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猫と杓子がやたら強い。  作者: しゃもじ派
食神と獣神と死神
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手合わせ

「場所は草原でよろしいですか?」


では早速、と言うように稲実が移動を提案すると


「あ……行かれるのですか?私も、あぁ!でも!」


何故か獣王が焦りだした。


「別にまりちゃんは行かなくても良いんじゃない?」


そう言うたまちゃんは移動に備えて、大皿に乗ったニンジンシリシリをお椀に移している。


……持って行く気か。


「あぁ!ズルいよたまちゃん!私のも用意して!」


「あはは。そのつもり~。面白そうだもんね。」


未だ大量に余ったニンジン料理が食べたい。が、手合わせも見たい。


そんな焦りか。緊張感ねぇな!


その大量のニンジン料理を作るのに、俺が切った緑色のニンジンは58本。



くっ。今更になって腕の疲れが出始めたぜ。


今から手合わせだっていうのによ。


「お主よもやとは思うが、料理で疲れたから手合わせ出来んとは言わんよな?」


腕を労る俺の様子をジジイが察したらしい。


「だって!俺戦闘経験ないし!」


「なおとーおれにまかせろー」



「しゃもじに任せたら霊都ごと吹き飛びそうだし!!」


胡桃さんを見る限り可愛らしい背の低い女性なので、然程強いようには感じないけど。


にやりと笑いながら呟いていた。


「久々に……全力が出せそうだ……。」


「ほら好戦的な笑みを浮かべちゃってるよ!!怖い怖い!!」


「お主は可笑しな奴じゃのぉ。膨大な霊力を有しておるのに。」


よくよく考えたら千里眼しか霊法使った事ないし。


じゃあ霊力手で戦う?いやいやあれはあれで感覚が通っているから、切り裂かれたら多分もの凄い痛いはず。


火とか氷とか具現化させる?いや下手したら死んじゃうよねリスの姉ちゃん!


八方塞がりだ……。


「お父様にも勝った直人なら大丈夫だよね。がんばってね!」


「任せとけ。」


「お兄ちゃん……。」


何だよレラ!!男には格好つけなきゃいけない時があるんだよ!


四葉みたいな美人さんにキラキラした目で見られたら従うしかねぇだろうが!!









氷兎(ひょうと)。出ておいでなさい。」


「まう~~!!」


霊都から少し離れた所に広がる草原。俺と胡桃さんが数メートル距離を空けて向かい合う。


ギャラリーは、まりちゃん、たまちゃん、大隈、四葉、レラ、ジジイ。


稲実は宰相としての仕事、主に呪い騒ぎの後片付けと、聖域を奪われていた場合の対処の準備をするとかで、城に残った。


忠太に関してはとりあえず見よう見まねで作ってみるように指示をしておいた。


「壁の展開を。」


「まうまう~~!」


氷兎と呼ばれた獣王の契約精霊は、たまちゃんと同じ雪兎。ただ雪乃よりは一回り大きく、色も青みがかっている。


氷兎が可愛らしく鳴くと、厚さ1メートル、高さが3メートル程の透明度の高いガラスの様な氷の壁が、ギャラリーを取り囲むように展開された。


……寒そうだ。


氷の壁の外側にいるのは、俺としゃもじと大隈、胡桃さん。


大隈が立ち会いをしてくれるそうだ。


「なにするんだー?」


「あの子と闘うんだってさ。」


「たたかう。おもちゃにしていいってことかー?」


とんでもなく危険な事を言い出したしゃもじはとりあえず放っておいて。


「手合わせってどうすればいいんだ?」


「ん?あぁ。お前は『人』だったな。相手が用意した物、まぁ大概は丸太や岩だが。それに技をぶつけて威嚇し合うんだ。」


あらやだ平和!良かったぁ。やっぱり傷付け合うとかは無しでいきたいしね。


「『契約者』の場合は、精霊が技を受けるのが基本だ。精霊は怪我をせんしな。」


「そんなんさせられる訳ねぇだろうが!」


つい怒鳴ってしまった。何をバカな事を言い出すんだこの熊さんは。


悪魔を切り殺せた杓子も、豹双牙と同じく高い霊力が込められた道具。


それはつまり胡桃さんの技が、しゃもじに届いてしまうかもしれないという事だ。


うちの猫は俺が守る!!


