだこの女!こんなかわいらしい獣神が居てたまるか!!


確かに獣神ってライオンとか虎を模される場合が多いけども!!


確かにうちの猫はこの世界に来てブレイクしているけども!!どうやら物凄い強いらしいけども!!


……え?


……獣神なの………?


そもそも獣神っていうと?えーと、獣の神?猫が?


臆病だし、食欲強いし、わがままだし、気まぐれだし、炊きたて御飯をかき混ぜるような手の動きをするうちの猫が?


いやいやいやいやいやいやいや。そんな訳ないだろ。


大体仮に獣神だったとしても、何でうちの猫を一目見て解るんだよ。


姿形が伝承になってるとか?食の神の加護でそうなったとか!?


いやでも、あのでかいつる草なぎ倒したり、水面を少しかいただけで津波が起きたり……。


……え?獣神?


うちの猫が…………?

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