「なおとねていいかー?」


ほらうちの猫様はこんな事を言ってらっしゃるだろう。猫とは寝子だ。1日の大半は寝ているもんなんだ。


虎伏術だか何だが知らんがドンと来いや!!


「獣神様の力を借りぬと申すか。」


「まぁね。それは俺が許せない。」


「然らば貴公のその霊力で何かを象る、と?」


「そうさせてもらおうかな。」


とりあえずしゃもじは獣王の契約精霊が作った壁の中に避難させて。


四葉にしゃもじを抱いておいてもらいながら、ある事を思い出した。



再び胡桃さんと向き合うと、にやりと好戦的な笑みを浮かべた胡桃さんが、刀を地面に突き刺していた。


そしてその刀を地面を抉るように抜くというのを数回繰り返すと、地面から頭を出したモグラのような形の土山が出来ていた。


モグラにしては大き過ぎるが。4メートル程の高さ、幅は2メートル程であろうか。


どうなってるんだ。あんな細い刀で土を持ち上げるとか。


「剣技、土竜(どりゅう)。さぁ貴公の技を見せてもらおう。」



これに技をぶつけるのか。とはいえ技等持ってない俺は、土壁に霊力手を伸ばし、デコピンで爆散させた。


「え?あ……え?何をしたのだ?」


「霊力で手を作って、崩しただけ。」


目を丸くして驚く胡桃さんに、右手でデコピンを空振りさせながら説明する。


「そうか。霊力に圧倒的な差があると視認出来ぬと聞いてはいたが。これが……」


「まぁまぁ。次は俺の番だね。」


――矮小なる我の霊力を糧に九尾の名の根源たるその力の片鱗を貸し与えよ――


――紅蓮炎壁――


俺の目の前、約2メートル程前方から炎の壁が出現する。


出来て良かった。もしこれで出来なかったら恥ずかし過ぎて死ねる所だ。両手を開いて前に突き出しているし。


ゴォゴォと音を立てる炎の壁は高さは4メートル、幅6メートル程。


やっぱり自分の霊力だからか、調節も思う通りに出来るみたいだ。


「霊力は見えなくとも、発現した霊法なら見える……と。」


「そうみたいだね。特に具現化している訳じゃないんだ。」


「何と。霊力の具現化まで出来ると申すか。」


まぁ会話よりも出来れば早くして欲しいかな。


格好つけて手とか前に突き出しちゃったもんだから、ちょっと手が疲れてきたんだよね。


と思っていると、胡桃さんが身を伏せた。


虎の様に、とまでは言わないが、半歩後ろに下がったまま身を屈め、脚に力が入りやすいように構える。


陸上競技の、クラウチングスタートに近い。がそれよりもずっとしなやかだ。


トンっという軽やかだが、決して小さくない音で地面を蹴り、炎に向かって跳躍。と同時に腰に下がっていた刀を左手に取り。


左手を頭の上に持っていき、体を少しだけひねりながら、抜刀。その流れのまま左下へと刀を降り下ろすと。


炎の壁の右上から、左下へと4本の湾曲した線が走り、バランスが崩れて、炎は霧散してしまう。


炎を『切った』。そんな表現が正しいだろう。


「虎伏術、『(そう)』。」


スタっと着地した胡桃さんが、刀を鞘に納ながら呟く。


一瞬の早業だった。人間の技じゃない。……人間じゃないんだが。


刀を一回しか振り下ろしていないのに、猫の爪痕みたいな4本線が入ったのはどんな仕掛けだ?


まさかまた『固有霊術』とか言うんじゃないよな?




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